新米神様は、過労死寸前! 〜雑な願いは却下したい〜

かんべエルドラ

新米神様は、過労死寸前! 〜雑な願いは却下したい~

 

  【未処理案件】願望申請リスト

  ▢ 試験合格祈願

  ▢ 富くじ当選祈願

  ▢ 美容願望祈願

  ▢(分類保留)

  ▢ 推しの幸せ祈願

  ▢ 世界平和祈願

 


 

1、試験合格 祈願

 人の子の間では、神や星に祈れば願いが叶うと信じられている。

 それは一部正しくて、一部間違っている考えだ。

 なぜなら願いの申請が通るかは、その内容による。

 そして何より重要なこと。

 それは新米神様である俺が、天界の神部で願いの対応に追われ、過労死寸前であるということだ——。


『試験に受かりますように!』


「これって本人の努力義務が発生する案件⋯⋯。とりあえず、この願いをした全員に、頭がスッキリする光を一度送るか」

 シャランラ〜という音とともに、下界へ光が放たれる。これでヨシ。

 俺は次の案件に取り掛かった。

  ・

  ・

  ・

「あれからみんなどうなったんだろ⋯⋯『閲覧』!」

「あ、みんな一瞬は勉強が捗ってるね。さすが俺の加護! ⋯⋯その後は〜、願って気が済んだ子、コツコツ勉強を続けた子、他の神様にお願いしにいった子⋯⋯。いや別にいいけど!」

「後は……暗記する内容が将来役に立つのか検討し始めた子⋯⋯。いや、今やるのは現実逃避ィー! 試験前に掃除するのとおんなじぃー!」

 思わず思念を飛ばして喚いてしまう。人の子に感情移入してどうするんだ⋯⋯。

 

「試験勉強って、なぜか暗記中心の地域が多いみたいだけど⋯⋯。例えるなら、シュミレーションゲームみたいなもんだよな。『何に目標を定めるか』、『目標に向かってどう努力するか』。どうプレイするかは、人の子の自由。過保護ダメ、絶対!」

「おーい、いつまでも喚いてないで、案件片付けろ〜。あと八十億件〜」

「へぇーい⋯⋯」

 こうして今日も俺は、人の子たちの願いに向き合うのだ——。

 

 

 

 

2、富くじ当選祈願

 人の子の願いは、無限大なのだろうか。新米神様である俺のキャパを超える祈願(申請)が送られることもあって——。


『富くじが当たりますように!』


「先輩、この富くじ案件、昨日からめちゃ増えてるんすけど⋯⋯」

「あー、下界はまたそういう時期か」

「時期とか関係あるんすね。ツラぁー」

「何かあったか?」

「これ、『幸せになれますように』案件と似た波動で⋯⋯」

「あー。ふわっとしてるもんな。で、お前はどう対処する?」

「えーと、当たったお金を何に使いたいのかを具体的に考えられるように、思考力アップの光を少々。でもこっちに結果丸投げ案件もあるんで、それは地に足つける光も追加して⋯⋯」

