第16話 裁判の行方



――――side:リリシア


どうして……どうしてこんなことになったのよ!男爵家に生まれながら聖女の威光で王族にまで登り詰めた私が……!


「今はこんな牢屋に押し込められているなんて」

きれいなドレスも美しい宝石もない。贅沢なご馳走もない。出るのはパンひとつと水だけ。ほかの囚人にはサラダやスープがついているのに、どうして私だけ……っ!


「お腹空いた……お父さま、どうしてこんな酷いことを」

前のお父さまとお母さまが死んだ後、お父さまは前のお父さまと旧知の仲だと言っていた。


「その上私は聖女なのよ?」

だからこそ王女として迎え私を花よ蝶よとかわいがってくれるのではなかったの?


「それなのに……リカルドお兄さまも謹慎中でなにもしてくれない」

ロレンツォは論外だ。ロレンツォと王妃は昔から私に厳しかった。

聖女で王女となったシンデレラの私に嫉妬しているの。見返してやろうと思ったのに。


そして……。


「フェリックスさま」

初めて見た時から運命だと思った。リカルドお兄さまにお願いしてパーティーでフェリックスさまを独占すること賀できた……はずなのに。


「何であの女なのよ!」

フェリックスさまがいつか私にプロポーズしてくださる。リカルドお兄さまも段取りを進めてくれると言っていたのに。


「あんな女と結婚してしまった」

けれどパーティーでフェリックスさまを独占しているのは私!あの女も分不相応だと認識して去っていくはず……だったのに!


「どうして私のエスコートをほったらかして、あの女の元に……!あぁ、いけないわ。また地が出て……私は……いいえ、わたくしは」

悲劇のシンデレラ。聖女で王女のリリシア・クラウン!


「おい」

鉄格子の前に近衛騎士の姿がある。もしかして釈放!?お父さまが思い直してくれたってこと!?


「裁判の時間だ。来い」

「は……?」

裁判……?そう言えば牢に入れられた時もそんなことを言われたような。

そうか……これは。


「わたくしが無罪になりあの女に天誅を下す!!」

その裁判よ!


「静かにしろ!法廷で騒ぎ立てればその分罪が重くなるぞ」

罪……?わたくしに罪などあるはずもないじゃない!むしろ罪人はあの女……リーシェよ!


それに……。


「わたくしは王女なのよ!だと言うのにその態度は何!?」

「は?陛下よりお前のことは王族として扱わず罪人としての扱いで良いと命が下されている」

「は……?」

王族として扱われない?な、何よそれ!聞いてない!わたくしは王女なのよ!王女に成り上がったシンデレラガールなの!だから……だから!


「あの女に目にものを見せてくれるわ!」


※※※


――――side:リーシェ


今日はリカルド王子とリリシアの裁判が行われる日だ。


「法廷にきたのは初めてね」

「俺も2、3しかねえよ。普通は来ないし、法務系の官吏以外で来るとしたら裁判にかけられる罪人くらいだ」

「それもそうだわ」

更に今日は王族が2人も裁判にかけられる大事。


観衆は王室によって制限されているが、関係者の私たちは特別にこの場に招かれた。


「陛下や王妃さまもいらっしゃるのね」

「ああ。ローレンも来ているようだな」

城の方は宰相に任せ、王族も勢揃いしているようだ。


「今回の裁判長は陛下だ」

「ええ……それと裁判官たち。主に彼らが裁判を進行し、最終判決は陛下が出すのよね」

「そうなる」


「それでは被告人・リカルド王子殿下」

裁判の開廷が告げられる。


「……」

終始無言で俯いていたリカルド王子は傍聴席の私たちに気が付くとキッと睨んでくる。


「貴様らのせいで私は……っ」

逆恨みにもほどがあるでしょうが!


