聞いてた異世界と違う!
やなぎシアン
序『思い描いた人生と違う!』
参った……。
まさかまたココに来るなんて……。
あんなに悩んで選んだ仕事だったのに……。
「…………はぁ……」
溜め息混じりに建物の中に入ると受付には愛嬌の無い女の……子?が座っていた。
正直、この年齢になるとパッと見ても相手が年下なのか年上なのかサッパリ分からない。
昔は『大人なお姉さん』に見えた年齢も、今では『若い女の子』にしか見えないし……。
「すみません。久しぶりに利用しようと来たんですけど」
「はい?検索ですか?」
「……そうです」
「どうぞ」
そう言いながら『2番』と書かれた札を差し出す女の……子?
「……これでもう使えるんですか……?」
「はい?使えますよ?2番です」
「……あ……はい……」
言われるがまま札を受け取り検索用パソコンの所に向かってはみるけど……ちょっと腑に落ちない……。
「………………」
え?何あの子?ちょっと冷たくない?
これでツンデレとかだったら分かるけど、当然そんな展開なんてあるわけ無いじゃん?現実だし。
だとしたら冷たくない?
あれなの?やっぱりこんなトコに来るような人間だから『クソニートが!』って見下してんのッ?
ねぇ?そうなのッ?
そうなんでしょッ?ねぇッ??
「………………」
周囲を見渡しながら2番のパソコンに座るが……何というか思ってたよりも人がいない。
近年は若者の県外流出でハローワークも売り手市場だっては聞いたことあるけど……それにしても人がいない……大丈夫なの?この町?
まぁ……いっか。とにかく検索だ。
「……条件で探そう」
年齢……31歳……あぁ……なんか現実が心に突き刺さるなぁ………。
就業形態……もちろんフルタイムで。
雇用形態……もちろん正社員で。
就業場所……市内……かな。
職種は……こだわらない!本気を出せば何でも出来るはず!プロレスラーもそんなこと言ってた!
そんな条件で探してみると結構ヒットする。
ほれ見たことか。
すぐ田舎は仕事が無いって言う奴がいるけど、そいつは意識高い系なんだ。
むしろ高い系を追い越して高すぎる系なんだ。
『働く』ということは、どういうことか。
お手本を見せてあげようじゃないか。
「………………」
『キラキラ・デイサービス』
……介護士の免許は持って無いからパスで……。
『相良病院』
……介護士の免許は持って無いからパスで……。
『高本重機』
……重機の免許は持って無いからパスで……。
『南方交通』
……タクシーの免許は持って無いからパスで……。
「………………」
『満心ケアハイム』
……介護士の免許は持って無いからパス。
『沢尻病院』
……介護士の免許は持って無いからパス。
『クィーン薬局』
……薬剤師の免許は持って無いからパス。
『ひまわり保育園』
……保育士の免許は持って無いからパス。
「……ッ……」
古川工務店……大工経験者じゃない!
岡田重機……だから免許持って無い!
キラキラ・デイサ……またかよ!
相良病……こっちもかよ!
満心……だから介護士免許は無いって!
沢尻病……介護士がダメなら調理師なんてどうだ〜い?とかそういうのいいから!そっちの資格も持ってないから!
「……ふぅ……」
半分ほど見た所でスクロールする手を止める……。
見上げた窓からは青い空と白い雲。
なるほど……そういうことか……。
「……フッ……」
全く……田舎は仕事が無いから困る……。
え?違うよ?
意識高すぎる系じゃないよ?
別にこっちは何も望んでいないじゃない?
給料は安くても良いから経験・資格不問なら何だっていいんだよ。
それさえクリアしてくれたら本当に何でもいいの。
いやいや、高すぎる系じゃないよ?
「………………」
あぁ……外はあんなに晴天なのに……。
何で現実世界には冒険者って職業が無いのかなぁ……こんなに晴天なのに…………職業……冒険者か…………給料制かな…?それとも歩合制?健康保険とか年金は会社が持ってくれるのかな?有給休暇は?…………それじゃ冒険してるっては言えないっか……やっぱり冒険者たる者、持たざる者じゃなきゃダメだと思うし……。
「………………」
金無し……宿無し……装備無し……でもちょっとだけチート能力があったりで……知らない町からスタートして冒険者ギルドに向かって冒険者登録するでしょ……そして貼り出されてるクエストから自分にあったレベルから始めて少しずつ高難易度に…………ハッ!?
「………………」
ハローワーク内を見渡してみると、さっきよりも利用者が増え、みんな真剣な表情で自分に合う求人情報を探している……。
「………………」
なるほど……そういうことか……。
ここにいる全員、金無し、職無しの持たざる者……そう!つまりは冒険者なんだ!
そしてここはハローワークとい名の『職業安定所』じゃない……ハローワークという名の『冒険者ギルド』なんだ!みんなソロでクリア出来そうなクエストを探しにきてるんだ!
「!」
あれ……そう考えたら何だか求人情報を見る目も変わった気がする……求人情報……?いや。違う……これはもう『求人情報』なんかじゃない。『クエスト』なんだ!報酬と共に依頼人が助けを求めてるんだ!この職業冒険者に!
そうと分かったら助けましょうとも!
改めてクエストを確認してみる。
「………………」
依頼人:キラキラ・デイサービス
内 容:引退した冒険者の介助
報酬額:☆☆
資格者:介護師
う~~ん……引退した先輩冒険者の手助けか……先人に敬意を表することは大切だけど少し報酬額が低いなぁ……それに簡単には介護師にはジョブチェン出来ないし……悪いけど諦めて欲しい……先輩達よ。
依頼人:高本重機
内 容:一国一城の築城
報酬額:☆☆☆☆
資格者:大型吊り上げ装車操縦師
報酬も良いし城の建設に携われるのは名誉あることだけど……今からじゃ操縦師にはなれそうにもないな……志はあるんですけど諦めて欲しい……一国一城の城主達よ。
依頼人:南方交通
内 容:民の送迎馬車の運行
報酬額:☆☆
資格者:馬車の操舵師
となり村まで移動する民と触れ合うのも冒険者としてはまた一興……でも資格がないから諦めて欲しい……平穏なる民達よ……。
「…………さて…………」
今日は帰ろう。
明日、明日だ。
明日はきっと特別な何かに出会えるはず!
渡された2番札を持って受付に行く。
最初にいた若い……子?の姿はもうなく、今度は胸をはって『おばちゃん』と言えるおばちゃんがいる。
札を返すと優しく微笑むおばちゃん……人類最強はおばちゃんの笑顔なんじゃないだろうか……。
「………………」
駐車場に向かうと大きなSUVが止まっている。
見るからにお金のかかりそうな車だ。
冒険者ギルドには場違いな車だ、全く。
……バタンッ!
そんな車の運転席に乗り込み冒険者ギルドを出る。
左OK、右OK、もう1度左OK。
端から見たら滑稽な状況だろうな……冒険者ギルドから左ハンドルの輸入車が出てくるなんて……でも仕方ないじゃない……思い描いた人生と違うんだもん……。
街を見渡しながら走ると、ふと考えてしまう。
こんなにも町は建物で溢れているというのに、どんな仕事を選べばいいんだろ……。
あの人もあの人もあそこの人も、一体どんな職場で何を思って働いてるんだろ……。
これからのことを考える余り意識が散漫になっていたのは間違い無いと思う。
寸前まで気付かなかったのだから。
ようやく状況を認識出来たのは甲高いクラクションが鳴り出した数秒後だったと思う。
「ッ…?!!」
ガシャアアアアンッ!!!!
この日、無職の私はこうして死んだ。
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