第7話 桂、婚約する?(明未の視点)

2028/9/23(土、祝)


 この日わたしはお母さんと、近所のスーパーに買い出しに行く為、今正に出掛けようとしたその時。


「こんにちわ、鮫妻さん」

「あら佐藤さん、こんにちわ。智加、車の中で『ちょっとだけ』待ってなさい」


 と言われて、言う通りにする事約15分。話が弾んで終わる気配が無い。ていうか『ちょっとだけじゃなかったの?』と呆れてると。


(コンコン)


「やっほ~いめいみん、今日はずらっちも一緒だよ~♪」

「車の中で待たされてるのか?」


 ノックがする方を見て窓を開けるとそこには、あびるお姉ちゃんと、桂お兄ちゃんが居た。わたしは事情を話すと。


「相変わらず酷いねえ~」

「昔からサイコパスだからな~、晃子さん…。そうだ、俺の好きな曲聴いてみるか?」

「有り難う2人共」


 こうしてわたしの空虚且つ無駄な時間が、急に穏やかな楽しい時間へと変わった。桂お兄ちゃんの好きな音楽を聴きながら3人で話していると、お母さんが無駄話を終えて戻って来て、こう切り出す。


「何やってんの2人共、こんなトコで?」

「じゃ、俺達帰るから」

「智加!、何勝手に車の中に入れてるの?」

「ご、ごめんなさい!。話がいつ終わるから解らなかいから2人に話し相手になって貰ってたんだよ」


 わたしの頬をつねるお母さんに、あびるお姉ちゃんが「やめて下さい!」と言うと、お母さんが。


「あたしはあんた達に『敷地内に入って良い』なんて言った覚えは無いよ?」

「わたしが『入って良い』って言ったんだよ」

「親が駄目って言ったら駄目なの!。丁度良かった、これから買い出しに出掛けるトコだったから、あんた達も手伝え!。勿論ヅラ男君の奢りね?」

「何であーしらがそんな事しなきゃいけないんですか?」

「てか何で俺の奢りなの?」

「あっそー。ならあんた達の事、住居不法侵入で警察に訴えてやる!」

「だからわたしが許可したんだってば!」

「あんたは黙ってなさい!」


 と言いながら頬をつねって来たのを見て、桂お兄ちゃんが。


「解った。買い出し手伝うよ、俺の奢りで…。」

「それに智加ちゃんが警察であーしらを擁護したら、今度は国太さんが智加ちゃんに何するか解んないからね~…。」


 そして近所のスーパーに到着し、衣料品コーナーに通り掛かると、お母さんがこう切り出す。


「そう言えば智加のレインコート、あんた成長して着れなくなったからこれ試着してみなさい」

「えっ!、でもこれビニールに入ってるけど…。」

「流石に商品を試着するのは不味い気が…。」


 と桂お兄ちゃんが言うと、お母さんが怒りながら「うるさい、いいから早く着ろ!」と言い出した。わたしは「ごめんなさい!」と言いながら言う通りにしてビニールのボタンを開けて試着し、皆の前でその姿を披露した。


「カワイイ、萌え~♪」

「確かに似合ってるな~」

「ん~、別のも試着してみなさい。あひるちゃん、これ畳んで戻して来て」


 あびるお姉ちゃんがお母さんの言う通りにしつつも、しわくちゃになり、キレイには畳めなかった…。それを見た店員さんが。


「お客様!、困ります。商品をこんなにしてしまって、お買い上げ頂かないと…。」

「だそうよヅラ男君、頼むわね」


「まあ、普通そうなりますよね店員さん…。」と言いながら桂お兄ちゃんがカートに入れ、お買い上げが確定した…。その後も桂お兄ちゃんの奢りなのを良い事に、いつも以上に大量に買い込み、そしてお会計の金額が10017円となり、お母さんが。


