初めにこれを見てください
『怪異を生み出す儀式』
男は自室で準備を完了させ、人生の
その瞬間、立ち眩みがした。足が震え、バランスを崩して椅子から落ちそうになった。何とか己を奮い立たせ、安定した姿勢をとる。顔からは滝のような汗が流れ、心臓がうるさいほど鳴っている。
その姿勢のまま、どれくらいの時間が経っただろうか。男の心臓は落ち着き、汗も止まっていた。気持ちが落ち着くと、儀式の再確認をしたくなった。失敗してしまったら死に損だからだ。
雨戸を閉め部屋の電気だけで明かりが保たれる、七畳ほどの広さの部屋の四つ角には、自分の血を付けた包丁があり、今立っている椅子の周りには、三年かけて貯めた、切った爪が円を描くようにばらまいてある。そしてロープを挟んだ部屋の壁には、四十センチサイズの、クマのぬいぐるみが腹を開いて座っていた。中には男の髪の毛が大量に詰められ、ところどころクマの皮膚を突き破って出てきている。さらにロープの真下には四ヶ月塩漬けされた、〈自主規制〉がクルクルと走り回っていた。
男は指差し確認をし始めた。
「雨戸は閉めた・・・・包丁には血を付けた・・・・クマにまじないを三回言った・・・・〈自主規制〉の片方は食べた・・・・・・・」
何度も確認したが不備はなかった。複雑な儀式であったため、ミスをしていてもおかしくなかったが、どうやらここまでちゃんとできているらしい。後は首を吊るだけ。男はロープに触れると、今までの人生を振り返り始めた。
人生100年時代と呼ばれる現代で、その四分の一ほどしか男は生きてこなかったが、人生を諦めるには十分な年数だった。決して不遇な人生だったわけじゃない。友達もいた、両親も優しかった。だが男はあまりにも人間嫌いであり、この世界が恐ろしかった。
友達と談笑をした数分後には、自分のことを馬鹿にされている気がし、友達一家もろとも抹殺されてほしくなった。不快な気持ちにはなりたくないからだ。電車に乗れば自分以外誰もいない車両なのに、痴漢の冤罪で訴えられる気がしたため、この電車に乗っている人間は、今すぐ窓から飛び降りてほしくなった。冤罪はこの世で人間が作った醜いものの一つだからだ。人はこの世の生物の中で最も多く恐怖を生む生物である。
恐怖に耐えられなくなった男は、高校一年生の夏休み明けから引きこもり、不登校になった。両親は最初こそ献身的にサポートしてくれたが、男が何も言わなくなると、だんだんといないものとして扱い始めた。引きこもっている間、男の中の人間嫌いと恐怖は増幅していった。
引きこもっている間、男の興味を引いたのは怪異だった。口裂け女,てけてけ,猿夢etc.。誰にも負けない無敵の存在。理不尽に人間を殺していく、災害的な化け物達。そこには無限の可能性があった。テレビの前で初めて見た野球に感動し、プロになることを望む少年のように、眠る前に読んでもらった童話に感化され、白馬の王子様を待つ少女のように、男はこのスター達にあこがれた。
彼らのようになるために、日夜資料を読み漁った。そしてあるサイトを発見した。下のほうにある、誰にも目につかなさそうなサイト。背景は黒く、白文字で儀式の内容と赤文字でこう書いてあった。
「怪異が人間以外を襲った、という話を聞いたことがありますか?おそらくないでしょう。それはなぜか。それは怪異が、人間を恨んで死んでいった人間だからです。人間以外は目につかないのです。ただ、普通に死ぬだけではいけません。怪異になるためには、この下に書いてある儀式で、死ななければいけません。このサイトは求めている人の下に、届くようになっています。それでは」
男は感動した。自分の求めていたものを、やっと見つけた気がした。下に書いてあった儀式の名前は、「怪異を生み出す儀式」。何のひねりもなかったが、内容を読むと、本物だと瞬時にわかる凄みを感じた。一人かくれんぼや、こっくりさんなどとは、一線を画す邪悪さ。特に〈自主規制〉を使うのは革命的だった。その後は流れるように、この儀式の準備をして今に至る。
男は人生を振り返って、薄い人生だったと改めて感じた。だがこれからは違う。怪異になり、人間をできる限り恐怖させ殺すのだ。自分がどんな怪異になるのかは、予想もできない。生き物なのか、はたまた・・・・・・。それもまた楽しみの一つになっていた。
「フゥー・・・・・・・・」
最後に深呼吸をし、男は覚悟を決めた。
1 理不尽
2 災害
3 人を襲う
つばを飲み込み、男はロープの輪に己の首を入れた。
──────────────────────
4 誰にも理解することはできない
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます