オカルトの謎を解明!オカルト研究部

@syousetu_tarou

第1話 世田谷区の呪いの家

三神高校の放課後、オカルト研究部の部室には、いつものように奇妙な空気が漂っていた。


「ねぇ、優希くん。これ、知ってる?」


織部巫女がスマホを差し出してきた。画面には、古びた一軒家の写真とともに、赤い文字でこう書かれていた。


> “世田谷区・○○町の呪いの家。住人は三週間以内に必ず出ていくか、死ぬ。”


「お、出たな。都市伝説系の王道ネタだな」


成田優希は目を輝かせた。彼は筋金入りのオカルトマニア。都市伝説、心霊現象、UMA、超常現象、なんでもござれ。彼の頭の中には、全国の怪異情報が詰まっていた。


「これ、最近また話題になってるんだよ。TikTokで“呪いの家チャレンジ”とか言って、肝試しに行く人が増えてるらしいの」


「バカだなあ。そういうのは本当に危ないんだって。……でも、面白いな。調べてみる価値はあるかも」


「でしょ? だから、今日の活動で行ってみようよ」


「お前、怖くないのか?」


「優希くんが一緒なら、怖くないもん」


巫女はにっこりと微笑んだ。その笑顔の裏に、ほんの少しだけ黒い感情が見え隠れしていた。


「……まあ、行ってみるか。部長にも話してみよう」


部室の奥で、分厚い書物を読んでいた或鍵修が顔を上げた。


「呪いの家、か。あそこは俺も一度調査したことがある。だが、あまり深入りしない方がいい」


「え、部長でも無理だったんですか?」


「無理というより……妙なんだ。あの家には“何か”がいる。だが、それが何かは掴めなかった。俺が行ったときは、ただの空き家にしか見えなかったが、妙に胸がざわついた」


「それって、霊的な感覚ですか?」


「そうだな。俺の霊感が警鐘を鳴らしていた。だから、それ以上は踏み込まなかった」


「でも、今また話題になってるってことは、何か動きがあったのかも……」


「……行くなら、岸梛にも声をかけておけ。あいつなら、何か分かるかもしれん」


その日の夜、四人は呪いの家の前に立っていた。


「ここが……」


優希が見上げた家は、まるで時間に取り残されたような佇まいだった。木造二階建て、瓦屋根は崩れかけ、窓は板で打ち付けられている。だが、確かに最近まで人が住んでいた形跡があった。


