第2話アンデゥトロワ



***




会社の掲示板に貼られた「社内バレエレッスン体験講座」の文字に惹かれ、私と同僚たちは軽い気持ちで申し込んだ。


当日、会場の多目的ホールには、わくわくした顔の参加者たちが集まっている。

「先生、どんな人かな?」

そんな会話の途中、ドアが開き、カツン、カツンと場違いに硬質な音が響いた。


そこに立っていたのは、私たちの部署を統括する、あの超クールな部長だった。

しなやかなブラウスにプリーツスカート。そして、足元には床を射抜くような、黒いエナメルのロングブーツ。


「「ぶ、部長!?」」

ホールがざわめく。

配られたバレエシューズを手に、誰もが部長の足元と顔を交互に見た。


一人の勇気ある同僚が、おそるおそる口を開いた。

「あの、部長…。バレエレッスンですが、そのブーツは…?」


すると部長は、心底不思議そうな顔で自分の足元を見下ろし、きっぱりと言い放った。


「バレエは『つま先立ち』が基本でしょう? だったら、常にその状態をキープできる、このピンヒールが一番合理的だと思ったのだけれど。何か問題でも?」


―――合理的。

その一言で、ホールに張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れた。


「「アハハハハハ!!」」


誰かが噴き出し、それが全体に伝染する。

「つま先立ちをピンヒールと勘違いしてる!」

「まさかの天然!」「アホか!」

私たちは腹を抱えて笑い転げた。


その時、部長の冷たい視線が、笑い声のひときわ大きかった私をロックオンした。

彼女は完璧な微笑みを崩さぬまま、静かに、しかしはっきりと告げた。


「あなた。私の合理的な判断が、そんなにおかしい?…そう、クビよ」


一瞬にして、ホールから笑い声が消え失せた。

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