俺を振った元カノが輝きまくっているので呪うことにした
茶電子素
第1話 別れた直後に元カノが輝きはじめた
別れ話を切り出されたのは昨日の夕方だった。
駅前のカフェで、元カノ――
いや、当時はまだ現役だった彼女、
まるで天気予報でも読み上げるみたいな口調で言った。
「ごめん、悠真。もう無理だと思う」
その瞬間、俺――
何かがパキッと音を立てて折れた。
折れたのは心か、プライドか、あるいは俺の未来予想図か。
どれでもいい。とにかく折れた。
そして今日。
俺は大学の中庭で、ひよりが友達に囲まれて笑っているのを見てしまった。
……いや、笑っているだけならまだいい。
輝いていた。物理的に。
太陽光の反射とかじゃない。
あれはもう後光だ。
悟りを開いた僧侶でも、あんなに眩しくはならない。
「あいつ、なんで別れた直後にレベルアップしてんだよ……」
俺は木陰にしゃがみ込みスマホを握りしめた。
胸の奥がじりじりと焼けるように痛い。
嫉妬か、後悔か、あるいは胃酸過多か。
どれでもいい――どうせ全部苦痛だ。
そんな俺の視界に、ふと広告が飛び込んできた。
『ネットで学べる!誰でも今日から陰陽師!』
……いや、待て。待て待て。
俺は今、心が弱っている。
こういう怪しい広告に引っかかるタイプではない。
冷静になれ、相川悠真。お前は理性的な男じゃないか。
そう思ったのに気づけば俺の指は広告をタップしていた。
サイトの内容は想像以上に雑だった。
「呪いは“念”が大事!」
「紙とペンがあればOK!」
「伝説の陰陽師も最初は素人!」
文章の端々から漂う“小中学生の自由研究”感。
しかし、今の俺には妙に刺さる。
(……いや……でも、別れた直後にあんなに輝くのはおかしいだろ。なんか裏があるに決まってる)
俺は自分に言い訳しながら紙とペンを取り出した。
そして、サイトに載っていた“簡単にできる呪符の書き方”を
見様見真似で書き始める。
紙に向かってペンを走らせる俺の姿は、傍から見れば完全に怪しい大学生だろう。
でもいい。どうせ今の俺には失うものなんてない。
「よし……完成」
呪符らしきものを手に取り、俺は深呼吸した。
そしてサイトに書かれていた通りに詠唱する。
「えーっと……“悪しき縁を断ち、相手の運気を停滞させ……”」
読み上げている途中で、急に恥ずかしさが込み上げてきた。
俺は何をしているんだ!?
二十歳を超えた大学生が、
しかし唱え終わった瞬間だった。
紙が、ふわっと揺れた。
「……え?」
風は吹いていない。
俺の手も震えていない。
なのに紙が勝手に揺れた。
次の瞬間、紙の端がじりじりと焦げ始めた。
「ちょ、待て待て待て!燃えるのは聞いてない!」
慌てて地面に落とし靴で踏み消す。
煙が少し上がり焦げた匂いが鼻をついた。
……いや、今のは偶然だ。
たまたま静電気とか、そういうアレだ。
俺は理性的な男だ。オカルトなんて信じない。
そう思い込もうとしたが胸の奥がざわついて仕方ない。
「……ひよりの周りで何か起きたりしてないよな」
嫌な予感がした。
俺は中庭を見渡し、ひよりの姿を探す。
すると――
「ひより、今日もすごいね!なんかオーラ出てるよ!」
「え、そう?なんか最近、調子いいんだよね」
ひよりは照れ笑いを浮かべている。
……俺の錯覚じゃなかったなかったのかよ。
ていうかオーラとか言われてる時点でおかしいだろ。
俺は木陰からそっと顔を出し、ひよりを観察した。
すると彼女の周囲に、ほんのり金色の光が漂っているように見えた。
「……マジか」
俺は思わず呟いた。
呪いをかけたはずなのに、むしろ輝きが増している。
いや、待て。
もしかして俺の呪いは“逆効果”だったのか?
サイトの注意書きを思い出す。
『“祝福”と“呪い”は表裏一体。初心者は間違えることがあります』
「あれか!?」
俺の叫びは木陰で虚しく吸い込まれていった。
その日の夜。
俺はノートパソコンを開き掲示板に書き込んでいた。
『【相談】元カノに呪いをかけたら逆に輝き始めた件』
数分後、レスがついた。
《草》
《お前の呪い、祝福になっててワロタ》
《もっと強い呪術教えてやるよ》
怪しいユーザー名が並ぶ。
“闇の陰陽師777”とか“式神飼ってます”とか、
絶対に信用してはいけないタイプの人間ばかりだ。
だが、今の俺には彼らの言葉が妙に頼もしく見える。
「……よし。次はちゃんと呪う」
俺はキーボードを叩きながら決意を新たにする。
しかし、この時の俺はまだ知らなかった。
この“ネット陰陽師界隈”が
想像以上に深くて、面倒で、危険だということを。
そして、俺の呪いが
ひよりだけでなく“別の何か”まで呼び寄せてしまっていることも――。
俺を振った元カノが輝きまくっているので呪うことにした 茶電子素 @unitarte
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