「この家、三週間前に引っ越してきた家族がいたの。でも、昨日、全員が突然姿を消したのよ」


そう語るのは岸梛優。彼女は神社の娘で、霊感が強い。今日も白いワンピースに、首からはお守りがぶら下がっていた。


「警察は?」


「一応、捜索中。でも、家の中には異常がないって」


「異常がないのに、家族全員が消えるって……」


「それが“呪い”ってことよ」


巫女が小さく呟いた。


「じゃあ、入ってみようか」


優希が懐中電灯を取り出すと、岸梛が手を伸ばして止めた。


「待って。私が先に結界を張る」


彼女は懐から紙を取り出し、家の門に貼り付けた。すると、空気が一変した。


「……これは、強いな。普通の地縛霊じゃない。もっと……深い“念”がある」


「念?」


「この家には、何かが“残って”いる。しかも、それは人間の怨念じゃない。もっと古くて、もっと……異質なもの」


「異質って……まさか、呪物系?」


「可能性はあるわね」


四人は慎重に家の中へと足を踏み入れた。


玄関は埃だらけだったが、靴の跡が新しかった。リビングには、まだ生活感が残っている。だが、どこか“空っぽ”な印象を受ける。


「……寒い」


巫女が身をすくめた。


「気温じゃない。これは霊的な寒気よ」


岸梛が呟く。


「この家、何かを“隠してる”な」


優希は壁に貼られた古い家系図に目を留めた。


「これ……この家、江戸時代から続いてるのか?」


「待って、ここ見て」


巫女が指差したのは、家系図の一番下に書かれた名前。


「“成田優希”……?」


「えっ、俺の名前……?」


「偶然にしては出来すぎてるな」


或鍵が低く唸った。


「これは……“呼ばれてる”のかもしれん」


その瞬間、家全体が軋むような音を立てた。


「来るよ!」


岸梛が叫ぶと同時に、天井から黒い影が降ってきた。


「うわっ!」


優希はとっさに身を引いた。影は床に落ちると、煙のように消えた。


「今のは……何?」


「“カクリヨ”の残滓だ。あの家系図、恐らくこの家に封じられていた何かと、優希の家系が関係してる」


「俺の家系が……?」


「この家、もともと“成田家”の分家だったのかもしれない。何かを封じるために建てられた……呪術的な構造だ」


「じゃあ、俺が来たことで……封印が緩んだ?」


「可能性はある」


「でも、なんで今になって?」


「それは……」


そのとき、巫女が何かに気づいたように立ち上がった。


「この部屋、変じゃない? さっきから、時計の音が聞こえるのに、どこにも時計がない」


「……!」


優希は耳を澄ませた。確かに、カチ、カチ、と規則的な音が聞こえる。


「この音、壁の中から……?」


或鍵が壁を叩くと、空洞のような音が返ってきた。


「ここだ。隠し部屋がある」


工具を使って壁を壊すと、そこには小さな祠のような空間があった。中央には、黒ずんだ木箱が置かれている。


「これは……“封印箱”だな」


或鍵が慎重に蓋を開けると、中には古びた人形が入っていた。顔は崩れ、目は潰れ、口は縫い合わされている。


「これは……“口寄せ人形”」


岸梛が顔をしかめた。


「この人形は、死者の声を封じるためのもの。つまり、この家には“語ってはいけない何か”がいた」


「それが……今、目覚めたってことか」


「優希くん、危ない!」


巫女が叫んだ瞬間、人形の目が開いた。


「――ナリタ……ユウキ……」


低く、濁った声が部屋に響いた。


「うわっ!」


優希の身体が宙に浮いた。黒い手が彼の首を締め上げている。


「やめなさい!」


岸梛が札を投げつけると、黒い手は煙のように消えた。優希は床に倒れ込んだ。


「……はぁ、はぁ……」


「優希くん、大丈夫!?」


巫女が駆け寄る。


「……なんとか、な」



「優希くん!大丈夫?」


岸梛優の声は、震えていた。彼女はそっと優希の背に手を添え、心配そうに覗き込む。


「……ああ、なんとか。ありがとう、岸梛」


「よかった……ほんとに、無事でよかった……」


彼女の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。普段は凛としている彼女の、そんな表情を初めて見た気がして、優希は少しだけ胸が熱くなった。


「……でも、あの声……俺の名前を呼んでたよな?」


「うん。あれは、あなたを“知ってる”存在よ。もしかしたら、あなたの家系に深く関わってるのかも……」


「俺の家系って、普通のサラリーマン家庭だぞ。霊感もないし、オカルトに興味あるのは俺だけだし……」


「でも、名前が家系図にあったのは事実だよね」


巫女が口を挟んだ。彼女は優希の腕にしがみついたまま、じっと人形を睨んでいる。


「この人形、まだ何か隠してる気がする。ねえ、岸梛ちゃん、どう思う?」


「うん……この子、まだ“完全には目覚めてない”の。でも、封印が解けかけてるのは確か……」


岸梛は人形にそっと手をかざし、目を閉じた。


「……あ……」


「どうした?」


「この人形……“誰かの声”をずっと吸い込んでる。苦しそう……助けてって、言ってる……」


「助けて?」


「うん……でも、誰の声かまでは分からないの。すごく古い記憶が絡み合ってて……」


或鍵修が腕を組んで唸った。


「……この家、やはり“封印の家”だったか。成田家の誰かが、何かを封じるために建てた。だが、その封印が今、優希の存在によって揺らいでいる」


「俺が……原因ってことか」


「そういうことになるな。だが、責めるつもりはない。むしろ、今こそ真実を明らかにする時だ」


「でも、どうやって?」


「この家の地下に“本殿”があるはずだ。封印の核はそこにある。そこを調べれば、何が起きているのか分かるかもしれん」


「地下……?」


優希が辺りを見回すと、床の一部に不自然な板があるのに気づいた。


「これか……?」


板を外すと、そこには古びた階段が現れた。下からは、冷たい空気が吹き上がってくる。


「……行こう」


懐中電灯を手に、四人は地下へと降りていった。


*


地下室は、まるで異世界のようだった。土壁に囲まれた空間の中央には、巨大な石の祭壇があり、その上には再び人形が置かれていた。だが、先ほどのものとは違い、こちらは美しい装飾が施されていた。


「これは……“依代”……ね」


岸梛が小さく呟いた。


「依代?」


「神霊や霊的存在が宿るための器……この人形は、何かを“迎える”ために作られたの」


「でも、なんでこんなものが……」


「……あっ」


巫女が、祭壇の裏に何かを見つけた。


「これ、日記……?」


古びた和綴じの帳面。表紙には、墨で「成田宗一郎」と書かれていた。


「成田……俺の、ひいひいじいちゃんの名前だ」


優希が震える手で日記を開くと、そこにはこう記されていた。


> “我が家に伝わる“黒き神”の封印、ついに完成す。依代は完成し、呪詛の言霊も封じた。だが、我が血を引く者が再びこの地を訪れし時、封印は揺らぐであろう。願わくば、未来の子孫が、この災いを再び封じんことを――”