「だそうよヅラ男君、お願い」

「マジかよ…。」

「ホントにゴメンね、桂お兄ちゃん…。」


 そして荷物をお母さんの車まで、重そうに運ぶ桂お兄ちゃんとあびるお姉ちゃんをよそに、お母さんはハンドバッグのみを持ちながらこう言い出す。


「ヅラ男君しっかりしろ!、男でしょ?。あひるちゃんは元空手部主将だから余裕でしょ?。ほーれ頑張れ頑張れヅーラー男!、頑張れ頑張れあーひーる!」


 それを見てた周りの人が、わたし達を白い目で見たり、中には嘲笑う女性グループも居た、わたしは思わず。


「やめてよお母さん、恥ずかしい!。2人共、わたしも手伝うから」

「智加、余計な事しないの!」

「大丈夫だよ。あーし智加ちゃんの為なら頑張れるから」

「だな、これで国太君に虐待されずに済むなら安いモンだ…。」

「2人共、本当にごめん…。」


 こんな感じでお母さんに取って最高の、そして他3人に取って最悪な買い物は終わった…。帰る道中、車の中でお母さんがこう切り出す。


「そう言えば智加、今日の午後からレコーディングでしょ?。どうせその前に皆でファミレスとかに行くんだろうし、ヅラ男君に奢って貰いなさい。ヅラ男君、もし断ったらーー」

「解ってるよ…。」

「智加ちゃん、一旦家に帰ったらそのままイオーンのフードコートでランチしてからスタジオ行こうね~♪」


 と、あびるお姉ちゃんがそう言った。桂お兄ちゃん、本当にゴメン…。帰宅後、わたしはそのままあびるお姉ちゃんの車に蒼絵お姉ちゃん共々乗せて貰い、イオーンのフードコートでBerryenのメンバーと一緒にランチし、そのまま氷の里ホールの小スタジオへと入った。早速スタジオに入って出来立てほやほやの新曲を聞くと、あまりにも良い曲だったので感動しながら。


「素敵!。これが、わたしの曲になるんだ…。」

「てか凄いやないけ桂兄!。これで東京に居た時プロになれへんかったんか?、どんだけレベル高いねん東京!」

「瑠実お姉様の言う通りですわ!」

「まさに闇の都、パンデモニウムではないか?、東京という所は!」

「な、アタシの言った通りだろ?」


 とBerryenの皆んなが絶賛してくれていた。そんな中レコーディングも滞りなく終わり、不安そうに「ど、どうかな…。」と尋ねると、あびるお姉ちゃんが胸元で祈りのポーズのように両手を組みながら涙を流して。


「凄いよめいみん。あーし感動しちゃった!」

「あびるお姉様の言う通りですわ!」

「確かに、メミーの想いがダイレクトに伝わって来たぜ!」

「明未姉のバックバンドなら喜んでやってあげたいわ!」

「くくく。我が眷属の為に骨を折ってくれたまえ諸君!」

「いやだからお前もだザック」


 蒼絵お姉ちゃんがざくろお姉ちゃんにそう言うと桂お兄ちゃんが「まあまあまあ」と宥めながら。


「後はこの曲を編集して、MyTubeやニッコリ動画にアップするぞ!、あと各種ストリーミングサービスにも。これでレコーディングは終わりだ!。さあ、今日はこれでお開きだ!」


 こうしてそのまま解散となり、わたしはあびるお姉ちゃんに家の前迄送って貰う事になった…。午後4時。鶴牧に到着してからわたしはそのまま自宅に帰る事にして、わたしが家の敷地内に入った瞬間、誰かとぶつかった。わたしは敷地内の前で軽く吹っ飛んだ。相手の男性は、身長は桂お兄ちゃんより少し大きい位で同年代くらいだった。又お父さんのお客さんかな?