「ん。妥当な判断だな」

 先輩からのオッケーをもらって、シャランラ~、シャランラ~と連続で光を送る。

 ……光を送って大半を処理したのに、愚痴が出てしまう。

「全体的に一発逆転申請が多すぎっす。生活が苦しいから買ってみようって発想は、試験合格申請より重いっつーか」

「だな。遊びとか運試しで願うんなら、こっちも気楽に、溜まってる徳ポイントを見てチョチョイと割り振れるんだけど。願いの理由の整理・調整するのも仕事だし」

「そっすよね。それに、五十億当たったら、住まいの安全対策とか、幼い人の子の治療負担の軽減とか……」

「お、いいねえ。幼い人の子が芸術や文化に触れられるよう、作り手への支援とかどうよ?」

「いいっすね! 心の豊かさに繋がるもの、いざと言う時の備え、見えにくいけど必要な資金……。でもそういう理由の富くじ案件、見てないっす!」

「んー、『世のため人のため』を考える人の子は、運に頼らないで寄付をする。多分」

「なるほどっす。みんな、何がしたいんすかね? 今まで富くじに使った金額で叶えられる願いも多いし」

「あー、ねぇ」


「あと、富くじを買ってない人の子も、『当たりますように』って願ってて⋯⋯」

「うん、それは無視してオッケー」

「ラジャっす」

「あと、丸投げ系は『当たった』って経験がしたいだけの可能性がある。だから『待ちぼうけ』の曲、脳内に流しとけ。気づくやつはそれで落ち着くだろ」

「え、曲の使用許可とかどーすんですか?」

「楽曲関係者には、徳ポイント割り振っとけ」

「俺の仕事が増えた!?」

「短絡的だな。こういう気づきを促すのは、後々の案件減少に繋がるんだよ」

「絶対、もっと簡単な方法があるはずー!」

「じゃ、それをやってもいいぞ」

「え、簡単な方法をイチから考えるのと、先輩の指示通りにするの、どっちが簡単っすか!?」

「知るか」

 この先輩、親切なんだか冷たいんだか分からない。

 ともかく今日も俺は、人の子たちの願いとケアに向き合うのだ。


「あーもー! 俺も徳ポイント五十億当てて、次の次元に行きてぇー!」

「喚いてるうちはムリ―」

 図星だ。

 俺は大きなため息で答えて、次の案件に取り掛かった。

 

 

 

 

3、美容願望祈願

 人の子の間では、神や星に祈れば願いが叶うと信じられている。そして、鏡を見つめながら願うことも多いようだ。

 しかしそれは、新米神様である俺の仕事を、雑に増やす行為で——。


『鼻の形が良くなりますように』

『にきび跡が治りますように』

『痩せますように⋯⋯!』

『可愛くなれますように』

『美人になれますように』

「えぇーと、とりあえず、自己愛の光を送るか⋯⋯」

 シャランラ〜という音とともに、下界へ光が放たれる。

「はぁ〜。⋯⋯なんだかなぁ」

「おーい、新人。そろそろ休憩行っとけー」

「え、でもまだまだ案件残ってますし」

「しんどい時は、こまめに休憩。これ、先輩からのありがた〜い助言。何なら話聞くけど?」

「あざっす。……何なんすかね、肉体って。俺も昔、覚えがあるような無いような気がしますけど、よく分かんなくて。でも、モヤモヤしちゃって」

「ま、これは単純に、見た目を変えたいって願いじゃないからな」

「え? どういうことっすか?」

「人からの反応・評価に傷ついてきた記憶。それを塗り替えたいって話だよ」

「反応や評価に傷つく⋯⋯。こんな自分は嫌だ、だから変わりたいってことですか?」

「そういうこと。だからお前が『自己愛アップの光』を投げたのはいい判断」

「ども、っす」

「まー、自分自身が自分の見た目をあれこれ批評してるから、他人の言葉に『やっぱりそうなんだ』って同意しちゃうんだよなぁ」

 先輩は呆れたような、慈愛に満ちたような、不思議な光を放った。

「言われて傷ついた方も、『こいつ、自分のこともあれこれ批評してんだろうな』とは思わない」

「あ〜、自分も他人も批評してるんすか。だから案件数が⋯⋯」

「そうそう。美容願望になるか、癒し希望案件になるか、復讐案件になるか、はたまた⋯⋯」

「あ〜も〜、やだ〜! 考えたくなーいー!」

「だから、休憩行けって」

「うぃっす」

 俺はフラフラと移動する。

 自己愛の光を送ったのに。どうしてまだモヤるんだろう。

 俺に肉体はないのに、しんどいって思うのは何でだ——?

 

 

 


4、ただいま休憩中

 下界をぼんやり眺める。星のような小さな光のきらめきは、人の子たち。きれいだけど、今はしんどい。ここに来たのは間違いだったのかもしれない。そう思って天界を見上げると——。

「人の子、面倒くさすぎやろぉー!」

 聞き覚えのある声とともに、同期の神様が降ってきた。まるで流れ星みたいに。

 いや、下界からは確実に流れ星に見えただろう。案件が爆速で増える予感に、めまいを覚える。

 そして、流れ星がもう一つ。わー、珍しい現象デスネー。

「おいコラ、仕事放棄すんなやァー!」

「何なん、何なん!? 肉体を持つ前の経験値、どこ行ったん!?」

「なにキレとんねん。人の子の影響、受けすぎや」

「せやけど!」

「俺らが天界にいるのは何のためや? 下界を俯瞰的に見るためやろ?」

「うるっさい先輩やなぁ!」

 え、先輩なの? お前、先輩相手にそんな言い方⋯⋯。

「あのなぁ、お前が感情的になるのは、自分の中に引っかかりが残ってるからや。違(ちゃ)うか?」

「いや、案件多すぎてパニクるやろ⋯⋯八十億て、あり得んやろ!」

 お前んとこも八十億かよー! あと、連続流れ星効果で、絶対増えてるからな!