「……俺が、封印を揺るがせたってことか」


「でも、優希くんが来たからこそ、また封印できるんだよ」


岸梛が優しく微笑んだ。


「あなたの血が、鍵になるの。だから……お願い、私に力を貸して」


「……分かった。俺にできることがあるなら、やるよ」


そのとき、地下室全体が揺れた。


「来る……!」


祭壇の人形が、ゆっくりと目を開けた。


「――ナリタ……ユウキ……」


再び、あの声が響く。


「優希くん、後ろに下がって!」


岸梛が札を取り出し、祭壇に向かって投げつけた。だが、札は空中で燃え尽きた。


「効かない……!」


「なら、俺が……!」


優希が一歩前に出た瞬間、彼の胸元のペンダントが光り出した。


「これは……母さんの形見の……」


「それ、“御守り”だよ!」


巫女が叫んだ。


「優希くんのお母さん、もしかして……」


「母さんは、昔、神社の巫女だったって聞いたことがある……」


「じゃあ、その御守りには“封印の力”があるのかも!」


「分かった、やってみる!」


優希は御守りを掲げ、祭壇の前に立った。


「俺の名は、成田優希。成田宗一郎の血を引く者だ。今ここに、封印を再び結ばん!」


御守りが眩い光を放ち、地下室全体が白く染まった。


「――アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

祭壇の人形が叫び声を上げる。


白い光が地下室を満たし、空間が震える。優希の手に握られた御守りは、まるで心臓のように脈打ち、祭壇の依代人形に向かって強く輝いていた。


「――ナリタ……ユウキ……」


再び響く声。しかし、今度はそれに重なるように、優しい声が聞こえた。


「……ありがとう……やっと、解放される……」


「今の……誰の声だ?」


優希が呟くと、岸梛がそっと彼の腕を取った。


「それは……この家に封じられていた“声”……きっと、あなたのご先祖様の誰かが、封印のために犠牲になったの。だから、あなたの血が必要だったのよ」


「犠牲……?」


「うん……でも、もう大丈夫。あなたが来てくれたから、ようやくこの“声”は自由になれる」


その瞬間、依代人形がふわりと宙に浮かび、光の粒となって消えていった。地下室の空気が一変し、重苦しさが嘘のように消えた。


「……終わったのか?」


或鍵修が静かに呟いた。


「ええ。封印は、もう必要なくなったの。あの存在は、ようやく成仏できたのよ」


岸梛は微笑みながら、そっと手を合わせた。


「ありがとう、優希くん……あなたが来てくれなかったら、きっとこの家は……」


「いや、俺だけじゃ無理だった。みんながいてくれたから、ここまで来られたんだ」


優希は岸梛と巫女、そして或鍵に視線を向けた。


「……でも、なんで俺の家系がこんなことに関わってたんだろうな」


「それは、これから少しずつ調べていけばいいさ」


或鍵が肩をすくめた。


「オカルト研究部の活動は、まだ始まったばかりだろ?」


「……そうだな」


優希は笑った。


*


翌日、三神高校のオカルト研究部の部室では、いつものように雑多な資料が広げられていた。


「それにしても、昨日のこと……夢みたいだったね」


巫女が紅茶を飲みながら言った。


「夢じゃないよ。ほら、これ」


優希が机の上に置いたのは、あの御守りだった。昨日の光の余韻がまだ残っているかのように、ほんのりと温かい。


「それ、まだ力が残ってるの?」


「分からないけど……なんとなく、守ってくれてる気がする」


「ふふ、優希くんのことを守る御守りかぁ。私も欲しいなぁ」


巫女が甘えるように微笑むと、岸梛が少しだけ頬を膨らませた。


「……私も、優希くんのこと、守りたいって思ってるんだけどな」


「えっ……あ、ありがとう……」


優希は顔を赤らめて目を逸らした。


「ふふ、照れてる優希くん、かわいい」


「ちょ、やめろって……!」


「……まったく、騒がしいな」


或鍵が苦笑しながら本を閉じた。


「だが、今回の件で分かったことがある。世田谷区には、まだまだ“未解決の怪異”が眠っている。次はどこを調査する?」


「えっ、もう次行くの?」


「当然だろう。オカルト研究部は、真実を追い求める者たちの集まりだ。次のターゲットは……“深夜0時に現れる赤い女”といこうか」


「それ、聞いたことある! 駅のホームに現れるってやつでしょ?」


「うん……あれも、ただの都市伝説じゃないかもしれない」


岸梛が真剣な表情で頷いた。


「じゃあ、次の活動はそれで決まりだな」


優希が立ち上がると、巫女と岸梛も同時に立ち上がった。


「優希くんと一緒なら、どこでも行くよ」


「……私も。あなたの隣にいたいから」


「……おいおい、俺はただのオカルト好きの高校生だぞ?」


「でも、あなたは“選ばれた存在”なんだよ」


岸梛がそっと微笑んだ。


「……そうかもな。だったら、俺の役目は、真実を見届けることだ」


優希は御守りを握りしめ、窓の外を見た。冬の陽射しが、静かに校舎を照らしていた。


「さあ、次の謎を解きに行こう。オカルト研究部、出動だ!」


こうして、三神高校オカルト研究部の新たな調査が始まった。


世田谷区に眠る数々の怪異と、交錯する恋心。


それは、まだ始まったばかりの、奇妙で甘く、少しだけ怖い物語の序章だった――。

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