『ぐーたら聖女は硬すぎる!防御力99999で勇者パーティーを追放された私は、辺境に最強要塞を築いて引きこもります。~物理も魔法も騒音も完封して、今日ものんびり昼寝します~』

結城結乃

第1話 聖女、勇者パーティーをクビになる。――え、いいんですか!?



「エリス、お前はクビだ」


 宿屋の食堂に、勇者アレクの怒号が響き渡った。

 使い古された木のテーブルがガタンと揺れ、スープの皿が小さく跳ねる。周囲の客が驚いてこちらを見ているが、そんな視線はどうでもいい。

私はあくびを嚙み殺すのに必死だった。


「……ふぁ。え、あ、はい。クビですか。了解です」


 こみ上げてくるあくびを噛み殺しながら、私は間抜けな返事をした。


「なんだその態度は! もっとこう、泣いてすがるとか、反省するとかないのかッ!?」


 アレクが顔を真っ赤にして身を乗り出してくる。

 隣に座る賢者のルナも、眼鏡のブリッジを押し上げながら冷酷な声を重ねた。


「エリス、あなたは聖女としての自覚が足りないわ。あなたの魔法は『防御魔法』だけ。しかも、その使い勝手が最悪なのよ。……正直、パーティーの効率を下げている自覚はあるかしら?」


「そうだよ! お前のバリア、硬すぎなんだよ!」


 戦士のガインも、待ってましたとばかりに拳で机を叩く。


「俺たちが攻撃しようとしても、お前のバリアが敵ごと遮断しちまうから攻撃が通らねぇ! おまけに防音機能までついてるせいで、連携の合図も聞こえなくなる! お前は俺たちの邪魔をしてるだけなんだよ!」


「回復魔法一つ使えないお前なんて、ただの硬い置物だ。これ以上、魔王討伐という崇高な旅に足手まといを連れていくわけにはいかない。……分かったら、さっさと出て行け」


 アレクがビシッと私を指さす。

 つまり、まとめるとこういうことらしい。

 私の防御力が高すぎて邪魔。

 聖女のくせに回復もできない役立たず。

 だから今すぐ消えろ。

 私はコップに残っていたぬるい水を飲み干し、ふう、と深く息を吐いた。

 そして――人生で一番の、とびきりの笑顔を浮かべた。


「分かりました! 今まで本当にお世話になりました!」


「は……?」


 拍子抜けした顔をする三人を置き去りにして、私は軽やかに席を立つ。


(やったああああああああ! やっと、やっと解放されたああああ!!)


 実のところ、私は限界だったのだ。

 魔王討伐? 世界平和? 知ったことか。

 私は、とにかく眠いのである。

 野宿をすれば「結界を張れ」と言われ、寝ずの番を押し付けられる。

 移動中の馬車はガタガタ揺れて安眠の妨げ。

 おまけに魔物との戦闘は金属音がうるさくて、耳栓代わりの結界を張れば「連携を乱すな」と怒鳴られる。

 前世、ブラック企業で残業の末に過労死した私が、死に際に神様に願ったのは、ただ一つだけ。

もし、次の人生があるのなら、『絶対に死なない、誰にも傷つけることができない頑丈な体が欲しい』

 その結果、与えられたステータスはカンストの防御力【99999】。

 物理・魔法・精神干渉、さらには「騒音」や「空気抵抗」といった環境要因までをも完璧に遮断する固有魔法『絶対聖域』を携えた、世界一硬い聖女が爆誕してしまったのだ。

 確かに勇者たちの言う通り、私の結界は融通が利かない。

 なぜなら、私が「痛いのは嫌」「うるさいのは嫌」「不快なのは嫌」と願うだけで、私の意志とは無関係に、あらゆる「不純物」を弾き返してしまうからだ。


「じゃ、手切れ金代わりに、この宿代はそっち持ちでお願いしますね。では、失礼しまーす!」


 私はスキップしそうな足を必死に抑え、階段を駆け上がった。

 さあ、これからは自由だ。

 人里離れた静かな場所へ行こう。

 誰にも邪魔されず、虫一匹通さず、適温に保たれた最強の引きこもりハウスを作るのだ。


「……ふふ、ふふふ。枕、何個買おうかな。抱き枕も新調しちゃおうかな」


 こうして私は、勇者パーティーを追放された。

 この時の私は、まだ知らない。

 防御力99999の聖女という『絶対安全圏』を失った勇者パーティーが、このあと最初のダンジョンで、ゴブリンに全滅しかけることを。

 そして、私の目指す辺境スローライフが、私を放っておかない人々によって、勝手に騒がしくなっていくことを。


「待ってろ、私の理想の二度寝生活……!」


 聖女エリス、17歳。

 今日、無職になりました。

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