第2話

 ストロングのロゴが入った小包が届いた。

 60サイズ程度の大きさだ。

 なんか頼んだっけかな……数日前の酔っ払っていたときのことはよく覚えていない。

 いつもの酎ハイのブランドからだった。

 箱を開けると、腰に付けるようなサイズの黒のポーチにレモンのマークとストロングのロゴ。おぼろげながら、何かの懸賞に当たったことを思い出し息を呑む。

 ご挨拶と書かれたペーパーが一枚。

 なになに、と読むと変な声が喉から出てきた。

 探索者初心者セット。

 マジックポーチE級と書かれた下に探索者セットとしてナイフ、ショートソード、防具としてローブ+皮帽子+皮鎧+革手袋+探索靴。スマホアプリはサブスクだったが、1年無料の権利が付属していた。

 どれにも小さくストロングのロゴが入っていたが、もともと好きなものでもあるので気にならないとも思った。

 マジックポーチだけでもE級。

 これは、ちょっと高級なマッサージ機とかそういうのみたいに便利だしほしいけど中々手が出ないとかそういうもの。

 中身を確認する前にマジックポーチについて調べてみる。

 今まで自分のところにマジックポーチがやってくるだなんて考えてもなかったため価値もお高いとかわからなかったのだ。


「G級が40リットル。これでも十分でかいよな。10万そこそこか。でもまあ、これだったら登山用のリュックとかで間に合いそうだけど。F級が160リットル。これでもかなりでかいよなこうなってくるとマジックポーチっていう感じがするけど……F級で安くて35万か。こうなってくると手が出ないな。さて、E級は1.6㎥。どのくらいだ?軽トラの荷台が2㎥??軽トラの荷台の8分目くらいなのか……値段は、中古の軽トラよりは高いな。98万するのか……。」

 喉がごくっとなった。

 テーブルの上のマジックポーチはE級。

 軽トラを入れるわけにはずいぶん少ないけれども、バイクとか自転車ならこれで持ち歩きできるとか?マジか!

 手に持っても重さはポーチ自体の素材の重さくらいしか感じなかった。

 何なら帆布とかのものよりも軽いまである。

 問題は、ストロングのロゴが入っているところくらいだが、そのロゴ自体が好ましいという感性なのにモーマンタイ。

 すでにちょっとした宝くじに当選したようなものだった。

 別に探索者にならないにせよ、このマジックポーチで勝ち確。

 色々と調べてみると、E級のマジックポーチはE級かF級上位の魔物が稀にドロップするか、稀にダンジョンギミックと呼ばれる宝箱やブックシェルフなどで得ることができるらしい。

 しかし、マジックポーチやマジックバックにマジックポーチやマジックバックは入らないという仕様があるので、ダンジョンの同ランク帯以上のものが推奨されるのだそうだ。そうじゃないと、ドロップも持って帰ることができなくなってしまう。

 C級だと15㎥。

 これだと車も運べるな。

 ここからはオークションで、安くて1000万か。

 全く縁がないだろう。

 しかし、いま手元にはE級の約100万円のマジックポーチがある!これは、嬉しい……が、よくよく見ると級は同じでも高いのになってくると更に時間遅延効果が出てくるのだそうな。

 そうしてみるとE級でも安いほうだが、それはあたり前だろう。

 そりゃそうだ。探索者初心者セットなんだから。

 でも、これはかなりデラックスな初心者セットじゃないか?

 詳しい内容品の説明は、入っていたペーパーのQRコードを読み取った先のサイトにあった。

 ジャッカルシリーズと呼ばれるヘルメット・胸当て・グローブ・探索靴のストロングコラボカラー(ダブルレモン)のものと、有名探索者監修のショートソードとナイフのセットとなっている。

 ナイフと言っても剣ナタみたいな大ぶりのもののようだ。

 やはりメタリックな黒と黄色のダブルレモンなストロングカラーが施され、小さくストロングのロゴが入っている。まあ、いざダンジョンに入るとした場合、見た目よりもいかに生き残るかが大切だ。