「痛って~…。」と言いながらその男性が右の太ももをさすってると、玄関先に居たお父さんが「智加お前、金谷に何してくれてんだこの野郎!」と怒鳴りながらすっ飛んで来て、叩こうとした。咄嗟に「ごめんなさい!」と言いながら両手で顔を守るように構えたら、寸での所であびるお姉ちゃんがわたしを抱きしめながら身を盾にして庇ってくれた。


「どけあび助、邪魔すんな!」とお父さんはあびるお姉ちゃんを、殴ったり蹴ったりしながら暴言を吐き続けた。


「お父さん、助けなくて良いの?」と金谷さんの奥さんがそう聞くと「無理だ、俺にあの国太を止められる訳無い!」と両手を振りながら慌てて断った。確かに、身長170代前半で中肉中背の金谷さんでは、183cmで筋骨隆々のお父さんを止めるのは無理そうだ…。


 金谷さんの息子さんも「お父さん、早く帰ろう」と言うとすぐさま金谷さんの娘さんも「あたしも早く帰りたい。それに国太さんって、何か怖い…。」と言った。その気持ち、よ~く解るよ…。


「じゃ、じゃあ国太、俺ら帰っから…。」と金谷さんがそう言いながら家族全員車に乗ると、お父さんはあびるお姉ちゃんの背中を蹴りながら「金谷、この事誰にも言うなよ!。でないとどうなるか解ってるよな?」と釘刺した。金谷さん達は了承つつ、バツが悪そうに帰って行った…。


 約1分後、お父さんも「おめえもこの事、誰にも言うなよ!、でないと後で智加がどうなるか解ってるよな?、あび助!」と言うとすかさず智枝も「んだぞおめえ、このあひる!」と言いながら家の中に入って行った。


「ごめんなさいあびるお姉ちゃん、私のせいで…。でもどうしてすぐ駆け付けてくれたの?」わたしが泣きながら訪ねると、あびるお姉ちゃんは「何となく嫌な予感がしたからだよ。それよりあーし、めいみんと同じ体験が出来て嬉しいよ…。」と言ってくれたけど…。


「兎に角一旦家に帰ろう。歩ける?」と言うとあびるお姉ちゃんは「肩貸してくれると助かるよ…。」と言われたので、わたしは肩を貸しながらあびるお姉ちゃん家に行くと、蒼絵お姉ちゃんが出た。


「姉貴、ってどうした!。そんなボロボロになって?」明らかに驚いていた。わたしは事情を説明して、すぐさま手当てを始めた。


「姉貴、無茶し過ぎ」と蒼絵お姉ちゃんが言うと、わたしはすかさず「ゴメン、わたしのせいだよ…。」と言うとあびるお姉ちゃんが「違うよ、全部国太達が悪いんだよ、痛てて!。それより、めいみんがあいつらから1日でも早く解放される為にも、一緒に音楽活動頑張ろう!」と言ってくれた、本当に頑張らないと…。


2028/9/24(日)AM9:55(桂の視点)


 俺は国太君にリハーサルの日程を報告しつつ、明未に会う為にあびると蒼絵、そして蒼絵に話があって来た瑠実、計4人で鮫妻家に来た。インターホンを押すと、明未が出迎えてくれた。


「ようこそ皆!。てか瑠実お姉ちゃんも来てくれたんだ、嬉しいよ~!」

「おお、おはよう明未」

「ウチは蒼絵姉に話があって来たんやけど、皆で明未姉の家に行くと聞いたから、折角やしウチも行ってみたいと思ってな」

「あっ、そうなんだ。ケーキ作ったから、瑠実お姉ちゃんも良かったら食べてってよ?。と言っても、あびるお姉ちゃんと比べたらまだまだだけど…。」

「てか、姉貴と比べるなって…。」

「早く食べたい!、早速上がっても良い?」


 早るあびるを蒼絵が宥めつつ、明未に促されて台所に案内されると、テーブルに置かれたケーキをなんと?、国太君が食べていた!。


「お父さん、何で食べてるの?」と言うと国太君が「何だこれ、もしかしてお前が作ったのか?」何の悪びれも無く明未に尋ね、明未が「そう、だけど…。」と答えると次の瞬間、「オエッ!」と口に含んだケーキを吐き捨てた。


「何するの!?」と言う明未を国太君が、まるで毒を食べさせられたかのように「おめえこそ何食わせてくれてんだコラ!」と物凄い剣幕で明未を殴りかかって来た。


「ごめんなさい!」と両手を構える明未を俺は寸でで代わりにビンタされた。


「かっ!、桂お兄ちゃん?」と呆気に取られる明未に間髪入れず国太君が「どけヅラ男、邪魔すんな!」と言いながら、同時に駆け付けた智枝ちゃんも一緒に、俺の背中を殴って来た。俺は明未に触れないように庇った。でないと国太君の事だから『俺の娘に触った、事案だ!』とか言って警察に通報し兼ねないからだ…。智枝ちゃんが俺を殴り始めてすぐさま蒼絵が。


