2年間付き合った彼女が浮気したショックで超能力が身についたけど、政府に管理されるのは嫌なので隠れて犯罪者を摘発していたら、なんか玉子の魔王って呼ばれているのですが?
鍛冶屋 優雨
第1話
1999年7月、当時、多くの日本人が考え…いや、期待していた恐怖の大王とやらは現れなかった。
特に何事もなく、日本が…いや、世界が滅びる…滅びなくても大惨事になると思い込んでいた現実逃避がちな人達は、貯金を使い果たしたり、借金をしたりして、自分自身のみが大惨事になっていた。
そんな、ほのぼの(?)とした一部のローカルニュースが流れていた1999年が終わろうとした12月の半ばにとあるニュースが流れた。
日本を中心としたアジア圏で超能力者が発生し始めたのだ。
発動者1号として認定された被検体は、当時は中学生であり、渋谷にある日本一…いや、もしかしたら、世界一有名なあの交差点で、超能力が発動してしまったのだ。
その中学生はエネルギー波を発生させるという、他の能力と比較して、第三者による知覚が容易なため、発動者1号となったのであろうと推察されているが、当時は、あの混雑した交差点で発動者1号を中心とした20メートル範囲の人達が、飛ばされるという事件だったため当時のニュースはこの事件で持ちきりだった。
このニュースを境に多くの超能力者が発見、認定され、中には超能力を悪用する者も現れたので、国を始めとした各機関に対策本部が立てられた。
それから時代は進み、2025年では各都道府県に対策課ができ、日常的に超能力の発見、超能力者への差別撤廃、誹謗・中傷対策、超能力者の能力の暴発抑制等々が行われるようになった。
その日は朝から、しとしとと雨が降っている日のことだった。
二年の月日は、僕、
僕と優奈は二人で話し合い、結婚に向け貯金をすることに決め、一番大きな出費である家賃を節約するため、結婚前に同棲をしようという話しになった。
お互いの会社との距離や生活基盤を考え、僕が優奈が住んでいるマンションに引っ越すことに決まった。
僕はもともと物は持たない主義だったので、不要な家具や家電を整理したら、優奈の家に引っ越すときはスーツケースと段ボール5箱ほどの荷物になった。こうしたことを考えても、僕が引っ越すほうが楽だということで、二人で決めたんだ。
僕は張り切って軽トラックを借りるなど準備をしたけど、往復することなく、1回で優奈の家に引っ越す事ができたので少し拍子抜けしてして、優奈は僕の気合いを入れた格好のわりには少ない荷物をみて、
「輪斗の格好を見ていたらどんなにたくさんの荷物がくるかと思っていたら、たったそれだけなんて!」
そう言って、お腹を抱えて笑っていた。
僕は自分が社交的な明るい性格ではないから、優奈の明るく社交的な性格に惹かれていて、特に笑顔が大好きだった。
優奈は会社で経理部に配属されていて、お金の計算が得意だというので、僕はお金の管理を、彼女に任せて僕は、毎月三万円のお小遣いと決め、昼食は優奈の手作りのお弁当ということになった。
僕は二人の結婚と将来は子供が生まれるかもしれないから貯金のためと思って、節約を心がけて生活をしていた。
僕はお酒もタバコもギャンブルもしないので、月三万円の小遣いでもちょっとづつ、優奈が管理しているのとは、別の自分の口座にお金を貯めていて、彼女にプロポーズするために指輪を用意しようと思っていた。
そして、ある程度、お金が貯まったので、僕は同棲2年目の記念日に彼女へのプロポーズをしようと思って指輪を用意した。
今日は優奈は休みというので、僕は早めに仕事をきり上げ、指輪を宝飾店で受け取った。
