第3話 進展

通常業務から護衛業務に転じたヴェルナーは、制服から私服に着替えた。

そして、幾つかある応接室の1室に待たせてある依頼主の元へ向かう。

「今日から暫定的に護衛に着く事になったヴェルナーだ。詳しく話を聞かせてくれ。」

彼女は、目を眇めて不審そうに男を睨んだ。

「さっきと随分態度が違わない?」

ヴェルナーは肩を竦めた。

「さっきは受付としての対応だ。今は護衛の冒険者だから、態度も違って当然だ。」

「武器とか持ってないけれど、本当に護れるの?」

丸腰なのが、気に入らないらしい。確かに、見た目が厳つければ、居るだけで牽制にはなるだろう。

「必要とあればぶら下げてもいいが、俺は武器は使わない。」

「そう。」

「義母がお前を殺そうとしている、動機に心当たりはあるのか?」

「私が、美しいから。」

これ以上無くふざけた理由をエリザは大真面目に言った。

「は・・・?」

「私が義母より美しいからよ。」

彼女は啞然としている護衛を射殺さんばかりに睨み付けた。

ヴェルナーは頭を振った。

男絡みとか、継承争いとか、遺産相続とかなら分かる。だが『美しさ』?理解出来ない。

脳内に『動機調査の必要あり』とメモる。残念だが、依頼主の供述は役に立ちそうもない。

「とりあえず、相手の出方をみるか。」

本当に命を狙われているのか。そして、狙っているのは本当は誰なのか。

それは、襲ってくる相手に聞いた方が早そうだった。



エリザは、『緑の月』という中堅クラスの宿に泊っているという。

「まずは、もう少し動きが取れる服にするか。」

レースとフリルをふんだんに使った淡いピンクのドレスは余りに目立ち過ぎる。自ら標的はここだと言って歩いているようなものだ。

「私、こんなダサい服は嫌よ。平民の着る服じゃないの。」

飾り気のない、焦げ茶色のワンピースを見て、エリザは眉をつり上げた。

「死にたくないんだろ。」

「この服を着たら死なないっていうの?」

「確率は下がる。相手は、ドレスを着た高飛車なお嬢様をさがしているだろうからな。こんな平民服を着てるとは思わないだろ。」

 エリザは暫く男を眺め、今の発言が本気で言っているのか確かめた。

「ヴェルナーって意地悪ね。」

 彼は心の底から不思議そうにエリザを見下ろした。

「意地悪?俺が?」

「こんなに可愛い女の子が命を狙われて怖がっているのに、もっと優しく出来ないの?」

「俺はお前を護衛するのにどれくらいのランクが必要かを調べるだけだ。そういう事は、正式な護衛に頼むんだな。」

「最低っ!」

やれやれ。

年頃の女の子の扱いは難しい。

娘どころか恋人もいないヴェルナーは、深いため息を吐くのだった。



それから数日の間は何事も無く過ぎた。四日目の夕刻、近くの食堂で食事をとって部屋に戻ると、宿の女将が綺麗なリンゴの入った籠を持って来た。

「ほら、届けものだよ。」

「届けもの?」

「あんたらが、市場で買ったんだろ。ここに届けてくれって言って。」

ヴェルナーは、どんと手渡されたリンゴを見下ろした。

「いや。俺達はそもそも市場には行っていないが。」

「そんな事わたしに言われてもね。とにかく、渡したよ。」

後はそっちでやっておくれ、と女将は早々に立ち去っていった。

ヴェルナーは、部屋に戻り、じっとリンゴを眺めた。

全部で4つ。真っ赤に熟れたリンゴは、甘い芳香を放っている。

「あら、どうしたの?美味しそうね。」

果物を見た、少女のテンションが上がった。

「一つ剥いてちょうだい。」

「お前は、怪しいとか思わないのか?」

「何が?」

「俺達が買っていないリンゴが何故ここに届けられる?」

「サービスでしょ。」

「そんなわけあるか。」

エリザは、一向に剥く気配の無いヴェルナーに痺れを切らした。一つリンゴを掴むと、腰から短剣を引き抜いた。

そして、リンゴの登頂部に、えいっと力任せに突き刺した。

グシャっと、短剣は見事にリンゴに刺さり、瑞々しい汁がテーブルに飛び散った。

「・・・・・・・。」

 エリザは、短剣を引き抜こうと暫し格闘した。

「もういい、俺がやる。」

放っておくと、リンゴを切る前に自分の指を切りかねない。見兼ねて、別のリンゴを掴み、ナイフで皮を剥く。

一つ分かった事がある。

彼女は嘘をついている。たかが男爵家の娘が、平民服を嫌がったり、リンゴの皮一つ剥けないなどあり得ない。

ヴェルナーは、リンゴを一切れ切り取ると、慎重に口に含んだ。

特に変わった味やに匂いは無い。だが、ゴクリと嚥下した途端、冷や汗が流れた。

「駄目だ、それを食べるな。」

目の前がグラグラする。

呼吸が苦しくなり、立っていられない。机にもたれる様に、床に倒れた。

「ヴェルナー!」

エリザの悲鳴の様な叫びが遠くに聞こえる。

「〈解毒〉」

すっと呼吸が楽になった。

手足がまだ冷たい。即効性の致死毒だ。危ないところだった。

「大丈夫だ。」

血の気の無い顔で、彼はよろよろと立ち上がった。

完全に毒の効果を消し切れていない。短時間でかなりのダメージを負ったようだ。

この事件の首謀者は、相当殺意が高いに違いない。

「お前が狙われているのは、本当の様だな。」

「そう言ったじゃない。信じて無かったの?」

半分は信じていなかった。

「俺はちょっと休む。部屋に鍵をかけて、絶対に外に出るな。」

彼女が、慌てて部屋の鍵をかけに行くのが分かった。

果たして、相手はどう動くのか。

ヴェルナーは、倒れ込むようにベッドに転がり目を閉じた。







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冒険者ギルドの何でも屋さん 暁 黎 @elys8940

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