フットボールグラフィティー〜日本代表がW杯優勝にいたるまでの物語〜

刃口呑龍(はぐちどんりゅう)

第1話 始まりの物語

 美しいこれがバルサのサッカーか……。急遽観戦出来る事になり後方の席になった為かフィールド全体を眺められる。だから余計にわかるその美しい流れるような動き、選手達が連動しながら動き、ボールをまわし相手ゴールへとせまる。日本人でも、こんなサッカーがしてみたい。素直にそう思った。


「ほらっ、渡ったよ」


「ああ」


 そして、敵陣深く左サイドの選手へとパスが渡る。すると、先ほどは中へ切り込み華麗にゴールを決めた彼は、今度は外側に流れるように守備の選手を引きつけると、鮮やかに相手選手をかわし、左足でゴール前へと早く鋭いが明らかに意図のあるボールを送る。


 ボールは左サイドからゴールマウスとは逆にカーブしつつ飛び出したゴールキーパーの指先をかわして右サイドの選手の足元にピタリとおさまる。そうすれば、右サイドの選手は、ただ無人のゴールへと蹴り込むのみ。


「ウオオオ〜!」


 サッカースタジアムが割れるかのような大歓声が響き渡り、ゴールを決めた選手は雄叫びをあげつつ、アシストをした左サイドの選手のもとへと走って行く。


 そこには、クールに長髪をかきあげ自陣に戻ろうとしていた彼がいた。走り寄ってきた選手はその彼の髪をくしゃくしゃとしつつ、その彼を指差す。「こいつです。こいつです。全部こいつのお膳立て通りなのですよ」と言っているようだった。


 そして、美しい顔を歪め嫌そうな顔をしていたが、次々と選手が抱きついてきて押し倒されると、さらに嫌そうな顔をする。


 昔読んだバスケマンガのイケメンキャラのようだなと変な感想を抱きつつ、その光景を眺めていた。


https://kakuyomu.jp/users/guti3/news/822139842310337266


「アイオーンね〜。本当に日本人なのか?」


「だから、分からないよ。照会出来ないから」


「ああ、そうだったな」


「だけど、体型や身体能力、肌の色、髪の色。後、プレースタイルか。もろもろ含めて日本人かなって」


 俺は、息子に言われていた事を思い出す。


「古武術の動きっぽいってやつか」


「うん。それもだね」


 俺は、隣に座る息子を見る。何やらタブレットでこっそりと撮影しつつ、何かメモをしている。研究熱心な事で。だが、馬鹿に出来ない、サッカー日本代表が連勝街道まっしぐらなのはこいつのおかげなのだから。



 おっと、自己紹介が遅れた。俺は今の日本代表監督の盛田義一もりたぎいち。世間では名将なんて言われている。代表監督になった当初はワンパターン、監督変えろ、馬鹿。とか散々言われていたのだが、まあ、自分もそう思う。


 まあ陣形だけで言うならば、ほとんどの試合で4-2-3-1を維持し、Jリーグの監督時代のチームで使っていた3バックを長期にわたって封印していた。理由は、それで勝ったから。


 それを息子の唯一ただかずが大学でサッカー戦術を勉強して話を聞いているうちに、なるほどなどと思い前回のワールドカップからちょっと意見を取り入れてみたら。なんと、ヨーロッパの強豪国に勝って決勝リーグに言ってしまった。


「父さん、相手の戦術やポジショニングに合わせて、こちらも戦術やポジショニングを変えた方が良いんじゃない」


「そうなのか?」


 なんて馬鹿な会話が懐かしい。そのワールドカップでは、決勝リーグ初戦でPK戦で負けてしまったが、まあ、仕方がない。


 それからの試合では、相手に合わせてポジショニングを変えた。サッカー雑誌の記事にも、この傾向は前回のW杯から見え始めていたことだが、今年に入ってからの第二次盛田ジャパンでは、よりその傾向が色濃く見えると書かれていた。


 例えば、3月の2試合では4-2-3-1で戦い、コロンビア戦の終盤には初めて中盤ダイヤモンド型の4-4-2(4-1-3-2)に布陣変更。続く6月の2試合は4-3-3(4-1-4-1)で戦い、9月のドイツ戦では後半開始から4-2-3-1を3-4-2-1に変更し、トルコ戦では再び4-2-3-1で戦った。 つまり第二次盛田ジャパンでは、4-2-3-1、4-3-3(4-1-4-1)、3-4-2-1、そして中盤ダイヤモンド型の4-4-2(4-1-3-2)と、すでに計4種類の布陣を使い分けながらチームの強化を進めているようだ。