 ポーチ自体は黒い革製の中にストロング!のロゴが小さく入っているだけなので、普段遣いできるだろう。

 ロゴの下に小さい魔法石があしらわれたバックルがあり、なめらかな何かの革製のようだ。

 仕様書を一通り眺めてから、簡単ガイダンスとか言うのはほっぽって、徐ろにポーチを開いてみた。

 静電気のようなバチッとした感覚があった。

 なるほど、備忘録を思い出したような感覚で中の入っているものが自分が認識しているよりも更に詳しくわかるところが素晴らしい。

 これぞ、ファンタジーだ。

 剣を取り出すイメージ。

 すると梱包された状態の剣がニュッとポーチから出てくるが、重いな。

 ゴトッとフローリングにそのまま置く。

 なるほど梱包してなかったらもし落っことしたりしたら事だ。

 じゃあ、鎧とかも全部梱包のままなのだろう、と取り出すと確かに全てきちんと梱包された状態だった。

 基本的にダンジョンドロップ品だと、装備したときに体格に合わせて調整されるはず。

 とはいえ、それは鎧や剣を装備するときの話であり、今日はいったんすべてポーチから取り出してみた。

 梱包状態の鎧などは出してみるとかなりの分量だということがわかった。

 これだとやっぱりE級ポーチは最低限必須だったんだろう。

 仕様書の他に説明書も入っており、その中には探索者登録について説明されていたが……これは。

「マジックバックは、登録制なのか。入手した場合は探索者登録しないと罰金か懲役もあるのか。」正直面倒くさい。

 しかし、手に入ったこれを手放すことなどできるわけもなく、次の日にすぐ急病の連絡を会社に入れて探索者センター宮城支部に向かったのだった。


 探索者センター宮城支部は、仙台駅の二階ペデストリアンデッキを歩いてすぐのEAR仙台ビルから更に少し歩いたEAR仙台アネックス館にある。

 このアネックス館はアバホテル仙台に隣接して建っていたビルで、探索者ギルドは1階と2階の全フロアで1階フロアにはコンビニのロードンも入っている。

 仙台出張の会議などでアバホテルは利用機会が何度かあったのが、隣のビルにEAR仙台アネックス館なるものがあるとは把握していなかったし、興味もなかった。

 まさか、自分が来ることになるなんて……。

 ビルの内部に進む。探索者センターといってもお役所だからか、あまり寄ったこともないけれども市役所みたいな感じだ。

 ある意味華やかな探索者のイメージとは違って全く華美ではない。

 入口入ってすぐにある発券機で受付番号を取るのか。

 探索者センターの制服姿のコンシェルジュのようなホテルマンのような風体の人がロビーでこっちを見ている、と思いながら発券機に向かう。

 発券機は2台並んでいて同じ内容のもののようだった。

 画面はタッチパネルで、個人と団体から選ぶところがあり、個人を選ぶと『探索者証の申請・再発行』『ステータスの確認・証明書発行』『その他』の選択肢がある。探索者証の申請・再発行をタップする。

 13番。

 まだ、平日の午前中ということもあるのか、混雑とは無縁だ。

 人工音声で番号を読み上げられる。

 1番カウンターの上の電光掲示板に13番が点灯している。

 探索者センターの制服は自衛官のそれによく似ている。

 もともとの根っこは同じようなものなのだろう、と探索者の歴史に疎い瀬田は考える。

「探索者証のことでのご案内でよろしかったでしょうか?」

 はい、はい、と瀬田は急いでストロングの懸賞に入っていたご挨拶と書かれた手紙を見せる。

 受付の女性は随分年若くて、とんでもなく可愛い。

 高レベルの探索者は生命としての劣化を克服できるというヤツだろうか。

 胸は控えめだが間違いなく国民的アイドルレベルのように瀬田には思えた。

 女性は苦手だ。と、内心思いながら女性が手紙を読むのを待つ。

「なるほど、それではマジックバック取得の登録となると、探索者の登録からですね。それでは、こちらの端末にマイナンバーカードでログインください。」

「あれ?マイナカードとか必要なんですか?運転免許証ならあるんですけど……。」

 女性は、はい……、と言ったあと「それでは、個人番号の記載のある住民票はお持ちではありませんか?」との返し。

 マイナカードがあれば解決だったのに、すぐ横のコンビニで住民票の発行もできるにもかかわらず、それにもマイナカードが必要……詰んだ。ガックシ。

 普段使わないと思ってしまっていたし、説明書きとかを良く読まないのが悪いのだけど、なんだかくさくさくるのは人間が小さいな……出直すか。

 それではまた来ます、と帰り掛けたとき女性の後ろから上司らしい大柄で体格の良い中年男性が「あーあれだな、こちらの方は例のストロングの案件の方だから……。」と低い声。ヴァリトンボイスだな、良い声のおっさんだ。

 まあ、俺もおっさんだが!

 ストロングの会員登録からの個人情報のクロスセル同意書に署名した。

 取引時確認は運転免許証で行い、個人番号に関しては後日マイナポータルを通じて行えば良いのだそうな。

 今日の休日が全くの無駄足になるところだった。

 上司のおっさんナイスアシスト!

