転生したら不遇職のネクロマンサー? いいえ、死者と生者が笑い合う「終わらない楽園」を建国します

ミル

【第1部:建国の産声】

第1章:最弱(?)職と毒舌管理官

第1話:深夜の裏庭で、俺は「孤独の終わり」を拾う

「早く帰って、クロと新作ゲームしよーっと」


放課後のチャイムが鳴り響く教室。俺、相川瑞稀(あいかわみずき)は、クラスメイトたちが部活だのカラオケだのと騒ぎ出すのを尻目に、音速でカバンを掴んだ。 目指すは我が家。あそこには、俺を待っている相棒がいる。


「瑞稀、今日は一段と必死だな。廊下で女子にぶつかりそうになって、変な踊りみたいなステップで避けてたぞ」


耳元で、少し冷たい風が吹くような声がした。 俺の視界の隅で、ふわりと浮いている『黒い塊』。バレーボールを一回り小さくしたような、輪郭がぼやけた影――。 こいつが俺の唯一の親友、クロだ。


「……見てたのかよ。あれは反射神経が良いって褒めてほしいところだね」 「いや、キモいステップだったぞ。女子が『え、何あの動き……』って引いてたからな。ドンマイ」 「うるせぇ。いいんだよ、俺には二次元とクロがいれば」


俺は「変な奴」だ。 小さい頃から、何もない空間に向かって話しかけている。周りから見れば、ただの不気味な独り言。でも、俺には確かな手応えがあった。 クロは、親が仕事でほとんど帰ってこない静まり返った家の中で、ずっと俺の話し相手になってくれた。


趣味はフィギュア集めとゲーム。いわゆるヲタクだ。 女子とまともに話したこと? 母ちゃん以外に記憶がない。 でも、クロに鍛えられたせいか、運動神経だけは無駄に良い。学校の体育では目立たないように手を抜いているが、ギリギリ「クラスの端っこにいる器用な奴」というポジションを維持している。


「さて、今日はどのクエストに行く?」 いつもの居間。コントローラーを握ると、クロが隣で楽しそうに影を揺らした。 「素材集めかな。ギルドの雑務を片付けてから、酒場で――」


ゲームの中の俺は、最強の戦士でも魔法使いでもない。 仲間を集めて、街を作り、わちゃわちゃと暮らすシミュレーション要素が大好きだった。 現実では手に入らない「居場所」を、俺は画面の中に求めていたのかもしれない。


そんな俺の胸の内を見透かしたように、クロがぽつりと言った。


「――あ、そういえばさ。昨日ゲームで獲得した『レアな古文書』にそっくりなやつ。瑞稀ん家の裏に落ちてたぜ」


「……は?」 俺は思わずコントローラーを置いた。 「何それ。近所の誰かの落とし物か?」 「いや、なんかこう……空から降ってきたっていうか。とにかく見てこいよ。絶対お前、好きだぜ」


クロの言葉に促され、俺は勝手口から裏庭に出た。 雑草の茂る庭の隅――そこに、それはあった。


『冥刻の導記(めいこくのどうき)』。 革の表紙は古びていて、中央には銀色の紋章が刻まれている。 手に取った瞬間、指先からジリジリとした熱い感触が伝わってくる。


「なんだこれ……マジで本物っぽい」 「だろ? 開いてみようぜ。面白いことが起きる予感がするんだ」


俺は本を抱えて部屋に戻り、机の上に置いた。 表紙をめくると、あるページを開いた瞬間――視界が青白く染まった。


【緊急クエスト:世界の理を選択してください】 『汝は、なにを望む?』


「――俺は」 俺は迷わなかった。 「クロと……いつも一緒にいてくれるコイツと、楽しく笑い合って暮らしたい。みんなが居場所を持てる、そんな場所が欲しい」


孤独だった俺の、切実な願い。 瞬間、本が猛烈な勢いでページをめくり、最後の一頁で止まった。


《――承認されました。適格者:相川瑞稀。固有スキル**【魂の開拓者(ネクロマンサー)】**を付与》 《世界を再構成(トランスレート)します。新天地:エターナリアへようこそ》


「え、ちょっ――」 体が浮き上がる。 足元の床が消え、意識は深い闇へと沈んでいった。


「……う、ん」 頬を撫でる、湿った風。鳥のさえずりと、草木の匂い。


「起きたか、主様(マスター)。……というか、寝顔がブサイクすぎて、危うく放置して帰るところでしたよ」


聞き覚えのない、癪に触る「女の声」で目が覚めた。 そこは見上げるような巨木が立ち並ぶ森の中。 そして俺の目の前には、空中に浮かぶ、ゴシック調のドレスを着た小さな人形のような女の子がいた。


