本文
鏡花がいじけている。俺はどうしても確認したい事があって、午前中は別行動していたのだが、話によると、途中から昼に予定していたうどん屋が閉まっていた事、代わりに選んでいたチェーン店も閉まっていた事が原因であるらしい。
その腹いせにタピオカミルクティーをの飲もうとしたのだが、ストローを刺した途端、中身があふれて服を汚してしまったらしい。俺が来た時には中身を吸い上げているせいか、不機嫌なせいか、頬袋がパンパンに膨れた状態で飲んでいた。
別に此方に当たり散らす事はなく、睨むような真似もせず、ただひたすらに無口になるのだ。あとは真顔でいる事が多い。これが俺に非がない時の鏡花のいじけ方だった。
此方からの慰めを必要として無さそうだったので、俺は俺で好き勝手に振舞っていた。
「本屋寄るけど、お前も来るか?」
「行く」
そう言うと二つ返事で立ち上がった。
誘ったは良いが基本的に別行動。見たいもの、欲しいものはそれぞれ違う。俺は鏡花と出会う前に探していた本を探しに掛かったのだが、この店舗でも見つかる事は無かった。
諦めて鏡花を探すと、彼奴は少女漫画、レディースコミックの売り場にいた。視線の先には出版社が同じでジャンルの違うコミックが、正面を向いている。しかし彼奴が熱を注いでいるのはただ一つであった。
――馴染めないのは、この街だから? それとも私が私だから?
「私、今日は何処からも爪弾きにされたの。神に祈っても、やってない店は多々あった。居場所という居場所はそうした意味では無かった。けども」
鏡花の目が此方を捉える。じっと此方を向く。
「あの漫画に登場する場所は、今の私が行くべき場所ではない。あれは本当に吹き溜まり。何処にも行く場所がなくて、帰る場所もない人が最後に行き着く場所。誰も彼もが入り浸れる場所ではない」
其から一呼吸置いて、ただ淡々とこう言った。
「あの場所からも弾かれたら、本当の意味で居場所なんか無いよ。全てに置いて必要とされず、最後の最後で唯一全てを甘やかしてくれるのがあの街なんだから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。