第12話
空中をジグザグに動き回り、追尾する槍からただ逃げ続けている────ように地の精霊使いへ印象付ける。反撃の意思などは一切見せず、回避がやっとの状態だと信じ込ませる。
一瞬たりとも気は抜けない。風の精霊の探査能力を全開にし、紙一重の回避を演出する。掠めただけでも肉が抉り取られるのは容易に想像がつく。
そもそもの話、傷を負ってほんの僅かでも硬直すれば、そこへ攻撃が畳み掛けられるだろう。一撃でもまともに受ければ致命傷となるというのに、そこにある全てを受ければ原型も残らない。
「視界がグルグル回って気持ち悪い」
來花の顔は青い。常に視界が変化し続ける光景は素人には辛い。風の精霊使いのような空中戦を得意とする者でなければ、大抵の術者は彼女のように弱音を吐くだろう。
青嵐は平坦な声で言い放つ。
「目閉じとけ」
「分かった」
心遣いなど一切感じさせない声音だったが、今の來花にはそのことを責め立てる余裕はなかった。反論せず、素直に目を瞑る。
もし平常時であったとしても、この状況を打開する策が思いつかないのであれば、彼女は自身の無力さに嘆くしかなかっただろうが。
(高度を上げようとしたら槍が雨のように降ってくるな……射程圏内から俺を逃さないためか)
攻撃が苛烈になり、上空へ避難しようとしたが地の精霊使いはそれを許さない。思考を読んでいたかのように青嵐の頭上に土埃を滞留させ、馬鹿げた速度で土砂の槍を落とす。指向性に気を遣っていない分、先程までの倍以上の速度で襲いかかってきた。
青嵐は自力での回避は困難と判断し、咄嗟に身を翻すと同時に風圧で自らを吹き飛ばす。風が全身を叩くも、衝撃は殆どない。風の結界はなくとも、風の精霊が起こした風によって彼の五体が受けるはずだった衝撃のみを相殺したからだ。
但し、青嵐が躱した土砂は全て地上へと降り注ぐ。ゲリラ豪雨のような局地的に発生した雨は、都市内で外に出ている者達に被害を齎す。
土砂の中には鋭い破片や尖った砂粒もある。それが銃口から弾丸が射出される以上の速度で炸裂する。人間の皮膚などでは到底防ぎ切れるはずもない。阿鼻叫喚が眼下の至るところから聞こえてきた。
「一般人への被害もお構いなしだな……まー俺も気にしたことはないが」
青嵐は聞くに堪えない悲鳴の渦の中で冷然とした感想を口にしつつ、無尽蔵に生み出される土埃を睨みつける。
「キリがねえな、マジで」
愚痴を零しつつも、その表情に焦燥は微塵もない。青嵐に打つ手がないように、向こうも決め手に欠けている。いくら攻撃しても当たらず、時間ばかりが過ぎていくだけ。
完全な膠着状態だ。彼の手腕でそう思わせている。
正直なところ、これ以上長引くのを彼は望んでいなかった。そこへ風の精霊からの報せが届く。彼の脳に直接イメージが送り込まれた。
「来たな……」
青嵐は呟く。その表情は引き攣っていた。
確かに彼の予想通り、地の精霊使いはこの均衡を崩すべく、大技を繰り出してきた。
青嵐の顔を巨影が覆い、天をも飲み込む勢いで迫り来る。
「ここまでとは思ってなかったがな」
最早、天災。
高層ビルをも上回る高さの砂壁が、津波のような勢いで押し寄せてきた。
風の精霊使い @gjadmw
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