壱与はただ 貪欲だから
阿弥陀乃トンマージ
緊急配信
「……いよ~っと! 皆さん、こんばんは! あなたのお願いをお伝えして、成就をお祈りしちゃいます、御祈祷系バーチャルYouBroader、蓮の子壱与で~す♡」
神職が着るような狩衣をまとった、黒髪ロングの美少女アバターがカメラのレンズに向かって高い声で語りかける。
「いよ~っと!」
「こんいよ~」
「いよちゃ~ん」
モニター画面のチャット欄にコメントが続々と並ぶ、壱与と名乗った美女はそれを見て、笑みを浮かべる。
「……はい、といわけで今ですね、緊急で動画を回しているんですけど……」
壱与が声量を抑えながら告げる。
「うん?」
「なんだなんだ」
「急なシリアスw」
コメント欄も即座に反応する。
「……皆さんにお伝えしなければいけないことがありまして……」
壱与が目を伏せる。
「ま、まさか……熱愛疑惑の文春砲?」
「むしろ詐欺疑惑じゃね?」
「詐欺ったのか……俺以外のカモを……」
コメント欄がざわつく。
「……なんと……」
壱与が真剣な表情で息を呑む。
「ゴ、ゴクリ……」
「え、やめて」
「怖い」
コメント欄が緊張する。
「……まもなく、チャンネル登録者数が80万人を突破しま~す!」
壱与がパッと笑顔になり、拍手する。
「な~んだ!」
「びっくりした~」
「あ、マジだ」
コメント欄が安心する。
「いや~配信を始めたときはね、まっっったく、誰も見てくれなくて! どうなることかと思っていたのですが、なんと80万人目前と! これはおめでたいということで、皆さんとともに、突破の瞬間をお祝いしたいな~と思いまして! 急遽ですが配信の枠を立てさせて頂きました!」
壱与がテンション高く説明する。
「さすが」
「古参リスナーとして鼻が高いよ」
「お、俺は信じていたよ……」
コメント欄が反応する。
「いやいや! それ信じてなかったっしょ!? あと、詐欺疑惑とか言うのやめて!? 壱与は至極まっとうな御祈禱系配信者だから!」
壱与が笑みを浮かべつつ、語気をやや強める。
「至極w」
「色々噂もあるけど……」
「ってか、マジで御祈禱依頼受け付けてんの?」
コメント欄がまた反応する。
「ご新規さんかな? マジで受け付けていますよ! 御祈禱内容を――具体的には書かなくても良いから、『厄除開運』とか『良縁成就』とか――書いて、スパチャで送ってね! 1万5000円以上でお願いします♡ 3割はゴーグルに取られちゃううからね」
壱与が淀みの無い説明をして、ウインクをする。スパチャとはスーパーチャットの略で、お金を振り込むことの出来る機能である。
「堂々と集金w」
「いっそ清々しいw」
「い、壱与たんとデートしたいお」
コメント欄がまたまた反応する。
「あっ、デートとかそういうのは無し! エッチなのはいけないと思います! 本当に御祈禱したいって人だけスパチャしてね! 正直、全員に対応するのは難しいのだけれど……出来る限りご祈禱させてもらいま~す!」
壱与が手を振る。
「……マジで本人に会えんの?」
「↑釣られんなw」
「動画自体が楽しいから、チャンネル運営費だと思えば……」
コメント欄がまたまたまた反応する。
「急に思い立ったから、しばらく雑談でもしようかなって思ったけれど、それじゃあなんだから、何曲か歌っちゃおうかな~。……それじゃあ、聴いてください」
やや間を置いて、イントロが流れる。スピッツの『ロビンソン』である。
「おお」
「名曲キタ」
「良いねえ~」
コメント欄が沸く。
「……ロビンソンって人がスピッツって曲歌っているって思ったよね~」
壱与が呟く。
「え?」
「これはオバサン確定」
「ネタが古いw」
コメント欄が戸惑う。
「な、な~んちゃって! 新しい季節が~♪」
壱与が歌い出す。そうするとすぐに、画面のカウンターが800001を数える。
「80万人突破!」
「おめでとう!」
「888888」
コメント欄がお祝いを述べる。ちなみに888……とは、拍手の意である。
「~~~♪」
壱与は歌い続ける。
「いや、熱唱してるw」
「気付いてない?」
「キリの良いとこまで歌うんでしょ」
「~~♪ だーれも触われない、二人だけの国♪ ~~~♪ ……ルララ 宇宙の風に乗る……」
ロビンソンを歌い終えた壱与が画面のカウンターを確認する。801000を数えていた。壱与はニヤリと笑う。
(8010、80100の時もロビンソンを歌った。誰も触われない、二人だけの国……卑弥呼さま、何人にも邪魔をされない、
壱与はただ 貪欲だから 阿弥陀乃トンマージ @amidanotonmaji
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