食い逃げカフェにようこそ!

31to73

第1話 起

 「あんた。ずっとヒマなんだからバイトでもしなさい。あんたにぴったりなバイト見つけてきたから」

 母さんに見せられたスマホの画面には『食い逃げカフェ』と書かれていた。実の息子をどういう目で見てるんだアンタ。断ろうと思ったけど食費や家賃を持ち出されると困る。面接くらいは行っておこう。こういう時、学生は非常に弱い。電話をして週末の土曜日に面接をすることになった。


 土曜日。雑居ビル4階に食い逃げカフェと書かれた喫茶店があった。面接の時間5分前。俺はカフェに入って面接しに来た旨を伝えるとレジのお姉さんにキッチンの奥の部屋に通される。通された部屋は...どう見ても取調室にしか見えなかった。ドラマでしか見たことないけど、すげーリアル。取調室に座っていたエリートサラリーマン風の男が席を立つ。胸の名札には店長と書かれていた。

 「よく来たね。まぁ座って」

「あ、はい」

「履歴書見せて」

「あ、どうぞ」

 促されるままにする。内装もあって、めちゃくちゃ緊張していた。

「では自己紹介おねがいします」

「はい。速司翔吾はやししょうごと言います。17歳、高校2年生です」

「どうしてウチにバイトしようと思ったの?」

「はい。部活を辞めて時間があったので社会経験を積もうと思って志望しました。体力には自信があります」

 想定内の質問は問題なく答えられる。

「部活やってたんだ。あ、趣味・特技欄に書いてあるね。ハードル走か。いいね、採用。ウチって来たことってある?まぁないよね。説明するね。あ、ここで言ったことは友達とかSNSとかで言ったらダメだよ」

 部活を辞めた理由を聞かれるかと思ったけど聞かれなくてほっと一息つく。思い出したくない記憶だ。

 「営業は土日のみ。基本的には普通のカフェ。普通と違うところはチャージ料、いわゆる席料があること。それと食い逃げをコンセプトにしていること」

 言いながらメニュー表を見せてくれる。右下に他とテイストの違うメニューがあった。韋駄天サンドイッチ。¥20,000-。2万円!?いち、じゅう、ひゃく、せん、まん...2万円だ。15時間働いた給料と同じくらいの値段のメニューがある。カフェなのに。

「それが食い逃げ専用メニュー。それを頼んだお客様は食い逃げしてもいい。我々はもちろん追いかける。追いかけっこの始まりだね。もちろん逃げ切ったら代金は無料。食い逃げだからね」

「捕まったらどうなるんですか?」

「警察にふんしたうちの女性スタッフから取り調べを受けることになる。値段が高額なのはそのサービス料がほとんど。そして、ここはそのための部屋ってわけ」

 なるほど。それで取調室っぽいのか。納得した。

「君にはホールスタッフをやりながら食い逃げ犯を追いかける仕事をしてほしいんだ。期待してるよ」

 こうして俺はアルバイトを始めることになった。

「あ、そうだ。そっちから何か質問ある?」

「そうですね...」

 少し考えて尋ねる。

「どうして食い逃げカフェなんてやろうと思ったんですか?」

 答えはすぐ返ってきた。

「食い逃げってやってみたいでしょ。普通に」

 当たり前でしょって顔しないでほしい。食い逃げは犯罪ですよ。

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