数年後

 数年後…。


 車内では変にうるさい中年ロックバンド『スナッチ』のデビュー曲がラジオから流れている。

『大人のふりして見掛け倒しで中身なんか何もなく、自分の人生ひっくり返しても、くだらねぇガラクタにまみれてる』

メロディーは違うが、大人がその歌詞をそのまま使う?

 晴人は、その違和感だらけの歌詞が嫌いだった。何故ならば、恥ずかしくて死にそうになるからだ。

「パパのお友達の人の曲だ~」

 花梨は相変わらず鋭く、口喧嘩では穂乃果を圧倒するほどになっていた。

「パパが作詞したのよぉ高校生だとしても、中二病丸出しだね」

 いやらしく笑う事の増えた穂乃果も、それはそれで可愛い。多分、一生穂乃果を可愛いと思い続けるのだろう。

「二人共にやにやしない!」

 花梨は、穂乃果と見つめ合うだけで邪魔するようになったのは、世間体を気にする健全な子に育っている証拠だ。

「あれ?雄介さんのゲームは?」

 大手企業のハードで新作を出した雄介の会社は、本当に神がかっている。これも夏樹さんのおかげだ。賭けてもいい。

 パーキングに着くと、ピクニックの道具を花梨は手早く降ろす。

「また男体山じゃんか…ほぼ車に乗ってるだけ?全くもう」

 花梨が強い口調で文句を言うが、この頃になると穂乃果よりも段取りが良い。

「花梨、あの山はねぇおばあさんの亡くなった山なの…」

 穂乃果はこの頃、ゆっくりと話す様に変わっていた。元々そうだったのかもしれない。晴人はそう思うと、やはり彼女と共に人生を歩めてよかったと再認識させられる。

「ママ! もうわかったから! そんで、弟の和馬と同じ名前のパパの親友が行きたがってた所なんでしょ? 景色は奇麗だけど…もう飽きた!」

 結婚してすぐに産まれた男の子の名前は既に決まっていた。

 河合和馬だ。

「じゃあ、次は花梨の好きな所に行こうよ!」

 晴人は優しく諭すと、

「私は行きたくないとは言ってません!」そう言いながら、手早く和馬のチャイルドシートを外す。

「それで、親戚でもない家に寄って帰るんでしょ?まあ、へぎ蕎麦食べて帰れるならそれでいいんだけど…」

 あれ以来、花梨はすっかりへぎ蕎麦にハマったようだ。

「和馬…お前は誰よりも頭が良い」

 そう言いながら、ベビーカーに乗せられた和馬の頭を晴人は撫でる。

「かずまもあゆく~」

 和馬はアクティブで、せっかく購入したベビーカーを、ほとんど使わずに歩き出しそうな勢いだ。

 世の中自分の想像通りには行かない。それは数年前に痛いほど体験した。

懐かしい思い出を反芻していると、決まって隣に穂乃果が傍に居る。

思い出している間に、色々とちょっかいをかけて来るのが困りものなのだが。

「ほら、ママ達も急いで! 机を広げて!」

 芝生に春の柔らかい風が吹くと、花梨の大きな声が聞こえた!

「和馬が走った! 信じられない! つかまり立ちもあまりしないのに!」

 晴人は不意に目を落とす。


腕に巻かれたSUUNTOは燦燦と降り注ぐ日の光を受け、白く眩しい程に輝いていた。


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再導 sunflower @potofu-is-sunflower

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