ハッピーニューイヤー!

岩名理子

ハッピーニューイヤー

「合格しますように……」


 背筋をピンと伸ばし、私は両手を胸の前で合わせた。

 神頼み……もう、私にはこれしか残っていない。


「お願いします……っ」

 

 第一希望の高校への、偏差値が微妙に足りなくて。

 猛勉強しているけれども、やっぱり不安。

 確実に受かるなんて、絶対にいえないこの状況。

 どうしても友達と一緒の高校に行きたいのに、ほんのちょっとが足らないなんて。


 初詣といっても……時間がやや遅めだからか、人はまばらだ。


『そんな時間があったら勉強したら?』なんて、お兄ちゃんが出かける私に嫌みをいってきたっけ。でも、息抜きに出かけることの何が悪いの! ただ息抜きにちょっと初詣に行って、ちょっと寄り道して、ちょっとだけ福袋を見たりとかするだけじゃないの! ちょっとよ、ちょっと!!


 はっと我に返り、再び拝んだ。

 反省しなきゃ、そんなことはやりません、きっと多分……。


 そういえば、友ちゃんは彼氏と初詣だっけ。いいなあ、いいなあ。


 ついでに受験が終わったら彼氏が欲しいって願掛けしておこう。

 あんまりお願いが多いと駄目かな……

 でも、貴重な時間を削ってきたんで、お願いします。


 神様からしたら、些細なお願いでしょう!?


 願掛けも終わったところで、おみくじを引こうと試みる。一回百円、そうだ。ここでは大凶は滅多に出ないって、お兄ちゃんもいってたから……きっと大丈夫。


 番号の引き出しを開けてみると……


――大凶だった。


 って、なんで!?

 お兄ちゃんの嘘つき……!



****新太****


――彼女を、ください!


 僕は全身全霊で神頼みをした。


「ちょい、新太……お前、声に出てるって」


 そういって横田に肘でつつかれる。

 

「必死なんだ」

「それは伝わるけど」


 ため息をながらに横田は首を振った。

 願掛けの後は、お守りとおみくじと定番だろう。

 僕はだいたい運がいいんだ。

 おみくじ筒をガラガラと鳴らして番号を出した。

 さて、引き出しを開けて――


「大吉だ!」

「うわ、俺は中途半端な吉だよ……。せめて凶ならネタになったのに」

「これで僕にもきっと彼女ができるはずだ」

「まさにおめでたいやつだ。それより、受験の方を心配しろよ……志望校は受かるのか?」

「まあまあかな、浮かれている奴らを尻目に勉強したから」

「辛すぎる……なんだそれ。っと、俺トイレ行くわ」


 おみくじに目を通していると、目の前に女の子がいた。

 合格祈願の神社だから、もしかしたら僕と同い年の受験生かな。


 女の子が持っている絵馬は……『花ケ丘高校合格祈願』の絵馬だ。

 おっ、奇遇にも僕と一緒か。

 なんだかちょっと気になってしまう……手元のおみくじは――なんと大凶だ。


 ……表情からすでにショックそうだ。

 合格祈願のところで、確かに大凶はなあ……他人事とは思えない。

 

 どうしようか、なんとかならないだろうか。

  

「えーっと、あ、あの……僕の大吉あげるよ」


「え?」


 勇気を出して、声をかけることにした。


「とにかく、僕は大吉がもう出てるから……」


 それでも口下手だから、うまく言葉がでない。

 かなり怪しいよな……。

 おみくじあげるよって、不審者だよな……。


「渡せば、今年は一緒に大吉になるんじゃないかって」


 自分でも何をいっているのか、わからなくなってきたけれど、横田がトイレから戻ってきたタイミングで、おみくじをその子の手に押し付けるようにして渡した。


「受験、頑張ってね」


 いや、これは僕が頑張った。 

 僕自身、そうとう頑張ったぞ!?

 女の子の視線が、僕の顔から手元のおみくじへ、それから絵馬へと移った。


 絶対に顔が真っ赤になっている。我ながらちょっと恥ずかしい事を色々行ってしまった気がする。とにかく、早く逃げなければ……。


「ありがとう」


 背後から女の子の声が聞こえた。


「もしお互いに受かったら、高校で会おうね!」


 僕が振り向いて一回だけうなずくと、同じ絵馬を掲げた女の子はにこりと笑った。

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