追放された俳句人、実は最強でした~五・七・五で詠むだけで仲間が無双する件~

社会の猫

その俳句、最強

「その足は 勇むばかりで 疲れなく」

「よし、もうすぐで竜の巣だ」

 パーティーの不揃いな足音が洞窟中に鳴り響く。

 洞窟の奥には一つの光が見えた。

 リーダーが足を止める。

「ふーっ……」

 そして、深く息を吸う。

「……行くぞ」

 リーダーの声が静かな洞窟に響き渡る。

「頑張って きっと勝てるよ 頑張って」

「うおおおおお!!!」

 そして、静寂を切り裂くような叫び声とともに戦闘が始まった。

「その剣は 貫くために 作られけり」

「気をつけろ!俺が注意を引く!」

「狙われず 当て続けるのみ その魔法」

「やれ!戦い続けろ!!」


 グオオオオオ!!!


 竜の咆哮が洞窟中に鳴り響く。

「竜の声……い、痛みを受けて……い……いー……痛そうだ」


 グオオ……


「竜がひるんでるぞ!今だ!」

 …………。

「駄作しか!! なぜ作れぬのか!! 我が語彙は!!」

 我が四つん這いになり地面をたたく。

 悔しい!悔しいぞ!なぜ見たままと希望的観測しか語れぬのだ!我は!!

 ……分かっている。

 多分だが……我はえぐいほど才能がない。

 しかし、我は詠み続ける。

 詠み続けるしかないのだ。

「花吹雪 剣は竜身に 刺さり逝く」

 ちょうど俳句を詠み終えた時、リーダーの剣が竜の首を深く切り裂く。


 グオォオオ!!


 竜から血しぶきが飛び散り、地面に倒れこむ。

「うむ駄作 やはり我には ほど遠き」

 駄作だ。

 我は俳句人。

 伝説の俳句を詠むために冒険者の雑用をしている。





「お前パーティー抜けろ。うん」

 ドラゴンの討伐が終わった後の祝勝会。

 その酒場でリーダーに告げられた。

「!?!?!?」

 声も出なかった。

 なぜ我がパーティーを……?今まで仲良くやってきたはず……!

 今日だって笑いあってたじゃないか!みんなで!

「なぜ我に! 抜けろと申すか! リーダーよ!」

 我が声を張り上げる。

 おかしい!我は荷物持ち等の雑用で頑張ってきたはずだ!

 きっと何かの間違……

「喋り方きめぇんだよ!!!」

 ……え?

「いちいち5,7,5で区切ってるの訳わかんねぇし!こっちが戦ってる時もずっとぶつぶつ言ってるし……苦情出てんだわ!きめぇって!!」

 ドン!とリーダーがテーブルを叩く。

 正直、困惑していた。

 き、きもい……?我の喋り方が……?

「それ俳句 きもくないです 俳句です……」

 我が涙目になりながら抵抗する。

「知らねぇよ俳句とか!!お前浮いてんだよ普通に!出てけ!!」

 嘘だろ……?

 リーダー……?

