第2話 依頼を受注します
たっぷり30秒程、ヴェルナーは黙って美少女を眺めた。
「込み入った話の様ですので、奥の部屋で聞きましょうか。」
冒険者ギルドで『暗殺』は請け負えない。
それは、闇ギルドの管轄だ。
ギルド内には、内密な話をする為の防音魔法を設置した部屋が幾つもある。
幾ら仕事でも、若い娘と自分の様な男が2人きりは不味いだろう。やむなく、一番奥のギルド長室を叩く。
「すみません、部屋をお借ります。」
「入れ。」
部屋に入ると、ギルマスがまたか、と呆れた笑みを浮かべた。
今年35になるギルマスは、赤い髪の大柄な女性だ。元S級冒険者であり、見た目も怖い。
依頼主の少女は、びくっと肩を震わせた。
「失礼。このままだと濡れますので。」
一応断りを入れて指を鳴らす。
「〈乾燥〉〈温風〉」
一瞬で、びしょ濡れの髪とドレスが乾いた。ついでに、床も。
ヴェルナーは応接用のソファーを勧め、自分も彼女の反対側に座る。
「申し訳ありませんが、冒険者ギルドで『殺し』は請け負っておりません。それは、他ギルドの管轄ですので。」
その一言に少女はお金の入った革袋を堅く握りしめた。
「ですが、『護衛』であれば可能です。詳しく話を聞かせてもらっても?」
少女の名前は、エリザ=フィール。田舎の男爵家の一人娘だという。小さい時、産みの母が他界。その後、父親が再婚。そして、2年前には父親も他界した。問題はその義母だと言う。
「義母は私を殺そうとしているんです。」
彼女は乾いたドレスの裾を破かんばかりに握りしめた。
「一度目は、家の使用人が私を森に連れ出してナイフで刺そうとしました。」
「なるほど。」
穏やかでは無いな、とヴェルナーは手元の紙にさらさらとメモった。
「どうにか逃げ出して、親切な方々に匿って頂きました。でも、其処に物売りに扮した刺客がやって来て、紐で私の首を締めたんです。」
「あなたの居場所が特定されたと?」
「はい。幸い、その時その家の者達が帰って来て刺客を撃退しました。」
「これが2度目ですね。」
匿ってくれている人たちは、強そうだな、と思いつつメモを続ける。
「そして、この間買い物に出た時に櫛を買ったのですが、その櫛には毒が塗ってあって。匿って下さった方の一人が、その櫛を使って犠牲に・・・。」
彼女の大きな瞳から、涙がボロボロと零れ落ちる。
「私は怖くなって逃げ出しました。でも、何処で追手が来るか分かりません。もう、義母を殺すしか私が生き延びる事は出来ないんです。」
「・・・・。」
よくあるお家騒動というやつだろうか。同情はするが、解決は出来ない。冒険者ギルドは『殺し屋』では無いのだ。
「とりあえず『護衛』を雇われては如何でしょうか。明確に殺害の証拠を掴む事が出来れば、法に則って裁けるかもしれません。しかし、もし、どうしても暗殺を望むなら、『闇ギルド』に依頼して下さい。どうしますか?」
何処迄も淡々と事務的なヴェルナーに、ギルマスがクツクツと忍び笑う。
「お前がやれ。」
今にも崩れ落ちそうな少女を見下ろして、ギルマスはヴェルナーに命じた。
「『護衛』の依頼をかけるにも、ランクの査定が必要だ。まずはお前が調査して、それから依頼を出せばいい。」
「え・・・。」
ヴェルナーは、露骨に嫌な顔をした。
何故かギルマスは、この手の塩漬けになりそうな、面倒な仕事を毎回彼に押し付けてくる。
「お嬢さんもそれでいいだろか。命を狙われているなら、今すぐ『護衛』は必要だ。闇ギルドに行くにも、お嬢さん1人では難しいだろう。この男は、見た目はこんなだが、役に立つ男だ。正式に依頼を出して護衛が決まる迄、側に置いておくといい。」
彼女はたっぷり一分程、上から下までひょろっとした男を見回した。本当に自分を護れるのか、かなり訝しんでいる様だ。
そして、どのみち選択肢は無いと諦めたらしい。諦観の表情を浮かべて頭を下げた。
「はい、それでお願いします。」
「では、とりあえず報酬や期限について話ましょうか。」
一般事務方職員の筈なのに、何故か護衛をする事になったヴェルナーは、まずは本来の『依頼受付』業務に取り組んだのだった。
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