お誕生日にファンアートを。
ぽてち
お誕生日にファンアートを。
板タブに走らせていたペンを置いて、私は思わず唸り声を上げた。
目の前のPCには我が推しがお誕生日ケーキを持って笑うイラストが映し出されている。
今の時刻は午後11時過ぎ。あと数十分後には推しの誕生日が迫っている。なのにそのお誕生日を祝うためのファンアートがなかなか完成しないのだ。
絵を描き上げてすぐは上手く描けたと思っても、一晩置いて見返せば夜中に作業したとき特有のハイテンションから目が醒め、もっと上手く描けたような気がしてくる。
線画が細過ぎるな、とか。パースが狂っているな、とか。自分の絵柄にアニメ塗りが馴染んでいないな、とか。気に食わないところが次から次に出てきて、そこを直せば別の気になるポイントが出てきて……そしてまた描き直すの繰り返し。それがここ一ヶ月くらいの私のルーティンと化していた。
自分の絵心のなさが嫌になる。私の推しはもっと可愛いはずなのに! もっと上手く描けたら……。
そんなふうにああでもないこうでもないと試行錯誤しているうちに、いつの間にか深夜0時を回って、推しの誕生日当日になっていた。
もう他のファン達はお祝い用のイラストをSNSにアップしているはずだ。スマホを手に取り、アプリを開くと、ハッシュタグ付きで推しの名と共に“生誕祭”という言葉がトレンド入りしていた。
画面をスクロールすると、推しが活躍した名シーンが散りばめられたファンアートが最初に目に飛び込んできた。他にも好きな物に囲まれた笑顔の推しだったり、イラストだけではなくお祝いメッセージやケーキと一緒に映るぬいの写真もアップされていた。
見ているだけで胸の奥が温かくなる。自分が祝われているわけでもないのに、自分のことのように嬉しくて、焦っていた気持ちが少しずつ解けていった。
年齢も性別も暮らす場所も違う人達が、千差万別の方法で、これでもかと推しへの“愛”を伝えていた。
──夜なのに、なんだか目が醒めた気がする。
上手く描こうとするよりもまず、推しの誕生日を祝いたいというその気持ちが大切なんだ! 夜中に作業したとき特有のハイテンションな情熱が再び蘇ってきて、もう一度PCに向き合った私は板タブにペンを走らせた。
ファンアートを完成させ、その勢いに身を任せたまま、SNSにイラストをアップする。
推しの一年が今年も最高に幸せであることを願いながら。
お誕生日にファンアートを。 ぽてち @n7d15ael21u
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