第4話 鮫妻智加、鶴牧明未になる(桂の視点)

2028/8/18(金)PM3:00


 俺はカラオケボックスで国太君と晃子さんと再会し、その娘達とも出逢い、成り行きとは言えその子達に楽曲提供するのを了承した事を想い返し、先が思いやられていた。


「まさか国太君と再会するなんて、ホントついてないよ。しかも智枝ちゃんは性格最悪だし、晃子さんは相変わらずだし…。」そう苛まれていると、RUINEが蒼絵さんから来た、内容はこうだ。


「先程は有り難う御座いました。姉貴が『ボイトレ本と作詞本とノート持って来て下さい』だそうです。住所は智加ちゃん家の隣りです!」ってマジかよ?、世の中狭すぎるだろ!


 俺は急いであびるさん家に行くと、あびるさんが「いらっしゃい桂さん、智加ちゃんならもう来てるよ。あーしの部屋に案内するからね~♪」と出迎えてくれた。まさか本当に国太君家の隣りだったとは…。


 俺はあびるさんに案内されて部屋に入ると、そこには既に蒼絵さんと智加ちゃんが居た。俺はあびるさんに促されて座ってすぐさま、蒼絵さんが「いや~良かったっすよ。もし落とされたら何気にショックだったっすよ」と切り出した、俺もこう返す。


「こちらこそ、蒼絵さんのようにギターが上手くて音楽に真剣に取り組んでくれる人と一緒に活動出来るなんて楽しみですよ…。実は俺、家族や会社に内緒でプロを目指してるんですよ。東京で9年間音楽活動して失敗したから周りが俺が音楽やるの猛反対してるんですよ、特に母さんから…。」


「という事はわたしもプロを目指す、って事になるんですか?」と智加ちゃんは面食らった感じでそう返答すると、蒼絵さんが「尚更好都合だ!、アタシらもプロ目指してんすよ実は」と返してすぐさま、蒼絵さんが、俺の顔を覗き込みながら。


「桂さん、アタシらもう仲間なんすから敬語よしませんか?。アタシの事呼び捨てで良いっすから」すかさずあびるさんも「あーしも呼び捨てで良いよ~♪。智加ちゃんもそれで良い?」と智加ちゃんに聞くと少し考えながら。


「これから桂さんとユニットを組むんですよね?。わたしに『芸名?』を付けて貰えませんか?。この本名嫌なんです。理由はお父さんがわたしに『勉強、スポーツが人より出来ますように』という願いを込めたそうなんですが、実際は勉強、スポーツ共にワースト1なんでいつも周りからからかわれるんですよ。なので皆さんと一緒に居る時ぐらい別の名前が良いです、お願いします!」と懇願して来た、あびるが少し考えて。


「だったら『鶴牧明未つるもくめいみ』とかどう?。あーしと同じ苗字で、貴女に明るい未来が訪れますように、という願いを込めて。後あーしら皆、ベリーに関する名前だし。めい=明=苺、とも読めるし」とノートに書きながら説明した。それを見た智加が感動しながら。


「素敵な名前、有り難うあびるさん!。それに少し前に苺のお土産を頂いたんだけど、わたしだけ食べさせてもらえなかったから自立出来たら思いっ切り食べたい!」

「マジかよ!、酷いなあの3人…。」

「ちなみに桂さんは『ずらっち』、かつら→づら→ずら→らず→ラズベリーだから」


 と不意に言われて驚きながらもOKして、「それで2つ目のお願いって何?」と聞くと明未がモジモジしながら。


「わたし、本当は妹になりたくて、お兄ちゃんやお姉ちゃんが欲しかったの。だから皆の事をこう呼んで良いかな?『あびるお姉ちゃん』『蒼絵お姉ちゃん』『桂お兄ちゃん』って…。」


 俺は思わず(か、カワイイ!)と想って年甲斐も無く萌えてしまった。って、何小6女児に萌えてんだ俺!。しかもこの子はあの国太君の娘だぞ?。と想いながら蒼絵の表情を見ても、多分俺と同じ気持ちになってるみたいだ。あびるに至っては、顔を赤らめ、頬を両手で覆っていた。あびるが初見で明未に夢中になるのも解った気がする…。我に返ったあびるが。


「そ、そうだめいみん!。折角だからツインテールしてみてよ?、絶対似合うから!」

「俺もそう思った。そっちの方がボーカルとしてもえるだろうし」

「ツインテールなんてわたし、やった事無いから似合うかな…。」


 と言いながらあびるの部屋の鏡を明未に見せながら、あびるが用意したヘアゴムと白いリボンを慣れない手付きでやってみつつ、ツインテールになった明未は「ど、どうかな…。」と照れながらあびるに上目使いでそう尋ねると。


(ずっきゅ~ん!)