「我涙 仲間の絆 どこ行った」

「ねぇよ!!」

「…………」

 我の口から俳句が出てこない。

 かくして、我はパーティーを追放されてしまった。






 我は今、冒険者ギルドで荷物持ちとしてついて行けるパーティーを探していた。

「冒険者 どこでも歓迎 拾ってね」

 我はどうしても冒険者をしたい。

 その理由は単純だ。

 我が過去に作り出した”神俳句”。

 直後に頭を打ってしまったため忘れてしまったが、”神俳句”を作ったことだけは明確に覚えている。

 その記憶を失う直前に、我は”魔王”と対峙をしていたのだ。

 だから、我は強い奴と対峙をすればするほど俳句力(俳句を詠む力)が強くなるという仮説を立て、冒険者をやっている。

「我荷物 いっぱい持てる 優秀よ」

 俳句を詠みながらギルドの掲示板の隣でぼったちする。

 それが荷物持ちとして一番手っ取り早い方法だ。

「ん?君、荷物持ちで入れるパーティー探してるのかな?」

 その時、一人の男が我に話しかけてくれた。

「荷物持ち 我に任せて めちゃ持てる」

 我が自信満々に胸を張る。

 長年荷物持ちをやってるため、筋力と荷物を持つコツには自信があるのだ。

「えーっと……しゃべ……まぁいいや。僕リア。一回だけでもうちのパーティー来ない?Dランクでよければだけど」

 Dランクか……強敵に出会うことはなさそうだが……

「任せてよ 我が荷物を 全部持つ」

 今は最低限の収入が必要だ。

 やろう。

 Dランク パーティー入り 荷物持ち

 だ。





「みんなーお待たせー」

 冒険者ギルドを出て、外で待っている二人の男女に声をかける。

「おっ、荷物持ち見つかったのか。早かったな」

「うん。偶然いたんだ。この人が……」

「我が名前 トーラと申す よろしくね」

 我が頭を下げる。

「トーラか。よろしくな。俺はギガ」

「私がミルラです」

 ギガにミルラにか。

「よろしくね ところで荷物は どれ持つの?」

 我は挨拶もそこそこに辺りを見渡す。

「えーっとね……あれだよ……」

 リアが言いにくそうに壁の近くにある大量の荷物を指さす。

 ……これは別のパーティーの荷物も混ざってるんじゃないか?

 軽く三パーティー分はあるぞ?

「これいったい どれのことをね いってるの?」

 我が質問をする。

「あのねー……全部……」

 リアの口から衝撃的な言葉が飛び出した。

「全部だと!?……我は驚き 声も出ず」

 危うく五七五が崩れるところだった。声出てるしな。

 もしかしてリアたちは……

「ごめん。実は初心者パーティーで……」

 やっぱりか。

 初心者あるあるだよな。不安になっていろんなものを持ってっちゃうの。

 ここは元Sランクパーティーの荷物持ちの手腕の見せ所だな。

「我詳しい 荷物整理を しても良き?」

 それに、流石にこれを全部持っていくのは無理がある。

「うん。ごめんね、頼むよ」

 我が荷物の中身を見る。

 まず最初に目に飛び込んできたのは魔獣クマーのぬいぐるみ。それに五本ぐらいあるナイフ、十個はある水筒、非常食の山……

 ……本格的なおままごとでもするのか?

「ナイフとは そんなに買い替え するものか?」

「無くしちゃうかなって……」

「食べきれず 飲みきれぬだろう この量は」

「遭難するの怖くて……」

「ぬいぐるみ 何に使うの 冒険で……」

「身代わりに……」

「……」

 これは、随分と……

 我はいる物のみをバックに詰めてく。

 数分後……

「「「「お~」」」」

 相当コンパクトになったリュックを我が背負う。

「残り物 宿とかにでも 預けとけ」

「うん!ありがとうトーラ!」

 全員で山ほどある荷物を持ち、まずはそれらを宿に預けてから森に行くことにした。






「えーっと、イノシーシの目撃情報はここらへんだね」

 リアが地図を見ながらあたりを見渡す。

 今回の依頼は街の近くにあるチカーイ森でイノシーシを五体狩ることだ。

「イノシーシは警戒心が強く群れで行動する……みんな静かにね」

 リアがみんなに呼びかける。

 リアは初心者だがリーダーらしい行動ができている。えらいな。

 我が前パーティーのリーダーを思い出す。

 ……また喋り方きもいって言われないかな?不安だ。

 仕方ないのだ。俳句力を高めるには日常的に五七五で喋るしか……

「みんな、こっち!」

 リアが小さな声を出し、指をさす。

「いた……イノシーシだ」

 その指の先には、複数匹のイノシーシが固まっていた。

「イノシーシ ばれないうちに 倒しちゃお」

 まずは一句詠む。

「ミルラは魔法を打つ準備を。ギガ、一緒に出るよ」

 ミルラが杖を構える。

 そして、リアとギガが草木に隠れながら静かにイノシーシの群れに近付いていった。

「緊張だ 勝てるぞ初心者 上手くいく」

 我も荷物持ちながらにはらはらしながらそれを見守る。

「今だ!」

 リアの合図で、ミルラが風魔法を放った。

 それがしっかりイノシーシに命中する。

 その瞬間、リアとギガが草むらから飛び出した。

 そして逃げ遅れたイノシーシを仕留める。

「やった!」

 リアが嬉しそうな声を出す。

「すげぇ!めっちゃ上手く行ったな!」

 ギガも同じだ。

 しかし、ミルラは不思議そうな顔をしていた。

「どうかした? 上手く行ったぞ 喜ばしい」

 ミルラは、

「い、いや。良いことではあるんですけど……いつもより魔法がコントロールしやすすぎたような……」

 と疑問を口にした。

 しやすすぎた……?

