12月14日『そして過ぎる』

 それは

 旅に出るときの私の唯一の荷物だった

 小さな鞄に収められ

 なかで消え入りそうに縮こまっていた

 

 電車に乗って

 船に乗って

 バスに乗った

 何度も国境を越えてやがてたどり着いた

 ひろい砂漠のオアシスで

 私はようやく荷ほどきをする

 

 中身は空っぽだった

 ただ鞄の中に閉じ込められた故郷の空気が

 砂っぽい宿屋の一室をほんのり色づかせた

 

 そうして私は

 何もかもを忘れてしまったのだ

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