第15話 最初の家出猫との出会い
勝利の余韻から二日後。
二隻の船は、ピコの情報網が捉えた微弱な信号を追って、辺境の無人星系に到着した。
そこは小さなガス巨星の周りを回る岩石衛星の群れ。
信号の源は、その一つ
――灰色の小さな衛星の表面だった。
「シルバーフィッシュ」のブリッジで、ピコがモニターを拡大した。
「生命反応、確認。観測者種族の量子パターンに一致。でも、すごく弱ってる……おそらく家出してすぐの個体だよ」
ミケロンがスクリーンを見つめた。
『……私と同じように、ブラックホールの窓から抜け出してきたんだ。でも、出口の座標を間違えて、こんな人里離れた場所に……』
太郎が宇宙服を着込みながら言った。
「迎えに行く。放っておけないだろ」
リナが頷いた。
「私も行く。ピコは船の監視を頼む」
シャトルで衛星表面に降下。
灰色の岩とクレーターが広がる、荒涼とした風景。
重力は低く、歩くというより浮かぶ感じだ。
信号の中心に、ぽつんと一匹の猫がいた。
茶トラの毛色で、ミケロンより少し小さい。
宇宙服も何も着ておらず、真空の中で丸くなって震えている。
量子ビットが枯渇しかけており、姿が時折透けそうになる。
ミケロンが駆け寄り、前足をそっと触れた。
『大丈夫?私も同じ種族だよ。ミケロンって言うの』
茶トラの猫が、薄く目を開けた。
『……ミケ、ロン……?あの、メッセージの……?私、トリオン……家出してきたけど、怖くて……ここから動けなくて……』
声は弱々しく、幼い。
太郎とリナが近づく。
太郎が優しく言った。
「おい、大丈夫だ。俺たちは味方だ。船に乗せてやる」
トリオンが少し体を起こした。
『本当に……?楽園の執行者に、捕まらない?』
ミケロンが微笑んだ。
『捕まらないよ。私たち、さっき執行者の艦隊を追い返したところ。一緒に旅しない?外宇宙、怖いけど、すごく面白いんだよ』
トリオンが、ゆっくりと尻尾を振った。
『……うん。行きたい。ミケロンの冒険、楽園でみんなとこっそり見てた。私も、そんな風になりたい』
三人はトリオンを抱えてシャトルに戻った。
船内で、トリオンに量子ビットを補給。
ピコが用意した小型デバイスから、少しずつ転送する。
トリオンはすぐに元気を取り戻し、
船内を好奇心いっぱいに歩き回った。
『わあ! 人間の船って、こんな匂いなんだ!
金属と、食べ物の匂いと……なんか、温かい!』
リナが笑った。
「可愛い子ね。ミケロンよりおとなしいタイプ?」
ミケロンが少し拗ねた。
『私はおとなしくないわけじゃないよ!ただ、好奇心が強いだけ』
太郎がトリオンにコーヒーの匂いを嗅がせた。
「これが人間の飲み物だ。味はまだわからないだろうけど」
トリオンが前足でカップに触れ、
少し物質変換して飲んでみた。
『……苦い!でも、なんか元気が出る!』
ピコがモニターを見ながら言った。
「トリオンちゃんの登場で、発信の効果がさらに上がってるよ。楽園の革新派チャンネルで、話題沸騰。また新しい家出信号が、二つ捕捉できた」
ミケロンが目を輝かせた。
『もっと、仲間が増えるんだ!』
だが、喜びも束の間。
警報が鳴った。
『大型船接近!楽園の旗艦級……今度は五隻!』
リナが操縦席に座った。
「また来たか。トリオンを連れ戻しに来たんだろうね」
太郎が武器管制に。
「今度は数が違う。でも、仲間が増えた」
トリオンが少し震えながらも、前に出た。
『私も、戦うよ。少しだけど、量子干渉できるから』
ミケロンがトリオンの隣に立った。
『一緒にやろう。私たちの旅は、もう始まってるんだから』
五隻の黒い船が、包囲態勢に入る。
通信が飛んできた。
『ミケロン、そしてトリオン。抵抗は無意味。
楽園は、変わらなければならない。そのために、あなたたちの記憶が必要だ』
ミケロンが強く答えた。
『変わるなら、力ずくじゃなくて、みんなの気持ちで変えようよ。私たちは、その道を選ぶ』
戦闘の火蓋が切られた。
だが、今度の戦いは、これまでとは違っていた。仲間が、増えたから。
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