アイノシルシ

茶村 鈴香

アイノシルシ

久しぶりに青い電車に乗る

もう 4人がけの座席はないんだ 


よく乗る路線とは違う

窓からの景色と光の差す角度


電車を降りたら海風が吹くだろう

潮けをはらんだ冷たい風が


育った町に妹に会いに行く

小さい命を宿した妹に


もうお腹は パツパツなのかな

あんなにあどけなかった妹


母が休めないときは私が学校休んで

小児科に連れてったっけ


牛タンとハツの串焼きが好きで

酒飲みになると皆で楽しみにしたっけ


私は母になれなかったけど

羨ましいとは思わない なんでだか


実際 生まれたら猫可愛がりして

妹に叱られるかも知れない


遅めのランチ アンティークなカフェ

パスタランチセットを頼む


赤ちゃんに良くないからと

妹はケーキを食べない


本当は大好きな甘いもの

えらいな 母になるからな


母になる覚悟を決めた妹

すっぴんなのにとても綺麗だった


カラオケは胎教に良いみたい

お気に入りの曲を順番に歌う


2時間歌いっぱなし

〆は2人でPUFFYの“愛のしるし”


あと2ヶ月か 生まれたら

急いで会いに来るからね


元気に生まれてきてね

お腹を触らせてもらえばよかった


あっという間に時間が経って

同じホームの上り下りでお別れ


冷たい海風が吹いて

それぞれの車窓から手を振る


冬晴れの空が暮れる中

妹の乗った下り電車が走りだす


元気に生まれてきてね

私をおばちゃんって呼んでね


ママ似かな パパ似かな

優しくて強い子に育ちますように


元気に生まれてきてね

物心つく頃 一緒にケーキ食べようね


妹と旦那さんのアイノシルシが

あのパツパツのお腹で 出番を待ってる


もうすぐだよ













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