「多分だが それが実力 なんじゃない?」

「そうですかね?うーん……」

 ミルラがなぜか困惑している。

 どうしたんだろう。そんな現象聞いたこともないが。

 まぁいいか。取りあえず、我らは仕留めたイノシーシを見に行く。

「すごいじゃないかミルラ!あの距離で魔法を当てれるなんて、初めてじゃないか!?」

 リアもミルラを褒める。

「えぇ、まぁ……」

 ミルラが控えめに笑った。

 それにリアが若干引っかかった顔をしたが、すぐにイノシーシのほうを見直す。

「とりあえず、イノシーシが三匹は狩れた。これは良いことだ。あと二匹、頑張って……」


 ズシーン ズシーン


 大きな足音ともに、木々がきしむ音が聞こえる。

「ひっ……」

 ミルラが恐怖に声を漏らした。

 あの姿は……

「みな逃げろ! Bランレベルの 魔物だぞ!!」

 我らが一斉に音がした魔物のいると反対側に走り出す。

 Bランクのデカイノシーシ!!五メートルはあるぞ!なんでこんなところに居るんだ!!

「ミルラさん! 魔法を足に! 転ばせろ!」

「で、でも、走りながらじゃ……」

 ミルラが走りながら杖を後ろに向ける。

「当たってー!」

 ミルラが風魔法を放った。


 ブオオオ!!!


 デカイノシーシの足に風魔法が当たり、デカイノシーシが横に倒れる。

「ナイスミルラ!」

「すげぇぞ!!」

 二人がミルラを褒める。

 すごいな。走りながらでも魔法を正確に当てれるなんて……本当に初心者か?

 しかし、デカイノシーシはすぐに立ち上がり木々を倒しながら追いかけてくる。

「まずいね……トーラさん!何かいい案はありますか?」

 リアが我に指示を仰ぐ。

 ……え!?我!?

 え?えーっと……えーっと……

「きゃあ!!」

 その時、ミルラが転んでしまった。

「ミルラ!」

 我たちの足も止まる。


 ブオオオオオ!!!


 デカイノシーシが吠えた。

 ま、まずい。

「……腹をくくるしかなさそうだね」

「……そうっぽいな」

 リアが剣を引き抜き、ギガが斧を構える。

 無茶だ。無謀だ。

 だが……

「頑張って! きっと勝てるさ 大丈夫!」

「うおおおお!!!」

 リアとギガが飛び出した。

 二人がデカイノシーシに突撃をする。


 ブオオオオ!!


 二人は的確にデカイノシシの攻撃を避け、攻撃をする。

 めちゃくちゃ動きがいいじゃないか。

 これならもしかしたら……

「イノシーシ 対峙をしても 勝てるかも」

 我は戦闘能力がないから俳句を詠むことしかできない。

 だが、もしかしたら……

「トーラさん!私は何をすれば……」

 ミルラが我の隣に来る。

 二人に当たらず、しっかりダメージが与えられる場所……

 頭だ。

「頭撃て 最大火力で ぶっとばせ!」

「分かりました!」

 ミルラが魔力を込める。

 込める。

 込め……え?

「はああああ!!!」

 強くない?

風弾ウィド・バラ!!!」


 ビュンッ!!!


 ミルラがAランククラスの魔法を放つ。


 バンッ!!


 その魔法が、正確にデカイノシーシの頭に当たった。


 デカイノシーシの頭が消し飛ぶ。

 ミルラも、頭を押さえて倒れこんだ。

 魔力の使いすぎによる頭痛だな」

「使いすぎ すぐに良くなる その頭痛」

 我がミルラを支える。

「やっ……」

「やったー!!!」

 リアとギガがハイタッチをした。

 そして、こちらに駆け寄ってくる。

「ミルラ!すごすぎでしょ今の魔法!こんなの使えたの!?」

「まじで俺らと同じ初心者か!?」

 そしてミルラをほめたたえた。

「えへへ……ありがとう。でもね、多分だけど……」

 ミルラが僕のほうを見る。

「トーラさんのおかげだと思うの」

 ……え?

 また我??

「さっきからトーラさんが励ましてくれるから、頑張れる気がして……!」

 ミルラが嬉しそうな顔をする。

「あ~確かに。今日なんか僕の動きが良かったのはそういうことか」

「確かに!変な喋り方だけど、良い奴だしな!変な喋り方だけど!」

 全員が俺のことをほめちぎる。

「み、皆さんよ…… こんな我でも 良いのかな……?」

 なんか、我も嬉しいぞ。

 駄作を詠ってるだけでこんなに褒められたのは初めてだ。

 かくして、我は正式にリアのパーティーに加入することになった。



 ブクマ高評価多かったら続きかきます!!応援よろしくお願いします!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

追放された俳句人、実は最強でした~五・七・五で詠むだけで仲間が無双する件~ 社会の猫 @yauhshs

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