「落ち着け。まずお前の中を整理しぃ。俯瞰できへん理由も分かるはずや」

 あれ? これって俺のことじゃないか? 美容願望案件でモヤッたのは、俺の中が整理されてないからで——。

 俺自身が仕事の意味とか成果が分からなくて混乱してるから。つい喚いてしまう自分の未熟さ、そうしてるうちは次の次元には行けないっていう先輩の言葉。

 だから人の子の願い方が歯がゆくて、でも批評して、モヤモヤしてる——?

「何。言い方キツかったか?」

 黙り込んだ同期へ、口調キツめの先輩が近づくのを見ながら、俺は思考が静かに整っていくのを感じた。

 それと同時に、俺の存在の光が強くなる。

「って、誰やお前。覗きとはええ度胸やな? 名前は? どこ所属?」

「いや、あの、すんません! 俺とおんなじ事で悩んでたからつい聞き入っちゃって⋯⋯!」

「久しぶり〜。ええよ、ええよ。堪忍な、変なとこ見せて」

「いや、こっちもごめん⋯⋯。つーかお前、先輩と距離近くね?」

「あー、うん。知り合いが直属の上司って、ちょっとやりにくいわぁ」

「へ〜、元々知り合いなんだ」

「へー、やりにくいンか。へー」

「うっわ、この先輩面倒くさっ」

「お前こそ、面倒くさい新人やろが」

「待って待って! ——俺、そろそろ戻るよ。大変だけど、お互い頑張ろうなっ!」

「うん、ありがとぉ。またゆっくり話そな〜」

「おう! あの、先輩。お邪魔しました。失礼します!」

「おー。気張りや」

「あざっす!」

 逆行する流れ星に見えないように存在を小さくして、部署に戻る。

 ああああ、やっぱり案件が増えてるー!

「すんません、戻りました!」

「おー、おかえり。スッキリしたみたいだな?」

「あ~、はい。同じ事で煮詰まってる同期と偶然会って」

「へぇ」

「その話聞いてたら、人の子の雑な願い方が悪いんじゃなくて、俺の混乱が根っこにあるんだなって」

「ふぅん。いい気づきじゃん」

「や、先輩が言ってたことと、同期が先輩に諭されてる話が合わさって、腑に落ちたっつーか」

「へぇ。ま、その先輩も通った道なのかもな。知らねーけど」

 と言う事は、この先輩自身も誰かを批評したり、モヤモヤした経験があるってことか?

「ははっ。だったら俺も大丈夫っすね。将来有望!」

「おう、頼りにしてっぞー」

「うっす!」

 こうして俺はまた、人の子たちの願いに向き合うのだ。自分の心とも向き合いながら。

 でも一つ言いたい。

「安易に、星に、願うなァー!」

「はーい、混乱整理してー。まずは深呼吸〜」

「うぃっす⋯⋯。す——、は——」

 


 

 

5、推しの幸せ祈願

 天界では、他者のことを願う人の子は『徳が高い』とされている。

 だが時には、新米神様である俺を悩ませる案件もあって——。


『推しが幸せになりますように⋯⋯!』

「芸能人応援系か〜。下界の流行りが分かってちょっと楽しい案件だなっ!」

 そう思ったが次の瞬間、頭を抱えた。いや、肉体ないけど。

 これはアレだ。

 こちらを立てればあちらが立たず、という案件だ。

「どしたの、悩める後輩よ」

「先輩〜! この案件が〜!」

「どれどれ⋯⋯あー、この歌手、知ってるー。割と歌上手いよな」

「え! 先輩、下界の曲とか聞くんですか!? どうやって!?」

「歌とか舞を奉納してくれたら視聴できるだろ。あと、インスピレーション下ろしてんのはこっち側なんだから、確認のために聴くこともある。……し、仕事だからな!? 俺の趣味とかじゃねーから!」