「静粛に!」

裁判官が叫ぶ。


「リカルド王子殿下。あなたは王子と言う立場を使い、リーシェ・アズール大公夫人を夫のフェリックス王弟殿下と意図的に引き剥がした」

「それは……っ」

「その上親衛隊を使い、大公夫人に圧迫感を与えながら離婚を迫った。間違いないな」

「それは……っ、リリシアに頼まれたからっ!」


「ならば同じくリリシアの兄王子であるロレンツォ殿下にお聞きする。ロレンツォ殿下ならリリシアに頼まれた時どういたす」

「断りますし、陛下の認めた夫婦である2人に横恋慕などとんでもないと諭します」

「ありがとうございます、ロレンツォ殿下。さて、リカルド殿下。これが兄王子として正しき行動であると私も認識しているがどうですかな?」


「……」

「沈黙は肯定と取ってよろしいか」

黙秘は通用しないと言うことか。


「その……妹なのですから、少しくらいはっ」

「だからこそ諭さねばならぬ時は諭す。平民でも当たり前のように知っていることを王子であるあなたができずにどうする!」

「……っ」

裁判官の言葉にリカルド王子が押し黙る。


「最終的な判決は陛下が出されます」

「ああ。分かった」

陛下が神妙な面持ちで頷く。


「リカルド」

「父上……」

「私はお前を少々甘やかしすぎたのやもしれん。そしてお前が道を踏み外すことになった親の責任も取らねばならん」

「……」


「お前を王太子の地位から外そう」

「そんな!」

「もとよりお前は執務をサボりロレンツォや婚約者のレティシア嬢に度々押し付けていた。その裏取りもできている」

「……」

「能力的にも素質的にもお前は王太子には相応しくなかった。私が王太子に任命したばかりに重荷を背負わせてしまったな」

「そんな……そんなっ。私は王太子で……っ」

「王太子にはロレンツォを任命する」

「そんな……っ!」


「ロレンツォの王太子としての立ち振舞いを見、本来の王太子としての立ち振舞いを学びなさい。なに、王族の籍までは取らぬ」

陛下はまだ信じているのね。息子だからこそ、心を入れ替えてくれるって。


「これからは執務をレティシア嬢に投げることは許さぬ。しっかりと自分でするように」

「そんなぁっ!」

嫌なのは執務なのだろうか?成人しているのだから執務をこなさなければいけないのは当たり前だろうに!


「うう、お前のせいだ!魔性の女め!」

「黙りなさい!判決は終わったのだ。素直に退廷しなさい!」

近衛騎士に引きずられていくリカルド。

しかしながら……。


「……それって私のことかしら」

「脳ミソが腐ってるんじゃないのか?アイツ」

最後のフェルの言葉が実に的を射ているような気がしてしまう。書記も何故かフェルの発言、記載してない?


「まぁ陛下はやりなおすチャンスを与えられたんだから」

「ふん」

フェルはなかなか素直ではないようだけどね。


※※※


――――続いてはリリシアが法廷に通される番となった。


手首を拘束されながら現れたリリシアは一番に私たちに気が付いたようだ。


「この悪女め!わたくしのフェリックスさまをよくも……っ」

悪女って……あなたに言われたくないのだが。


が何だ。リーシェのせいにするな!」

フェルがリリシアに厳しい目を向ける。


「そんな……ちがう、違う違う!」

「はぁ?」

「フェリックスさまはそんな言葉遣いしない!フェリックスさまは理想の王子さまとしてわたくしに優しく微笑んで、それから……っ」


「静粛に!」

その時裁判官の声が響く。


「これより『リリシア』の裁判を執り行う」

その内容は兄王子を誑かし既婚のフェルに言い寄ろうとしたこと。私と離婚させようとしたこと。さらには私とヴィオラを誘拐させ非道な仕打ちを企んだことがあげられた。


「リリシア、私が何故お前を引き取ったと思う」

陛下の重い問いだ。


「わたくしが王女となるのに相応しかったからでしょう?」

リリシアはまだ現実が見えていないようだ。


「お前の父親は高名な医者であった。何時なんどきも患者のことを考え、時にはお金がなく医療を受けられない患者たちに自らの私財を投げ売り無償で治療を行った」

リリシアの本当の父親……元男爵は素晴らしい人格の持ち主だったようだ。だと言うのに何が彼女をこんなにも歪ませたのか。


「それが何だって言うのよ!!」

「……リリシア?」

「そのせいでがどんな惨めな思いをしていたか……!毎日の食事はパンと水ばかり!スープがある日はまだいいけれど具材もほとんどない!毎日毎日患者のため患者のため患者のため!」

