猫の帳
ぴくり。
鼻を動かし、空猫・ナイトは片眼を開けた。
前脚を伸ばしてあくびをする。ぐっと踏ん張った前脚の下で、ふわふわの雲に皺が寄る。
行儀良く座り直し、前脚を舐めた。優雅にくねらせた尻尾の先をカラスが掠めていく。
毛繕いを終えたナイトはぴんと背を伸ばした。
見守る中で太陽が傾き、空はオレンジと紫に染まる。太陽から離れた位置には、月が出番を待って顔を覗かせる。
にゃーおん。ナイトは鳴き声を上げた。さぁ、仕事の時間だ。世界に夜を届けるのだ。
ナイトは尻尾を立て、空を歩き始めた。雲を踏めば、雲を形成する氷の粒が弾けて広がり、光を放って暗くなる。
雲を降りて地上に向かった。塀の上に降り立ったナイトは馴染みの猫と挨拶し、カラスに家に帰るよう伝えた。
様々な人間がナイトの横を過ぎていった。ランドセルをガタゴト言わせて走る少年。ネクタイを緩めながらため息をつく壮年の男。買い物カゴをいっぱいにして自転車で走る主婦。浮かれた足取りの女性。犬の散歩をしている老夫婦。まだ眠そうに瞼を擦って歩いているのは、これから仕事を始める人だろうか。
ナイトが歩けば、足元から濃い紺の空気が滲み出す。紺の空気は人々の、そして街の影に溶け込んで膨れ上がり、夕日を背にして長く伸びていく。
ナイトが一歩歩くたび、街が夜に染まっていく。
電線に留まっていたカラスが空に向かって羽ばたいた。ナイトはそれを追って空へと駆け上がった。
太陽がほとんど地平線に隠れている。夜の準備は最終段階に入った。
天に向かって伸びをし、空の縁に爪を引っ掛ける。腕を下ろすと、夜の帳が降りてきた。
夕暮れの暖かな空気を吸い込む。ナイトの体がどんどん大きくなる。爪に引っ掛かった夜の帳を体の下に敷き、ふみふみと形と柔らかさを整える。そしてその上で丸くなる。
ふん、とナイトが満足そうに息を吐いた時、世界は夜に包まれた。
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