第5章 秘密の接触(後編)

その日の放課後、教室には数人の友達が残っていた。紗良は心臓をぎゅっと押さえながら、笑顔を作る。

「みんな、お疲れ様」

声は少し高めに出したが、微かに震えているのを自分でも感じた。


秘密が揺れる瞬間


昨日の男子が近づいてきて、スマホを手に軽く笑う。

「ねえ、ちょっと見てほしいものがあるんだ」


紗良の胸は一瞬で締め付けられる。スマホの画面には、神谷颯の最新写真が映っていた。

「そ、それは……」

思わず手が震える。笑顔を作ろうとするが、声がかすかに裏返る。


「や、やっぱり偶然だよ……偶然」

心の中で必死に繰り返す。もしこの瞬間、誰かに正体がばれたら――想像するだけで全身が冷たくなる。


男子は軽く肩をすくめて笑ったが、紗良の鼓動は収まらず、息が荒くなる。


心の崩壊寸前


帰り道、紗良は角を曲がると、小さく肩を落とす。夕暮れに染まる街並みが美しいはずなのに、胸の奥の重圧で色彩すら遠く感じる。

「どうして私は、こんなに怖がってるんだろう……」

独り言のように呟き、手で顔を覆う。


学校で普通の女子高生として振る舞い、家では誰もが憧れるモデルとして生きる――二つの世界を同時に抱える少女にとって、孤独と焦燥は逃げられない現実だった。


家での安堵と次への不安


家に着くと、紗良は制服を脱ぎ、撮影用の衣装に着替える。鏡の前で微笑むと、そこには完璧な神谷颯の顔が映った。

「……これだけは、私のもの」

肩の力を抜き、深呼吸をする。学校での緊張は一瞬で消え、華やかな世界に没入できる。


しかし、胸の奥にはまだ緊張が残る。

「明日も……同じようにやり過ごせるかな」

鏡の中の笑顔に問いかけ、二つの世界を生きる少女の不安は、今日も消えないままだった。

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