「……誰、お姉さん?」 「お姉さんではありません。あなたの案内役、**『管理官モルティ』**とお呼びなさい」


モルティは退屈そうに空中を旋回しながら、俺を見下ろした。 「というか、その顔……。前の世界よりはマシになりましたが、中身が透けて見えて残念ですね」


「えっ、顔!?」 俺は慌てて近くの泉へ駆け寄った。 水面に映ったのは――緑がかった銀髪に、宝石のようなターコイズブルーの瞳を持つ、超絶イケメンだった。 元の冴えないヲタクの面影は、どこにもない。


「……誰だよ、これ! ……いや、それよりモルティ。ここはどこだ? 俺の体はどうなってる?」


「ここはエターナリア。あなたが願った『楽園』を創るための地です。あなたの体は、ネクロマンサーとしての魔力を受け入れるために再構成されました」


「……ちょっと待て。いま、ネクロマンサーって言ったか?」


俺は思わず聞き返した。 ゲームの知識ならある。ネクロマンサーってのは、死体をゾンビにして操る、暗くて陰湿で、だいたい悪役がやってる不遇な職業だろ?


「俺が願ったのは『笑い合える楽園』だぞ? なんで死体をこねくり回すような職業なんだよ。もっとこう、聖騎士とか、勇者とかあっただろ!」


「やれやれ、これだから素人は。死者を操るということは、魂の根源を扱うということ。生者も死者も等しく笑い合える場所を創るには、死の淵を管理するこの力こそが最適なのです。……まあ、この世界でも『気味が悪い不遇職』として忌み嫌われてはいますけど」


モルティはケラケラと笑う。 そんな俺たちのやり取りを、足元で呆然と見ていたクロが声を上げた。


「……おい瑞稀、このおチビちゃん、誰だよ。お前の新しい女か?」


「……あ」 俺はハッとして、辺りを見渡した。


「……モルティ。お前、いま、クロのこと見たよな? こいつが見えるのか?」


「何を当たり前のことを。その、不愉快なほどに中途半端な霊体なら、バッチリ見えてますよ」


「……まじか」 俺は少しだけ、期待を込めて聞いた。 「じゃあ、この世界の人たちには、クロが見えるようになるのか?」


「いいえ? あなたの固有スキル『ネクロマンサー』の影響で、あなたは霊体と接触できますが、普通の人間には見えもしませんし、触れもしません。私が見えるのは、私があなたのシステムの管理官だからですよ」


モルティはあっさりとそう告げた。 ……なんだ、結局前の世界と同じか。 いや、でも。


「……そっか。まあ、いいや」 俺は隣で「おチビ言うな!」とモルティに怒鳴り散らしている(でも無視されている)クロを見て、少しだけ笑った。 誰に見えなくても、こいつがそこにいて、そして俺以外の誰か(モルティ)がそれを認識してくれている。 それだけで、この不条理な転生を少しだけ受け入れられそうな気がした。


「感動に浸っているところ申し訳ありませんが、主様。さっそく最初の『お仕事』です。あそこに、あなたを歓迎しに来た『お客様』がいますよ」


モルティが指差した先。 茂みをかき分けて現れたのは、三匹の巨大なスライム。 ドロドロとした粘液からは腐敗した臭いが漂い、中には動物の骨が取り込まれている。


「……スライム? なんかデカくない?」


「野生のスライムは、死体を取り込んで成長する立派な捕食者です。今のひ弱なあなたなら、三秒で消化されて骨格標本の仲間入りですね」


「やってやるよ! クロ、俺を信じてくれ!」 「おう、瑞稀! ……って、お前、武器は持ってないのかよ!?」


「……あ」 そうだ。イケメンにはなったけど、俺、丸腰じゃん。


俺は慌てて腰のベルトにある本、**『冥刻の導記』**を手に取った。 ネクロマンサー。不遇職。 上等だ。死体だろうが霊体だろうが、俺が全部まとめて「楽園」の住人にしてやる。


「いくぞ――『魂魄共鳴(アニマ・ソニティ)』!」


ターコイズブルーの閃光が、森の静寂を切り裂いた。


【今話の管理官モルティ:翻訳ログ】

モルティ: 「主様、あのスライムたち、『えっ、あのイケメン、見た目だけで中身スカスカじゃん。食べやすそう』って相談してますよ。……全く、見る目だけはあるモンスターたちですね」


ログ: 《翻訳:スライムAの思考『……骨。あの長い脚の骨、欲しい。俺のコレクションに加えたい』》


モルティ: 「だそうです。主様、骨を奪われる前に、少しはマシな戦いを見せてくださいね?」


(第2話へ続く)

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2026年1月2日 19:00
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