 探索者カード申請のつもりできたのに、まさかの即日発行に驚いた。

 通常は2週間程度の待ち時間と本人確認郵便での受取のはず。

 ここで言えるのは、ストロングの初心者セットすげぇ!!

 早速、ステータスの確認と証明書の発行もお願いするが、それは探索者カードがあれば入口にあった受付端末やコンビニのマルチプリンターでもできるって言うことだが、説明を聞いているうちになんだか面倒になってきた。

 考えてみたら、今更なにかに覚醒して、どんなにすげぇスキルがあろうが、目標はせいぜいが多少の収入とマジックポーチの使用登録ができれば満足であるのだから、ステータスの確認はしなくてもいいだろう……。

 どうせ文字化けスキルのFクラスさ。

 ダンジョンに入ってから行ってください、か。

 ダンジョンは近くだとは言え地下鉄で乗り換えが必要な宮城第三ダンジョンでも、もうなんか面倒だな。

 窓口で受け取ったある種の装備と魔力同調をするための”リンカーリング”を手に取り、すぐに左手中指にはめてみるとすぐに外れないくらいに縮まった。

 そして、『魔力を流してください』との脳内メッセージ。

 すげぇ。

 すでに非日常でファンタジーしてる!

 ロールプレイング・ゲームみたいなゲームとかのメッセージウインドーみたいに、半透明だけどしっかりそうと読める字だった。

 魔力……と考えているうちに、『ペアリング』と、表示されたので何だったのかよくわからないけれども、これで魔力同調は完了したのだろう。

 これは思ったより簡単だ。これで……マジックポーチは自分専用だ!!

 たとえ、リンカーリングを外してもロックは掛かったままだ。

 瀬田は、左手中指の鈍色で白い線の入った地味な指輪を見つめる。

 

 それよりも、面倒なのが初心者講習だな。

 ダンジョン法と技術の座学が全4時間のリモート。

 そして、実地講習が1日というものだった。

 何も、期待される余地などないはずなのに思ったよりも手厚い内容だった。

 が、そんなことはこっちは知ったことではなくちょっとした小遣い稼ぎとマジックポーチさえ使えればいいのに。

 それだけなのに。

 なんでか、この実地講習会には、仙台を中心に活動するA級探索者クランの『伊達武将隊EX』が行ってくれることに……望んでないが。

 本来ならありがたいと思うところかもしれないが、ストロングの会社もそうだし探索者センターの大本の総務省ダンジョン庁もそうなんだろう。

 当然のごとく、それは探索者の宣伝に使われることになるようだ。

 初心者講習の日程予約の際にまずタブレット端末で”同意します”にチェックさせられたのは承諾書の類で、事故防止のための映像記録の取得に関してと、一部の利用に関するものだ。

 あのダンジョン庁のCMで自分が出ることになることなぞ、正直ゾッとしないものなので、その場合は必ず個人て特定がされないように加工していただきたいとの申し出をしたが、それはプライバシー保護の枠組みの中のことなので心配はいらないということを説明された。

 なんだか、腑に落ちない部分があったが今はここを乗り切るしかないという思考に突き動かされる。

 今週の土曜日に講習会の予約を取り、月曜日である今日から金曜日に掛けて座学は完了しておく旨の説明を受けた。

 座学は映像資料の閲覧とEラーニングに分かれており、セクションごとに確認テストがあり、実地終了までをドキュメントとして記録してそれを探索者協会の宣伝に使われるの、どうたらと、もうなんだか疲れた。

 ここへ来て、瀬田はマジックポーチを腰につけてみた。

 カメラバックとかとは比べ物にならないコンパクトさだ。

 それでいて軽くて、それでいてそれでいてこれはマジックポーチなのだ。

 スーツの腰につけたとしてもあまり気にならなく上着の下に隠れてしまいそうな大きさのポーチであって、これに自転車とかバイクとかのラスト1マイルの足が入っているとかもうドキドキが止まらない。

 もう車とかいらないんじゃないか……維持費も高すぎるし。

 とにかく、今日の俺はよくやった。

 瀬田は、帰りに仙台駅で鯖寿司を買い、降りる駅の駅ビルのスーパーでストロングを2本買って、それぞれをポーチに収納した。

 そして、手ぶらで駅を歩き、駅裏の有料駐車場のマイカーに乗り込む。

 たったそれだけのことくらいで、涙が出そうになった。

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