 まあ、さらに試すつもりだが。


「日本代表はヨーロッパでやってる選手ばかりなんだから、戦術理解や適応力も早いよ」


「そうなんだな」


「面白いよ。ヨーロッパのサッカー理論は」


 まあ、こうなると1時間は止まらない。


 それでも俺は、息子をアドバイザーとして側に置いた。日本サッカー協会からは縁故採用は傲慢だとか言われたが、俺の唯一の取り柄である鋼のメンタルを有効活用させて頂いた。



 その後も、バルサが一方的に攻め立て試合は終わった。息子注目の選手は2ゴール2アシストだった。視察するには相手が弱すぎた気がするが。それにしても、中村俊輔を思い起こさせる鮮やかな左足のフリーキックに、芸術的なゴールにアシスト。こんな選手がいたら日本代表は……、なんて思わず考えてしまうのだった。まだ18歳だけど。


「さあ、行くか」


「うん」


 俺はあらかじめアポイントをとってあった、バルサのチームコーディネーターと会うために席を立つ。


「やっぱり、スペインの年代代表のどこにも、入ってないよ。見逃しがあるかもってもう一度見たんだけど」


「そうか」


 まあ、育成機関ではギリギリで上がってきて最近急成長して、今年トップデビューした可能性も無くは無いが。まあ、ないな。



 そして、俺達は部屋に通され、少し待っていると何やら書類を抱えてスペイン人男性がやってきて、テーブルにバサッと。置くと。


「ええ、日本人ですね。パスポートもありますし」


「えっ、そうですか……。なぜ連絡を……」


「そちらで追いかけていると思っていたんでしょうね〜。まあ、こちらからあらたまって連絡する事もありませんし」


「そうでしたか。彼が、バルセロナにいる経緯は?」


「父親の仕事の関係で、え〜と6歳からバルセロナにいて、ラ・マシアのプレベンハミンに入ってますね」


 ラ・マシアとは、日本ではカンテラとも呼ばれるバルサの育成機関だった。


「そこからは順調に、アレビンA、インファンティールA、カデーテA、フベニールA 。そして、10年経っていたのでスペイン国籍を取得して今年トップデビュー。まあ、あだ名で登録されてたかもですが、良く招集しなかったですね日本も」


 これは、日本が馬鹿にされている気がしたがグッと我慢。


「そうですか。素晴らしい経歴ですね、それにあのあだ名に由来する見事な動きも」


 そう。アイオーン。精神的な時の神らしい。何でも彼に対峙すると、時が止まったかのように身体が動かなくなるのだそうだ。しかも何人で囲もうとも。


「ええと。ああ、あったあった。何でも彼のおじいちゃんが古武術の宗家だったらしいですよ。なんか見様見真似で、サッカーに取り入れたと」


「へえ」


 どういう理屈かはさっぱり分からないけど、凄いのは凄い。


「あっ、そう言えば日本って二重国籍認めてないんでしたっけ?」


「ええ、そうですね」


「そうか。登録し直しか面倒くさいな。断ろうかな?」


「えっ、ちょっと……」


「冗談ですよ。うちはEU圏外の選手いないから空いてますしね」


「はあ」


 大丈夫だろうか?


「おいっ、なんか聞いておくことあるか?」


「いやっ、充分。それよりも早く会いたいよ。まだまだ、会いたい人いるんだし」


 そうだった。え〜と、うろ覚えだが、イギリス行って、ドイツ行って、イタリア行ってだったか?


 え〜と、ロンドン、マンチェスター、ミュンヘン、ミラノか?


 タイガーと、シューマーと、ケンイチとルイだったか?


 誰がどのチームだったか?


「では、彼と会いたいのですが」


「ええ、待ってくれているので案内しましょう。どうぞ、こちらへ」


「はい」



 俺達は事務所を離れ再びスタジアムへと向かう。


「父さん。いよいよ彼に会えるね」


「ああ」


「その後は、ケンイチとルイは純粋な日本人ってわかってるから良いとして。タイガはアフリカ系のハーフで、シューマーはスウェーデンのハーフ。日本を選んでくれるかな? まあ、シューマーの双子のリューヤーはスウェーデンの年代代表に出てるけどシューマーは一度も出てないから可能性はあるか……」


「それよりもだ。その選手達が集まったら、U-18は任せるぞ」


「えっ? 大丈夫なの?」


「俺を誰だと思っている鋼のメンタルが売りなだけの日本代表監督だぞ。縁故採用など朝飯前だ」


 我が息子は、ちゃんとプロライセンスも持ってるしね。ヨーロッパに留学中にプロチームを率いてちゃんとカテゴリーは一段低いが優勝したそうだ。


「違うよ勝てるの? 僕がいなくて」


「確かに……」


 まあ、それよりもだった。新しい時代の日本代表監督と選手達が見えてきた気がしないか?


 俺はそんな未来が見えるんだがな。


 ん? 続く?

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