 あびるから、そんな擬音が聞こえて来そうな表情だった。次の瞬間あびるが「めいみん、可愛い過ぎる…。」と昇天した。まるで推しのアイドルが自分の為だけに最大級のファンサービスをしてくれたかの

ように、この上ない幸せそうな顔をしながら…。そんなあびるを蒼絵は「姉貴しっかりしろ!、重い…。」と言いながら抱え込んだ。そんな状況に明未は狼狽えてた。


(この人達と音楽活動して、本当に大丈夫かな…。)と内心不安になる俺をよそに、我に返ったあびるが焦りながら。


「そ、そうだずらっち。ボイトレ本と作詞本、持って来てくれた?」

「ああ。どっちも10年以上前の本だけど、アゾマンでのレビュー数どっちも3桁で星4.5以上だから今でも通じる内容だと思うぞ?」

「でも、わたしにボーカルや作詞なんて本当に出来るのかな?。それにこの本やノート、もしあの人達に見つかったら取り上げられて悪戯されそうだよ…。」


 と不安気にそう言い出した、確かにあいつらならやり兼ねない…。そう思った俺は会社で使う筈だったA6のメモ帳をバッグから取り出し。


「なら練習する数ページを切り取って持ち帰ったらどうだ?。それに作詞って思うから難しく考えてしまうんだよ。明未がこれ迄どんな人生を歩んで来たかを、このA6メモ帳に書いてくれるとかどうだ?。このサイズならあいつらに見つからないだろ?。それを見て作編曲するから」


 俺がそう言いながらメモ帳を渡すと明未が申し訳なさそうに「そんな、わたしの為に本のページを切り取るなんて…。」と言い出す。実に良い子だ、本当に国太君の娘なのか?


「気にしなくても良いよ。それで明未が歌と作詞が上手くなるんならそっちの方が嬉しいだろ?、この本の作者も…。」

「有り難う桂お兄ちゃん。わたし一生懸命練習するから。家の人達に怒られるから全力でボイトレ出来ないかもだけど…。」

「だったらあーしん家に来てボイトレすれば良いよ。もしくは車の中でも良いし」

「俺の車を使っても良いぞ。家ん中はほぼ毎日母さんが居るから出来ないけど…。」

「皆、本当に有り難う…。」


 明未が泣きながら俺達に感謝してお開きとなり、俺と明未は鶴牧家を後にした。


   帰宅後(明未の視点)  


 わたしは帰宅後、桂お兄ちゃんから貰った作詞本の『読んで欲しい箇所』を読み、貰ったメモ帳を見ながら今日の事を想い返した。


「桂お兄ちゃん達、本当に良い人だなあ。あの人達と一緒に活動すれば、わたし本当に、あの一家と本当に決別出来るかも知れない…。」


 そう呟きながら貰ったA6のメモ帳を開きながら、わたしのこれ迄の人生を振り返り始めた。真っ先に思い浮かんだのは、お父さんからの度重なる暴力や暴言、差別や雑用の押し付けだった。そこから、智枝からの暴力、暴言、侮辱の数々。


 そしてお母さんがお父さんに同調した時の能面のような不気味な笑顔と、言う事を聞かないと頬をつねって来た事。それからクラスメイトや先生からの、いじめや雑用の押し付け。


 あとお客さんが来た時、わたしだけ仲間外れにされて部屋に待機させられたり、お客さんがわたしに失礼な事を言った時、他の家族も一緒になって笑ったり、わたしが何か言うとお父さんが怒鳴りながらぶってきた事。


「…ってわたし、この12年間で嫌な想い出ばっかりだよ!。良い想い出なんて今日蒼絵お姉ちゃん達と出逢って、あびるお姉ちゃんの部屋で皆で楽しくお菓子を食べながら色々語り合ったかった事位しか無いよ…。」


 そう想った瞬間、涙が込み上げて来た。わたしは泣きながら急いでそれらを書き綴った…。


2028/8/19(土)PM2:00


 今日は午後1時頃から、三女であるお母さんの姉で次女夫婦とその娘『長田おさだ家』と、長女夫婦とその娘『倉松くらまつ家』が来ていた。わたしは毎度の如くお父さんから『茶の間には絶対来んなよ!』と釘を刺されて待機していた。そんな中、トイレに行きたくなり、彼等が居ないのを確認し、急いで用を足して手を洗い、慌てて部屋に戻ろうとして、『倉松多香子くらまつたかこ』さんと思いっ切りぶつかってしまった。


 多香子さんは何を想ってか?、「邪魔だ、どけ!」と怒鳴りながらわたしを思い切り蹴って来て、そのままトイレに直行した。スポーツ万能の多香子さんの蹴りは想像以上に痛く、思わず泣いてしまった。倒れ込んだわたしを見て智枝と、同い年の従姉妹『長田九十九おさだつくも』が現れた。先ず智枝が何を想ってか?