僕は指輪をポケットに忍ばせ、花屋で彼女の好きなシザンサスの花をメインに花束にしてもらい、家路につく。
道路から見ると、僕たちの部屋には明かりがついているので優奈は家にいるらしい。
僕は優奈を驚かせようと、鍵を音がならないように、ゆっくり開けると、玄関に見慣れない高そうな男物の靴が置いてあることに気づいた。
「えっ?和明さんかな?」
僕はそう思ったけど、
和明さん(優奈のお父さん)はきっちりとした人で僕たちの家に来るときは、前もって僕と優奈の二人に連絡してくる。
でも、きっちりし過ぎているから、僕が結婚前に優奈と同棲することに決めたと挨拶に行ったら三時間くらい怒られたけど…(その後、和明さんの意見を真摯に聞いて、ちゃんと返事と結婚まで性行為をしないって約束したら、僕は気に入られて同棲を許可されたんだけとね。)
それに和明さんは物を大事にする人なので、持ち物の手入れはちゃんとする人だ。
目の前にある靴は高そうだけど、あまり靴の手入れをしていないのか、かなり傷がついているので和明さんの靴ではなさそうだ。
僕が玄関で不審に思っていると、
寝室から、
「大丈夫よ。貴博さん。うちのATMはまだ帰らないから、もう一回しましょうよ。」
知らない男の名前を呼ぶ優奈の甘えた声が聞こえてきた。
僕はまさかと思いながら玄関にシザンサスの花束を置き、静かに寝室のドアを開けたその瞬間――。
視界に飛び込んできたのは、見知らぬ男と裸で抱き合っている優奈の姿だった。
「あ……。、」
僕の喉の奥で、声にならない乾いた音が鳴る。
彼女は驚き、布団で胸を隠したが、(僕は和明さんとの約束を守っていたから、優奈の胸をみたのはこれが初めてだ。)
次の瞬間には軽蔑の混じった冷ややかな瞳で僕を見据え、
「こんなに早く帰ってくると思っていなかったわ。でも、ちょうどよかった。もう、いい加減、輪斗には呆れていたの。お父さんとのあんなバカな約束を守って2年間も私に手を出さないなんて、バカじゃない!」
優奈からも相手の貴博とかいう男からも謝罪も、言い訳もなく、
「ちょっと、私達早く服を着たいから、早く部屋から出てってもらいたいんだけど!」
「まったく。気が利かないATM君だな。」
そう言って、貴博は冷たい目で僕を見る。
僕は呆然とリビングに移り、一人掛けのソファに座る。
しばらく待っていると寝室から優奈と貴博とかいう男が出てくる。
二人は僕の向かいに座り、優奈は当たり前のように貴博にべったりと引っ付く。
「さて、ATMいや、白木君だったかな?僕と優奈との関係は、さっき、君も見たとおりだ。ここは潔く優奈とは別れてくれ。まぁ君も2年間も優奈と一緒に暮らしていて、手を出さなかったんだ。こうなっても仕方ないだろう?」
そう言って、ニヤリと笑う。
僕は血が出るくらい手を握りしめているが、表面状は冷静に口を開く、
「僕は別れたくはないけど、優奈はもう僕の事が好きではないんだろう?僕と優奈が貯めた貯金、半額返してもらえたら別れるよ。」
僕が精一杯、強い口調でそう告げるも、優奈はまったく動じず、くすくすと笑い。
「何言っているの。おめでたい頭をしているのね。貯金なんて残っているわけないじゃない。ほら、あんたのほとんど空の通帳とカードを返してあげるから荷物をまとめて出て行ってくれない?」
そう言って、僕の足元に通帳とカードを投げ捨てる。
「何を言っているんだ?」
僕がそう言って立ち上がろうとすると、貴博が素早く動き、僕の動きを制する。
「おいおい、白木君、いきなり熱くなるなよ。男がたかだか小金で文句言うなよ。優奈みたいな良い女と一つ屋根の下で暮らせたんだ。通帳とカードだけでも返してもらって良かったじゃねぇか。ここは男らしく素直に荷物をまとめて出て行きなよ。」
