シネマ

空風みゆ

第1話 雨のシネマ

シネマの街に降る雨は冷たく乾いている。霧が足下を掬い、気をつけないと転んでしまいそうなほどだ。遠くに見える海は少し荒れているように見える。

「次の任務は?」

人の少ない路地を抜けて、人道の真ん中で立ち止まる男。その手には最新型の電話機が握られていた。レンガの壁に背中を預けて、雨に打たれていた。

「…大丈夫、今度はしくじらねぇ。…わかってる。次やらかしたら…まぁその話は任務のあとにしてくれよ。傘を忘れてね。生憎金もカツカツで。寒いんだよ。…えぇ、それじゃまた」

柔らかそうな短髪を金に染めたピアスを耳たぶに開けているスーツを着崩した男は通話を切り、ため息を吐く。

「…クソッ考えただけで吐き気がする。…あいつが死んだのは俺のせいじゃねぇ。ボスめ、ぜんぶ俺のせいにしやがって。すぐこんなクソみたいなチンピラだらけの集まりから抜け出してやる」

そう呟いて雨で濡れたアスファルトを睨む。男は銃を取り出し、レンガの壁に向ける。

「………」

だが引き金が引けない。

「…やっぱりなぁ。アイツか。俺達の任務を邪魔した奴ぁ。弾ァぜんぶ抜きやがって。どーりで前の任務でトリガー引けなかったワケだ」

男は舌打ちして、銃をポケットに突っ込む。そして歩き出す。だが途中で止まり、ポケットに入れた銃を捨てた。

「……」

男、もといラグイは雨に打たれる銃を革靴で踏み、道路に向かって蹴った。乾いた音をたてて銃は転がる。

煙草を取り出して、火をつける。だが火はすぐ消えた。

「……クソッ」

それは何に向けられたものではなかった。

湿った息を吐いて、歯を食いしばる。

夜はまだ始まったばかりだ。

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