「何いきなりツンデレ発動してんすか。それより、この歌手の幸せを願う案件がこんなに来てて!」

「あー、歌手個人の幸せを祈る系ね。でもこの歌手って」

「そうっす。この人、芸能界引退したい、静かにスローライフしたいって、毎週のようにクソデカボイス送ってくる人っす」

「趣味は神社仏閣・教会巡り、だもんなぁ」

「先輩、マジで詳しいんすね」

「うるさいぞ、後輩」

「で、どうしたらいいんすか? ファンの言葉通りに、歌手個人の願いにポイントを振り分けていいんすか? 後でクレーム来ません? また案件増えるの嫌なんすけど⋯⋯」

「とりあえず、半分歌手活動拡大に振り分けて、もう半分は歌手個人の願いに振り分けとけば?」

「あ〜、なるほど。そういう手もあるのか。勉強になります!」

「ま、今回は人気歌手で願いの数も量も多いしな」

「ですね〜。世界平和もこれくらいの熱量があればな〜」

「その辺は、人の子自身が気づいて動かなきゃな〜。あ、芸能の神様にインスピレーション下ろしてもらうか。頼んどいて」

「うぇー、仕事増やさないでくださいよ〜」

「知らーん。世界平和を言い出したの、お前だし」

『いやいや、世界平和と人の子の進化成長のサポートは、天界全体の仕事っすよね!?』

「じゃあ、お前が今、ムキになってる理由は?」

「芸能の神様に近づくの、緊張するっつーか⋯⋯」

「よーし、経験値上げるチャンスだー!」

「他人事だと思って、テンションたっか!」


 こうして今日も俺は、人の子たちの願いのために、奔走するのだ——。

 


 


6、世界平和 祈願

 人の子の間では、神や星に祈れば願いが叶うと信じられている。

 だが一方で、祈っても叶わないと思いながら願うこともあるようだ。

 そんな複雑な願い方、新米神様である俺が処理しきれるはずもなく——。


「世界が平和になりますように⋯⋯」

「世界平和系のお願いって、数はともかく、願う量が少ないっすよね」

「順番も変だしな」

「順番?」

「願い事の順番。まず自分のお願い事をいっぱいして、最後の〆なのか、たまたま思い出したからなのか、『世界平和』を祈る系、けっこう多いぞ」

「へぇ~。順番までは気にしてなかったっす」

「まぁな。あと、自分の名前を言わないやつもけっこう多いし」

「あ~、それね。調べるの手間だから、後回しにするか、一括案件っすよね〜」

「だな」

「世界平和系、俺ら全力で動いてんすけどねぇ⋯⋯」

「まぁ、な」

 沈黙が落ちる。

「ま、ちょっと時間がかかる案件だな-」

「問題だらけっすよねぇ。願い方も、ふわっとしてるし」

「問題意識が薄いのも問題なんだが⋯⋯」

「はい?」

「問題は大まかに二つだ」

「え、二つだけなんすか?」

「一つ。人の子が『世界』というものを正しく理解してない」

「へぇー?」

「人の子的には、『世界』とは、イコール、世界地図」

「え、世界地図って……つまり、国? 国境?」

「そうだよ。すべての国が平和になったら、世界平和、実現☆」

「いやいやいや、待ってください! 自分の内側の平和は!? みんな、自分の内側を平和にしたいかろ、いろいろ祈ってるんじゃないんすか!?」

「いや、それと『世界地図的な世界』とは別モン」

「えーー!?」

「自分の内側が静かになれば、外側の世界も静まる。トラブルも批判もなくなる。それを人の子が理解してないのが、第一の問題」

「むちゃくちゃデカい一つ目なんすけど⋯⋯。しかもめっちゃ身に覚えがある!」


 終わった。道理で案件数が減らないわけだ。

 休憩しに言った時に俺自身も、自分の中が静かじゃない、つまり整理されてないと気づいた。

 だからこそ整理する必要性と、すぐには整理できないことを知っている。

 だからこそ、自分の課題に気づけて良かったとも思っている。

「あともう一つの問題、聞きたい?」

「いや、もう充分です。ごちそうさまでした⋯⋯」

「遠い目するなよ〜」

「神様、辞めたい⋯⋯」

「あー、あー、聞こえなーい。うちの新人は頑張り屋〜」

 え。俺、頑張ってる?

 そう思って先輩を見れば、楽しそうに笑っている。 


「でさ、世界平和を阻害するもう一つの問題は〜」

「絶対、聞きたくなーい!」

「もう一つは〜」

「言う、なぁ——!」


 こうして今日も俺はなんだかんだと喚きながら、人の子たちの願いに向き合うのだ——。


 

 

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