隣の席はつんデレ美少女
零
本編
俺のクラスには有名な美少女がいる。シミ一つない真っ白な肌にぱっちりとした二重の大きな瞳。10人中10人は綺麗になりそうだと言うだろう。…あと10年くらいしたら。
彼女、
そんな彼女は今、俺、
「おはよ、佐上さん」
「………(こくん)」
俺が挨拶をする。彼女は俺の方に向き直ってくれるけど、声は発さない。でも、ぺこりとお辞儀してくれるのが嬉しくて俺は毎日挨拶している。
「双葉ちゃん、おはよ!」
「………(こくん)」
「今日も可愛いね!」
「………(ふるふる)」
俺の後に彼女に話しかけたのは同じクラスの女子、
…そう、彼女の声は誰も聞いたことがない。授業で当てられても無言で答えを示すだけだし、英語なんかの読み合わせでも彼女は特別視されている。
「佐上さん、俺も双葉さんって呼んでいい?」
「………!?」
俺がそう聞くと驚いたように目を見開く佐上さん。俺だって誰にでも下の名前を呼んでいいか聞けるような人間じゃないけど、佐上さんなら聞ける。それに、俺は彼女の声を聞いてみたい。それなら、仲良くなるのが一番だよな。
「………///」
「っ!あ、ありがと、双葉さん」
チョンチョンと指を触れさせた彼女は、恥ずかしそうにしながらも頷いてくれた。思わずガッツポーズしそうになっちゃったけど、でも何とか抑えられたはずだ。
「おぉ!やるじゃん、檜山くん。双葉ちゃんも、良かったね!!」
「………ッ!?」
花山さんがそう言って双葉さんの肩にポンッと手を置くと、双葉さんは驚いたように立ち上がって口に手を当てて塞ごうとした。でも、身長差のせいか全く上手くいっていない。必死にぴょんぴょん跳ねている双葉さんは、とても可愛らしかった。
「あははっ、分かってる分かってる。もう言わないからさ」
「………」
「ほんとだって。双葉ちゃんが檜山くんのこと、おっと」
「!?!?!?」
止めるのは無理だと諦めたのか双葉さんはジトッと花山さんを睨みつけた。でも、低身長のせいなのか全く怖くない。
けど、俺が聞きたいのは喜んでる声だから、もうそろそろ介入する方がいいかな?拗ねたような声も可愛いだろうし、いつか聞いてみたいけど、やっぱり一番最初は喜んでる声がいい。
そう思って口を挟もうと思ったら、俺の名前が聞こえてきた。その瞬間、双葉さんは今までにないような反応を見せた。イタズラがバレた子供みたいな表情で何度も俺をチラ見した。
「どうかしたの?」
「………(ふるふる)」
でも、俺は何も気付かないふりをした。きっと何か俺について思うところがあるんだろうけど、悪いことじゃない気がするし。双葉さんもホッとしたような表情になって首を振ってるし、これで正解だったのかな?