「やべえぞこれマジで、あの2人を止めねえと!」

「皆、あーしと蒼っちは国太さんを止めるから、瑠実っちは智枝ちゃんを止めて!」

「任しときー!」


 瑠実がそう言うとすぐさま、あびるが国太君の右腕を、蒼絵が左腕を、瑠実は智枝ちゃんの両腕を、それぞれ全力で止めた。


「離せおめえら、邪魔すんな!」

「国太さん、落ち着いて下さい!」

「そうですよ、暴力は良くないですよー!」


 と国太君を止める2人の横で、瑠実も智枝ちゃんを羽交い絞めにしながら。


「智枝ちゃん、一旦落ち着こうや!」

「触んな大阪女!」


 と智枝ちゃんも大騒ぎし出した…。約1分後、2人共暴れてある程度鬱憤が晴れたからか?、国太君が「もう良い、勝手にしろ!」と言ってすぐさま智枝ちゃんも「ホントそうだよ、朝っぱらから気分悪いな~!」と言ってその場を離れてから明未が「ゴメン桂お兄ちゃん、わたしのせいで…。」と泣きながら謝って来た。


「気にするな、お前が無事ならそれで良い。てか久々に国太君に殴られたな~…。」と言ってるとあびるがゴミ箱に向かうとすぐさま、ゴミ箱から明未のケーキを指で掬って食べる。


「皆も食べてみなよ、美味しいよ?」とあびるが言うと明未が慌てて「何やってるの!、そんな事したら本当にお腹壊すよ?」と注意して来た。そんな明未の反対を押し切り、俺達はゴミ箱から明未のケーキを指で掬って食べた。そして4人揃って明未にこう言った。


「ごちそうさま、とっても美味しかったよ!」


 その瞬間、明未は感極まって手で口を覆いながら泣いてる中、あびるが。


「さあ!。予定変更して、これからあーしん家でケーキ作ろう!」

「だな、ラッズの手当てもしなきゃいけねえし」

「ウチも手当手伝うわ!」


 と瑠実が言うと明未が泣きながらも笑顔で「うん!」と返してくれた。


 鶴牧家に到着後、明未は改めてあびるとケーキを一緒に作り始めた。その間俺は蒼絵と瑠実から傷の手当てをして貰い、皆でケーキを頂いた。


「やっぱ皆で作ったケーキは美味しいね~♪」

「今度はちゃんとわたし1人で作ったケーキをご馳走したいよ、勿論今より腕を上げて!」

「つかホントに美味しいよ、姉貴が手伝ったとはいえ」

「お礼に今度はウチのたこ焼きご馳走したるわ!」

「良かったよ、晃子さんが作る感じのケーキだったらどうしようかと思ったよ、痛てて…。」


 と俺が言うと明未が。


「やっぱり解るんだ、お母さんの料理のセンスの残念さを…。」

「ああ。高校の頃、マネージャーだった晃子さんの手料理を食べたんだが、中々の不味さだった。あれを喜んで食べていたのは国太君と副キャプテンの安藤君って人だけだったよ…。」


 俺が昔の嫌な事を想い出してブルーになってると、あびるがそれを断ち切るように。


「そう言えばめいみんバンドの再生回数、あれからどうなった?」

「まだ二桁だ…。」

「ゴメン桂お兄ちゃん、わたしの力不足のせいで…。」

「最初はそんなもんだ。アタシらなんてMV上げてから約2年だけど、未だに全部三桁だ。そう言えばルミー、『話がある』って言ってたけど、どした?。何か元気無さそうだったけど…。」


