第25話 種籾の奇跡
「俺はマエルにこの種を育ててもらう依頼をしたんですが、1人だと無理すると思うので、タゴサクさんも手伝ってもらえますか?」
クルスがそう言ってタゴサクに見せたのは、種籾が入った袋。
マエルを抱いたまま、前世の記憶を持たない男は、差し出された袋の中を覗き込む。
「……これは……」
袋の中にある物を見た途端、感情が溢れるようにタゴサクの頬を涙が伝う。
知らない筈の遠い昔のこと、日本での記憶が蘇った瞬間だった。
「オラぁ、これが何か知ってる……。オラが今と違う姿だった頃……ここと違う村で育てていた作物だぁ……」
止め処なく流れ続ける涙を拭うことも忘れて、タゴサクは呟く。
その腕に抱かれたままのマエルが、驚いて尻尾を膨らませた。
「……あの子が、ずっと護ってくれた【稲】……。あの子はあんなに頑張ってくれたのに……」
悲痛な表情に変わる男の脳内には、思い出す筈の無い過去の映像が浮かんでいた。
マエルは困惑気味にタゴサクを見つめている。
「あぁトラ! ワシはあの子を独りにして逝ってしもうた!」
遂に号泣し始めるタゴサクの口調が、老人のように変わる。
縋るように抱き締められたマエルが、驚愕の表情で固まった。
「……うぅ……すまねぇ……トラ……トラぁ……」
タゴサクの号泣が、むせび泣きに変わる。
固まっていたマエルは、フッと身体の力を抜くと一筋の涙を流した。
マエルはそっと両手をのばして、懐かしい人を抱き締め返す。
「大丈夫、トラはここにいるよ……」
本来はこの世界に無い筈の【米】。
クルスが持ち込んだ種籾は、タゴサクに本来は無い筈の記憶を呼び覚ました。
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