リリシアが歯を噛み締めるように食い縛る。


「栄養のあるものは全部患者が持っていくの!娘の私が飢えているのに私は健康だからお肉も野菜も食べられない!それなのにお母さまはお父さまの行いは正しいことだって!!」

もしも本当にかつてリリシアに聖女の力があったのだとしたら、リリシアの健康はそこから来ていた。けれど飢えばかりは聖女の力でもどうにもならない。


「お金のない患者の方がよっぽどいいものを食べてた!平民の方がよっぽどいい服を着ていた!あったかい場所で寝れた!それなのに私は……っ」

男爵が良かれと思ってやっていたことは娘のあらゆる飢えの上で成り立っていたのだ。


「そうか……私は親友の功績を讃え、後に遺されたお前のために養女に迎えた。お前が聖女として親友のような高名な存在になれるようにと」

「嫌よ……そんなの嫌よ!お父さまみたいになるなんて!!」

それはリリシアに飢えを押し付けたものだから。


「私は……全てを間違っていたのだな」

「陛下……」

フェルが心配そうに陛下を見る。


「私は……私はやっとあの家から自由になれたの!好きなものを食べて、着て、温かい寝床で寝て……フェリックスさまのような王子さまと結婚して幸せになるの!!」

「済まないがその願いは聞き届けられない」

陛下の答えは冷たいものだった。


「何よそれ!私のことをお姫さまにしてくれたじゃない!」

「それは親友の功績を加味したことと、将来は王家のものとして王家のために嫁がせるためだ。だが……大罪を犯したお前はもうその価値すらない」

王家の養女となるのはそう言うことだ。いずれは王家の娘として良縁を結ぶために嫁ぐ。その際に聖女と言う立場は箔がつくから。


「押し付けたのはあなたじゃない!!」

「だからこそ責任を取ろう。このままでは親友に顔向けもできまい」

「……は?」

「お前を王家の籍から抜き、平民とする。犯した大罪は平民として償いなさい」

「何で……なんで、わたしが、平民……?平民だなんて嫌よ!何の贅沢もできない!」

「男爵家だった頃よりは良い暮らしができるのだろう。お前が望んだ暮らしだ」

そう言ったのは他ならぬリリシアではないか。


「いや……嫌よ!わたしはお姫さまになる!お姫さまでいたいのぉっ!」

「お前はそれに相応しくない」

相応しくなれるチャンスはいくらでもあったろうに。


「そんな……そんなぁっ!たすけて……助けてよぉっ、フェリックスさまぁっ!」

近衛騎士たちに取り押さえられながらもリリシアがフェルに手を伸ばす。


「俺が?ふざけるなよ。リーシェに手を出したお前を、俺は絶対に許さない」

「そんな……そんなぁっ!リーシェに……リーシェに騙されてるんだわ!この魔女め!」

本当に……言いたい放題。


「いい加減にしなさいよ!そうやって誰かを悪人にしないと気が済まないわけ!?」

いくら幼少期の飢えがあったとしても彼女がやったことは許されないことだ。私がいつまでも何も言わないと思っているのなら大間違いである。


「誰かを悪人にする前に、ひととして正しいことをしなさいよ!」

男爵がやったことは全て正しいことではない。現にリリシアと言う被害者を出したのだ。しかしながらリリシアは聖女としてただしくあろうとすることはできたはずだ。


「選ばなかったのはあなた自身よ。ならその罪はあなた自身でちゃんと贖いなさい!」

「……ひっ、な、なによ、リーシェのくせに!」

「だから?私はリーシェよ。リーシェ・アズール。私は正しいことを選んだと今でも自信を持って言えるわ」

あなたと私は似てるわね。私の両親はお世辞にも高名と呼べる存在じゃなかった。けれど私も色んなものに飢えていた。だけどこの手を罪に染めないで済んだのは……あの日、私にも優しくしてくれる少年がいるのだと知ったから。


あなたが欲に飲まれなければ、手を差し伸べてくれた陛下に娘を裁かせる責を負わせずに済んだのかしらね……?


「くそう……くそぉっ!全部このクソみたいな世界が悪いのよおおぉっ!」

リリシアは最後まで喚き散らしながら法廷から引きずり出されることになった。

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