 と言うと、瑠実が一呼吸置いて「スマン皆!。ウチ、バンド辞めなあかんねん…。」と切り出した。


 皆が「えっ!」と言ってすぐさま蒼絵が「何かあったのか?」との問いに瑠実が「実はオトンが早期退職の対象者にされてもうて、その代わりに退職金多めに貰えるらしいんやけど、オトンももう48歳やし。ウチ、3歳年上の姉がおるんやけど、『瑠菜るな』って言うねん…。」と言って一呼吸置いて続ける。


「ウチは何とか高校だけは出させて貰えるけど、瑠菜姉はまだ大学生活1年半残ってて、授業料も馬鹿にならへん。瑠菜姉が『短時間のアルバイトやりながらでもキツイのに、フルタイムでの両立は無理っぽい』って言ってたわ…。」


 と瑠実が言うと、皆が何て言ってあげたら良いか解らない中、瑠実が更に続ける。


「45歳のオカンも近々パートに出る言うてたし、皆家庭を支える為に色々我慢してるのに、ウチだけ好き勝手やる訳に行かへんねん。高校卒業と同時に、ウチの音楽活動も終わりになりそうやわ…。その間、車の免許取ったり、正社員の仕事探そうと思ってんねん。それに仮に今日メジャーデビュー出来たとしても、すぐに成功出来る保証なんかあれへんし…。」


 瑠実が一通り話し終えると、明未が。


「瑠実お姉ちゃんは、本当にそれで良いの?」

「そうだぜ!、ラッズも正社員やりながらプロ目指してた訳だし。19歳の頃から」

「ずらっちも何か言ってあげなよ?、人生の先輩として!」


 とあびるが俺に励ましの言葉を求めて来た。彼女達の言葉が俺の中に眠る父性にスイッチが入った。数秒間、俺は間を置いてこう切り出す。


「…なあ瑠実。お前がもしプロを目指すのを完全に諦めるって言うんなら、俺と結婚しないか?」


 瑠実が「け、結婚!?」と正に、青天の霹靂を受けたかのような表情だった。俺は更に続ける。


「正直、俺も音楽でプロ目指すのが、段々しんどくなって来たんだ。それに幸か不幸か?、先月から正社員になった。多分これから、今よりもっと音楽活動との両立が厳しくなる。けど一緒に歩んでくれるパートナーが居てくれたら、このどっちつかずの状態にもピリオドを打てて、今の会社に骨を埋める決意も固められる気がするんだ…。」


 瑠実が顔を赤らめながら俯き、他の皆も言葉を失う中、俺は一呼吸置いて、こう切り出す。


「俺にお前と、お前の家族を守らせてくれ!」と俺が渾身の想いを瑠実に伝えると、泣きそうになりながらこう聞き返す。


「ホンマにウチでええんか?」

「お前が良いんだ。あのブラック企業でこき使われる俺の傍に、ずっと寄り添って欲しいんだ!」

「有り難うな桂兄。ウチ、ホンマに嬉しいわ…。」


 と言いながら瑠実は涙を流し出した、そして俺はこう切り出す。


「そう言う訳だから、Berryenと明未、そして智枝ちゃんに協力出来るのは、今度の学芸会迄だ。勿論それに伴い、めいみんバンドも解散する。本当に済まない!」と言いながら頭を下げつつ、更に続ける。


「早速だけどこれから、瑠実のご家族に挨拶しに行っても良いか?。これは俺達だけの問題じゃないから、もしかしたらご両親から反対されるかも知れないし…。」俺が気まずそうに言うと。


「大丈夫やて、皆家きっと賛成してくれるわ!」と瑠実が涙を拭きながらそう返すとすぐさま、残念そうな顔をしている3人(特に明未)に申し訳ないと想いつつ、俺と瑠実はあびるの部屋を後にした。


 桑島家に到着後、俺は出迎えて下さったご両親と姉の瑠菜さんに手土産の菓子折りを渡しつつ、瑠実との馴れ初めと、結婚に至る迄の経緯を説明しつつ、今回の件をご報告をした。


