君に不幸あれ
ぽぽ
第1話
洒落た店が立ち並ぶ繁華街の一角で、静は一件のバーの扉を押した。
看板は控えめで、知らなければ通り過ぎてしまいそうな佇まいだ。中へ足を踏み入れると、薄暗く狭い空間に、磨き上げられた木の香りとアルコールの匂いが混じり合っている。静けさの奥に、確かな高級感が漂っていた。
一般人なら、少し躊躇してしまうような店だろう。
静はスタッフに案内され、カウンターの席へと腰を下ろす。革張りの椅子に身を預け、隣に座る男へと視線をやった。
座っていてもはっきりとわかるほどの長い脚。切れ長で、どこか色素の薄いビー玉のような瞳。通った高い鼻筋に、やや厚みのある唇。
輪郭は非の打ちどころがないほど整っており、まるで丹念に造られた美術品のようだった。意識せずとも人目を引きつける、魅惑的な容姿をしている。
静はグラスに口をつけながら、すっと息を飲み込む。
ゆっくりと酒を飲み干し、空になったグラスをカウンターに置く。ほんの一拍置いてから、隣の男へと視線を向けた。
「お兄さん、一人ですか?」
声をかけると、男は驚いたようにこちらを見て、大袈裟なくらい大きく目を見開いた。
「……はい、そうです。あなたもですか?」
その呼び方に、静は心の中でくすりと笑う。
「はい、一人です。よかったら……一緒に飲みませんか?」
「え? 一緒に、ですか?」
戸惑いを隠しきれない声色に、静はわざと少し間を置いた。
そして、ほんのり悲しげに目を伏せる。
「……迷惑でしたか?」
上目遣いで、ちらりと男の表情を窺う。
男は一瞬言葉に詰まった後、困ったように眉を下げ、それでも優しく微笑んだ。
「いえ。そんなことは。
こんな綺麗な方に誘っていただけるなんて、むしろ光栄です」
その返事を聞いて、静は口元に、これ以上ないほど整った笑みを浮かべた。
(全部、君のせいだから)
胸の内でそう呟きながら、静は新しいグラスを手に取った。
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