第2話 再生数が落ちてる

「……あれ?」


最初に気づいたのは、マネージャーだった。


撮影スタジオのモニターに映し出された管理画面。

公開から二十四時間が経過した最新動画の再生数は、いつもより明らかに低かった。


「初動、弱くない?」


リーダー格のYouTuberが、スマホを覗き込む。


「いや、誤差でしょ」

「曜日も時間も同じだし」


そう言いながらも、全員の視線は数字から離れなかった。


普段なら、公開一時間で十万再生。

三時間で三十万。

半日もすれば、コメント欄は称賛で埋まる。


だが今回は違う。


※一時間後:六万

※三時間後:十八万


落ちている。

確実に、落ちている。


「サムネが弱かったかな?」

「編集変えたから、慣れてないだけじゃね?」


誰かが笑って言ったが、その声は少し硬かった。


コメント欄を開く。


『なんかテンポ悪くない?』

『前より間延びしてる気がする』

『編集変わった?』


――気のせい、じゃない。


次の動画。

その次の動画。


数字は、戻らなかった。


むしろ、少しずつ悪くなっていく。


「……視聴維持率、下がってる」


スタッフの一人が、小さく呟く。


グラフは正直だった。

盛り上がるはずの場面で、視聴者が離れている。

以前なら、絶対に切っていた“間”が、そのまま残っていた。


「いや、でもさ」

「編集ってそんな影響ある?」


リーダーは、そう言って椅子にもたれかかった。


「中身が面白ければ、見るでしょ」


その言葉に、誰もすぐには返事をしなかった。


一方その頃――。


俺は、自宅のデスクで、いつものように管理画面を開いていた。

もう関係ないチャンネル。

見ない方がいいと分かっていても、指が勝手に動く。


そして、数字を見て確信した。


――来た。


初動が弱い。

視聴維持率が落ちている。

コメント欄の空気が変わり始めている。


これは偶然じゃない。

編集の設計が、崩れている。


俺は、動画編集ソフトを起動した。

誰に頼まれたわけでもない。

ただ、体が覚えているだけだ。


「ここは三秒切る」

「この間は一拍だけ残す」

「サムネは、赤じゃない。黄色だ」


頭の中で、正解が次々と浮かぶ。


――編集は、誰でもできる?


違う。

誰でも“切る”ことはできる。

だが、“伸ばす編集”は、違う。


その夜、SNSに小さな火種が生まれた。


『最近、あのチャンネルつまらなくなった』

『前の編集のほうが良かった説』


まだ炎上と呼ぶには早い。

だが、確実に火は点いた。


そして彼らは、まだ気づいていない。


これは、始まりに過ぎないということに。

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