「という訳です。瑠実さんを必ず幸せにしますので、結婚させて下さい、お願いします!」と言うとすぐさま瑠実も。


「ウチからもお願いや!、桂兄はホンマにええ人やねん。ちょっと歳離れとるけど、桂兄となら幸せな家庭を築いて行けそうな気がするねん!。それに今日、ある大男に殴られそうになった女の子を、体を張って庇う所を見て『この人なら、ウチを本気で守ってくれる』と確信したわ。せやからウチを、桂兄と結婚させて下さい、お願いします!」と言った後、数秒間の沈黙の中、お母さんがこう切り出す。


「事情は解ったわ。瑠実、あんたホンマにバンドでの成功を諦めてでも、桂君と結婚するんやな?」との問いに瑠実は「勿論や、女に二言はあれへん!」と返すと瑠菜さんもすかさず「ホンマに大丈夫か?、瑠実は可愛くてスタイルええから、これから色んな男から誘惑されるで。ましてまだ18歳と若いから尚更心配や…。」と言うとお父さんがこう切り出す。


「桂君。ウチらはこれでも、瑠実に精一杯愛情を注いで育てて来たつもりやねん。もし瑠実を悲しませる事があったらタダじゃ済まさんからな!」と厳しくそう言った、まあ当然だよな…。俺は桑島家で昼食をご馳走になり、こう切り出す。


「今から僕の両親にも報告しに行きますので、もう少しだけ娘さんをお借りしても良ろしいでしょうか?」と言ってご家族から了承を得て、桑島家を後にした…。


「良かった、瑠実のご両親が理解ある方で…。」

「ちゃんと話せば理解してくれる親やから安心せえ。それより今度は桂兄のご両親に報告するんやろ?」

「ああ。きっと大喜びするぞ、特に母さんが。こんな若い美少女と結婚出来る事を、そして正社員になる決意を固めた事を…。」と話してる内に俺ん家に到着した。


 午後1時頃。家に到着した俺は、鍵を開けて「ただいまー」と言うも、両親の気配が無い。台所に行くと、書き置きがあり、母さんの文字でこう書かれていた。


「桂へ。今日あたし達は、午後から町内会の催しで帰って来るのは午後4時頃になります。いつまでも音楽やってないでいい加減、今の会社の正社員として生きて行く決意を固める事!。それと早く孫の顔を見せなさいよ、良いわね!。母より」


「その報告をする為に急いで帰って来たって言うのに…。」

「何か拍子抜けしたわ…。桂兄のお母さん、気難しい人って聞いてたから…。これからどないする?」


 と言う瑠実に、一呼吸置いてこう切り出す。


「取り敢えず、俺の部屋に来てみるか?」との問いに、「是非入ってみたいわ!」と返した。俺は飲み物とお菓子を運びながら、俺の部屋に瑠実を案内し、招き入れた。


「ここで桂兄は普段、曲作ってるんやな~」

「と言っても、もうすぐ曲作らなくなるんだけどな。ハハハ、痛てて!」と背中が痛み出した。


「大丈夫か桂兄!」と瑠実が言うと、俯きながら続ける。


「ホンマに酷い事するな~、あの2人。痛かったやろ?」と優しく背中をさすりながらそう言う瑠実に、俺は「そりゃまあ、あの国太君のパンチだからなあ。一緒に殴って来た智枝ちゃんのパンチが全然痛く感じなかったよ、ハハハ」と言うと、瑠実が抱きしめながら。


「あまり無理せんといて!、もう桂兄だけの身体やないんやで…。それに明未姉を必死に守っとる姿、ホンマにカッコ良かったで…。」と涙目で言いながらキスをして来た、そして…。


 俺の部屋に入って約30分後。事後、俺は優しくこう切り出す。


「ごめんな瑠実、痛かったろ?」と俺が申し訳なさそうにこう切り出すと「うん…。でもまあ、桂兄が受けたパンチの嵐よりは痛くないわ…。」と瑠実に言われ、そのまま頭を優しく撫でて抱き合った…。


 それから約1時間後、俺の両親が帰って来て、今回の経緯を話すと父さんは安心し、母さんは大喜びした。俺は瑠実を自宅に送り届けた。音楽家としての夢は叶いそうに無いが、こういう生き方だって充分幸せな筈だ。他の皆、特に明未には本当に気の毒だけど…。

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