そう言って、薄ら笑いを浮かべる。
「まぁ俺たちも鬼じゃない。ちょうど今日は金曜日だ。俺たちは明後日の昼に帰ってくるからよ。その間に荷物をまとめて出てってくれよ。確か、実家も近いんだろ?俺はさぁ。ちょっと怖いお兄さん達とも知り合いなんだ。白木くんの実家に怖いお兄さんが行ってしまうかもしれないよ。」
そう言って、僕の肩をポンと叩く。
僕が怒りのあまり何も言えずにいると、
「まぁ。自分が変な約束を守って、優奈に手を出さなかったせいで、こんなことになったんだ。優奈のお硬い父親にびびって何もしなかった腑抜けた自分を恨みなよ。金は授業料ってことでよろしく〜!」
そう言って、二人は僕を振り返る事なく、ギャハハと笑って玄関に向かう。
優奈はリビングから出るとき、僕を見て、
「あんたの荷物、ほとんどあんたの部屋に置いてあるでしょ。私の部屋には絶対入らないでよ。明後日、出るときは鍵はポストに入れておいてね。」
そう言い残して、出ようとすると、彼女は玄関にあるシザンサスの花束を見つけた。
「あら?ATM君は優秀ね。私の好きな花を覚えていたんだ。でもね。今だから言うけど、私、この花あんまり好きじゃないのよね。だから、出ていく時、ちゃんと捨てておいてよね。」
そう言って、優奈は笑いながら、貴博を連れて部屋を出ていった。
僕はあまりに悔し過ぎて、彼女に何も言えず、ただふたりの背中を見送ることしかできなかった。
しばらく僕は呆然としていたが、優奈と貴博の言葉が、ずっと頭の中で繰り返されていた。
数時間経ち、窓から太陽の光が差し込んできたときら僕の心の中で、何かが「パキリ」と音を立てて割れた。
それは、僕をこの世界に繋ぎ止めていた細く脆い信頼の糸だったのだろう。
「う……あああああああ!」
絶叫が、マンションの部屋に響き渡る。
激しい喪失感と、裏切られた怒り。
そして、二度と取り戻せない二人の時間に、
僕の精神は沸点を超えた。
その時だった。
僕の全身から、粘り気のある乳白色の霧が溢れ出してきた。
それは意志を持つかのように僕を包み込み、外界を遮断する巨大な「玉子」みたいな形だった。
乳白色だけど、僕がいる内側からはマンションの家具とかは普通に見える。
「消えろ。なにもかも、なかったことになればいい!」
僕は右手を強く握りしめる。どす黒い負の感情が、右手に収束するみたいだ。
僕は悔しさのあまり、近くのテーブルに置いてある。僕と優奈が2人で撮った写真が入った写真立てを、無意識に殴ってしまった。
僕の突き出した右手には、光を一切反射しない黒い波動みたいなのがついていた。
黒い波動に触れた写真立ては、写真ごと砂のように崩れ去った。
僕があまりのことにびっくりすると、右手の黒い波動はすぐに消えてしまった。
僕は慌てて右手を見る。
「何ともない…。」
僕の右手は何ともない。
崩れた写真立ての破片や写真の切れ端を拾い上げ、繋ぎ合わせようとしたけど、接着剤を使っても、断面は互いを拒絶し、二度とくっつくことはなかった。
「直らない……。」
僕は、床に散らばった砂のような残骸を見つめ、悟った。
僕の心も、破れた二人の写真も、そして裏切られた愛も。
二度と元には戻せないんだ…。
僕は、乳白色の殻の中で一人、泣き続けた。
〜~~~~~~~~~~~~~
白木輪斗…、彼の涙が枯れ果てたとき、そこには失恋した男の姿はなかった。
この時、後にすべてを修復不可能な虚無へと帰す「魔王ハンプティ・ダンプティ」が誕生したのである。
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