「まぁ、いいや。花山さんも、もうそろそろ俺に双葉さんを譲ってくれる?」
「!?!?!?」
「あっ、うん!もちろんいいよ!」
「!?!?!?」
それから俺は当初の予定通り双葉さんを助けることにした。それに対して双葉さんは今日一番のまん丸な目をしていた。それから、花山さんはやけに嬉しそうに離れていったけど、それも意味が分からないな。双葉さんも花山さんに向かって手を伸ばしたけど、すぐにその手を握って胸元に持ってきていた。
「…じゃあ、早速聞きたいんだけど、双葉さんって何が好き?」
「………ッ!」
「?」
俺はまず好きなことについて聞くことにした。もしかしたら自分の好きなことに対してならテンションが上がって喋ってくれるかもしれない、なんて思ったけど、双葉さんはギュッと目を瞑って真っ直ぐ指差した。そして、前を見ていないからか俺のおへそ近くをつんと触った。
「………?」
「…えっと、双葉さん?」
「………(ぷい)」
ゆっくり目を開けた双葉さんに俺が声をかけると何故か彼女はリスみたいにほっぺたを膨らませてプイッとそっぽを向いてしまった。それから朝は返事をしてくれなくなった。
「双葉さん、こっちいいよ」
「………」
「見えなかったら教えてね」
「………(こくん)」
授業中。俺はいつものように双葉さんを呼ぶ。窓側一番後ろの席の双葉さん。彼女が黒板を見れるようにするためには位置をズラすしかない。だから俺と席をくっつけて机と机の間から見えるようにする。
それなのに双葉さんは首を傾げていた。だから俺も多少強引に次の言葉を言うと双葉さんは素直にこくんと頷いていつも通り席をくっつけてくれた。
つんつん。
「…ん?何か見えなかった?ノート見る?」
「………(ふるふる)」
「じゃあ、どうしたの?」
「………」
そんな中、隣から脇腹の部分をつんつんとつついてきた。もしかして見にくい部分でもあったのかと思って聞いても双葉さんは否定するように首を振った。それからもジッと俺を見つめるだけの双葉さん。でも、何を望んでるのか分からない。
「ごめん、また終わってからでいい?」
「………(こくん)」
「ごめんね。ちゃんと聞くから」
「………(こくん)」
後でいいって言ってくれた双葉さん。俺はその言葉に甘えさせてもらうことにした。…いつかは双葉さんのことを何でも知ってるって言えるようになりたいな。
それから何事もなく授業が終わった。俺は早速双葉さんの話を聞くことにした。
「それで、どうかしたの?」
「………」
俺が聞くと彼女は立ち上がって俺の後ろに回った。そして小さな力で椅子を引かれたから俺は立ち上がった。
「………」
「座れって?」
「………(こくん)」
少しだけ後ろに下げられた椅子。もしかして、気付かずバランスを崩すことを期待してるのか?とも一瞬思ったけど、双葉さんがそんなことするとも考えられないし。
それから双葉さんの指示通り椅子に座ると満足そうに頷いた彼女は何のためらいもなく膝の上に座ってきた。
「!?!?!?」
「………」
「ふ、双葉さん?」
「………?」
双葉さんは俺の上で座り心地を確かめるようにモゾモゾ動いて満足したのか一つ頷いた。でも俺の心臓はバクバク激しく脈打って落ち着けるはずがなかった。それを表情に出さないように双葉さんの名前を呟くと彼女は首を傾げた。
「えっと、どうしたのかな?」
「………」
「ん?許可証?」
「………(こくん)」
双葉さんが俺に向けて差し出したのは一枚のプリント。そこには許可証と書かれた文字が見えた。さらに下の方へ視線を落とすと、そこには授業中に見やすいように工夫していいと書いてある。立ってもいいし、席を移動してもいい。誰かに抱えてもらっても、いい。
…って、ちょっと待て最後!!それは許可しちゃダメだろ!?
「…まぁ、分かった。許可があるなら仕方ないね」
「………(こくん)」
そう思っても、今さら俺が異論を挟むつもりはないし、俺も別に嫌ってわけじゃない。なら、こんな風に合法的に仲良くなるチャンス、逃すわけないよね?
「………好き」
「えっ!?い、今?」
…確かに聞こえた。優しい声が。気のせいじゃない。双葉さんの、声だ。澄んだとても美しい声だった。どんなタイミングでも、絶対に聞き逃さない。そう断言できるような声だった。
…それにしても、隙って。そんなにチョロいかな?こんな書類まで用意されたら従わざるを得ないと思うけど…?
それから、何回も双葉さんを膝に乗せることになった。その合図は脇腹をつんつん。そうなったら俺が少し椅子を引く。いつの間にかそれが暗黙の了解になった。声を聞く機会は少ないけど、確かに0じゃなくなった。
(…いつもこんな私に優しくしてくれる檜山くん、ううん、雄一くん大好きです。いつか、私も雄一くんにちゃんと好きって伝えられるんでしょうか?……なんて、まだ無理ですよね。指が触れるだけでこんなにドキドキするんですもん)
隣の席はつんデレ美少女 零 @cowardscuz
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