「ぷぷぷ、だっせー!」

「何泣いてんだか、子供みたい」

「2人共どうしてそんな事言うの?」

「ムキになって益々子供みたい」

「そんな事を言う貴女達の方がよっぽど」


 わたしの話の腰を折るように、智枝が「おとーさ~ん!」と言い出した。ここでお父さんが出て来たら、正に地獄絵図になることは明白だった為、わたしは不本意ながらも全力で部屋へと撤退した…。


 数分後、わたしが部屋で独り悔し泣きしてると。


(コンコン)


 窓の外からノックする音が聞こえた。わたしは恐る恐る障子を開けると、そこには鶴牧姉妹が何か入ってるビニール袋を持ちながら。


「やっほーい、めいみ~ん♪」

「よっ、メミー!」

「2人共、どうして?」

「今日親族が来るから、きっと又部屋に強制待機させられるだろうな、と想って」

「今そっちに行くから、これ持ってて」


 と言うや否やと、わたしにビニール袋を渡し、窓の下の方に手を掛け、登って来てサンダルを脱いだ。


「どしためいみん、お父さんから又何か理不尽な事で怒鳴られた?」


 わたしは事情を説明すると、あびるお姉ちゃんが。


「相変わらず酷い人達だねえ…。」

「全くだぜ、親族揃ってロックじゃねえ!」

「そうだ、おにぎりと卵焼き作ったんだけど、食べる?」


 あびるお姉ちゃんはそう言いながらビニール袋を渡されるとその中には、ほうじ茶入りのペットボトルと、海苔で巻いた野沢菜おにぎり、卵焼き、ウインナーが入ってた。食べ物はどれも出来立てで温かかった。


「わたしの為にわざわざ作ってくれたの?、有り難う。早速食べても良い?」

「どうぞどうぞ~♪」

「食べ終える迄、傍に居るからよ」


 と食べてるわたしの隣りに座りながら右隣にあびるお姉ちゃんが、左隣に蒼絵お姉ちゃんが、寄り添ってくれた。約10分後、食べ終えたわたしは。


「ごちそうさま、今迄で1番美味しいご馳走だったよ」

「ホント?、そう言って貰えるとあーしも頑張って作った甲斐があったよ~♪」

「じゃ、アタシら帰るから!」


 そう言って2人はゴミを持ち帰り、窓から出て行った…。


2028/8/20(日)PM4:00(再び桂の視点)


 会社のお盆休みの最終日、俺は昼飯を食べ終えて作曲に勤しんでると、RUINEの通知が来ていた。蒼絵からで、内容はこうだ。


「ラッズ、メミーが親族と墓参りを終えて帰って来たから、来てくれて早速歌詞書いて来たから見ようぜ!」


「マジかよ!」と驚きながらも俺は鶴牧家へと急いで向かうと、あびるに出迎えられて部屋に案内されるとそこには昨日と同じメンツが居た。俺はどうしても気になる事があって、早速蒼絵に確認をした。


「蒼絵、ラッズってもしかして俺の事か?。てか何でその呼び方…。」

「かつら→づら→ずら→らず→ラズベリーで、そこにアレンジを加えたらそうなった。ちなみに明未だからメミーにした。どうだ、ロックだろ?」

「こういう子なんだよ、蒼っちは」


 明未は若干苦笑いしており、俺も戸惑いながらも了承して早速明未のメモ帳を見ると、そこには明未のこれ迄の壮絶な人生が書き綴られていた。よく見ると所々涙で滲んでいた。俺は言葉を失いながらも蒼絵を見ると「うわ~…。」と言いながらドン引きしていた。あびるは「めいみん…。」と言いながら涙を流していた。


「もしおかしい所があったら言ってね、書き直すから…。」と明未が不安そうな顔でそう言うと、あびるが神妙な面持ちでこう切り出す。


「おかしいトコならあるよ、正直に言っていい?」と言われ、明未は更に不安げな表情で「うん…。」と頷いた。そしてあびるはこう告げる。


「おかしいのは鮫妻家と、その親族だよ!」


 あびるのこの一言で先ず、蒼絵が吹き出しながら笑った。俺と明未も釣られて笑ってしまった。


「笑わせんなよ姉貴!、折角メミーの歌詞を読んでる時に…。って、どした姉貴?」と蒼絵があびるに聞くと。


「めいみん初めて笑った!」あびるがそう言うと明未が「ごめんなさい!」と謝るも、あびるがこう続ける。


「いいんだよ。それに出会ってから今迄、ずっと暗い顔してたからホントに良かったよ~♪」

「確かにあいつらといつも一緒じゃ、心からの笑顔になんかなれないだろうなあ…。それよりこれ、小6女児の言葉じゃねえぞ。ずっと苦しみに耐えて来た魂の叫びだ。このメモ帳にある涙の跡がそれを物語ってる。メミー、お前一体、どんな人生を歩んで来たんだ?」

「あの3人と家族だから酷い目に遭わされてるとは思ってたけど、ここ迄とは…。」


 俺がそう言い終えるとすぐさまあびる、明未を抱きしめながら。


「めいみん!、今迄辛かったでしょ?。もう1人じゃないから。これからはあーし達が味方だよ」


「あびるお姉ちゃん…。」と明未言うとすぐさま感極まって「うわあああん!」と大声で泣き出した。


「本っ当にどうしようもない人達だね~、あの3人…。」と言いながらあびるは、明未の頭を撫でた。


「2人共そのままで良いから聞いてくれ。明未の想い、絶対無駄にしないから。急いで智枝ちゃんの曲を完成させて、この歌詞に合う最高の作編曲を添えるから。ただ、今度の金曜日迄に智枝ちゃんの曲を完成させからになってしまうけど…。」と言うと明未が。


「いつでも良いよ、元々応募したのは智枝だし…。」

「イイよ智枝の曲なんか作んなくたって…。」

「そういう訳に行かないだろ姉貴」

「そうだ!、来週の日曜日、皆で八重山やえやまベリーランドに遊びに行こうよ?。蒼っち、他のバンドメンバーも誘って!」


「解った、確認してみる」と言いながら蒼絵はRUINEを3通送った。


「ずらっちはその日仕事休み?」

「ああ。定時残業2時間プラス土曜出勤を義務付けられてる代わりに、日曜日と祝日は休みなんだ。俺とあびるで他の人を送迎するんだろ?、任せとけ」

「所で、蒼絵お姉ちゃん達のバンドって何て名前なの?」


 と明未が蒼絵に聞くと、何故かあびるが答え出した。


「『Berryenベリーエン』って言うんだよ、メンバー全員ベリーと関係ある名前だから」

「こう言う事考えるの得意なんだよ、姉貴は…。」

「そう言えばわたし達のバンド名、何て名前にする?」

「『めいみんバンド』で良くね?」

「待てあびる!、俺の要素どこにあるんだ?」

「取り敢えずそれで行こうよ?、良い名前が決まる迄の間だけで良いから~♪」

「とか何とか言ってこの名前に愛着持たせて、しれっとこの名前にしようとか思ってるだろ?。まあ良いや、あくまで仮の名前だし…。」


 俺がが半ば呆れながらそう答える間に、3人からRUINEが来た。


「3人ともOKだって」

「安心してめいみん、皆良い人達だから」

「良かった~、智枝みたいな人だったらどうしようかと思ったよ…。」

「となると、明未を連れ出す許可を国太君から取らなきゃいけなくなるな~、一応保護者だし…。」

「わたし、その日迄に夏休みの宿題終えないと。始業式28日、月曜日だから」

「あーし達もだよ…。」

「夏休みの宿題とか懐かしいな~…。」


 こうして俺は国太君から、明未を連れ出す許可を得る為に鮫妻家へと向かい、国太君に事情を説明すると。


「おお良いぜ。但し、智加の遊ぶ金はおめえが出せ!。後お土産に『八重山やえやまベリーパイ』を買って来い!。丁度食いてえと想ってたトコだったからよ!」

「良かったな智加?、人生初の友達とのお出掛けを体験出来てよお!」


 俺は智枝ちゃんからも馬鹿にされつつ、何とか国太君の条件を了承して許可を得る事が出来て、その日はお開きとなった。あの国太君が無条件でOKしてくれるなんて、最初から思ってなかったけど…。

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