稀代の英雄 大陸の覇者 アレス一世伝

茶電子素

最終話

俺の名前はアレス・ヴァン・ロウ。

二十年の修行を経て、気づけば世界最強になっていた。


最強になったら何をするか?

普通は魔王を倒すとか姫を救うとか、そういう方向だろう。


だが俺は違った。


「……もう面倒だから全部まとめて統一したほうが早いんじゃないか?」


結果、大陸は統一された。

勝手に「神帝」とか名乗っちゃったりしてね……まあ勢いあったしね。


そんなこんなで、とりあえず調子に乗ってたわけなんだけど、

問題は統一した後だった。


統一直後、俺は民衆の前に立ち堂々と宣言した。


「今日からこの大陸は一つだ。争いは終わった。平和を築こう」


拍手喝采が起きると思っていた。

だが、返ってきたのは沈黙。そして――


「勝手に統一してんじゃねぇよ!」

「税金どうなるんだよ!」

「神帝って何だよ!宗教かよ!」


石が飛んできた。


俺は避けた。

……避けたけど、心には直撃した。


胃がキリキリと痛む。

修行で山を割ったことはあるが胃痛には勝てない。


隣にいた側近のミラ・エルフォードが心底困った顔で俺を見上げた。


「アレス様、民衆は急激な変化に弱いのです。もう少し段階を踏んで……」


「俺おじさんだぞ。段階を踏んでたら、またこの先二十年くらいかかっちゃうだろ」


「そこは踏んでください」


ミラは真面目すぎる。

俺の暴走を止めるために生まれてきたような女性ではあるが――。


統一後、各国の王族と貴族を集めて会議を開いた。

俺としては「仲良くやろうぜ」くらいの気持ちだったが――


「我が国の文化を尊重していただきたい!」

「税制は我々の方式を採用すべきだ!」

「神帝という呼称は、いくらなんでも不敬である!」


全員が好き勝手に叫び始めた。


俺は椅子に座りながら、またも胃を押さえた。

ミラが小声で囁く。


「アレス様、怒ってもいいんですよ?」


「怒ったら全員黙るだろ。それはそれで怖いじゃん」


「確かに……」


俺が本気で怒れば会議室ごと吹き飛ばせるが――

それは避けたい。


代わりに俺は深呼吸して言った。


「……とりあえず順番に話そう。全員一斉に喋るな」


「順番?誰から?」

「我が国が先だ!」

「いや我が国だ!」


また揉め始めた。


俺は天井を見上げた。

修行時代、山奥で虎と殺り合っていた頃のほうが平和だった。


会議が終わったあと、街を歩いてみた。

民衆の声を直接聞くためだ。


だが、聞こえてきたのは――


「神帝って不死身らしいぞ」

「いや、魂を食べて強くなるって噂だ」

「昨日、神帝が空を飛んでたのを見たってやつがいる」


全部デマだ。


俺は空を飛べないし、魂も食べない。

胃薬なら毎日たっぷり……。


ミラが呆れた顔で言う。


「アレス様、放っておくと噂はどんどん膨らみますよ」


「どうすればいい?」


「普通に説明すればいいんです。『私は空を飛べません』と」


「……なんか恥ずかしくない?」


「恥ずかしがらないでください」


俺は民衆の前に立ち宣言した。


「俺は空を飛べない!」


沈黙。


次の瞬間、誰かが叫んだ。


「謙遜してるぞ!」

「やっぱり飛べるんだ!」

「神帝が控えめな発言を……何か裏があるに違いない!」


逆効果だった。


胃が痛い。


そんな中、唯一まともに話を聞いてくれたのが、街のパン屋の娘リーナだった。


「神帝様って思ったより普通の人なんですね」


「普通だよ。胃も痛むし」


「胃が痛む支配者って、なんか親しみやすいです」


「親しみやすさで統治できるなら苦労しないんだけどな」


リーナは笑った。

その笑顔に少しだけ救われた気がした。


「でも、みんな神帝様のことを怖がってるのは事実です。強すぎるから」


「強さって、そんなに怖いか?」


「怖いですよ。だって怒らせたらどうなるか分からないじゃないですか」


俺は言葉に詰まった。

確かに俺が本気を出せば国一つ消し飛ぶ。


「……怒らないように努力するよ」


「それが伝われば、きっと変わりますよ」


リーナの言葉は、妙に胸に刺さった。


数日後、反乱軍が城に押し寄せた。


「神帝を倒せ!」

「自由を取り戻す!」


俺は城門の前に立ち手を振った。


「ちょっと待て。話を聞け」


「聞くか!暴君め!」


「暴君じゃない。胃が痛いだけの、ただの支配者だ!」


「同情を誘う作戦とは姑息な!」


話が通じない。


仕方なく俺は軽く地面を叩いた。

地面が少し揺れ、反乱軍が尻もちをつく。


「……今のは威嚇だ。本気じゃない」


「ひぃぃぃ!」


全員逃げた。


ミラがため息をつく。


「アレス様、優しさが伝わっていません」


「どうすれば伝わる?」


「まずは肩書きを変えませんか?」


「神帝、そんなにダメか?」


「ダメです」


ミラの提案で肩書きを変えることになった。


「じゃあ……大陸代表とか?」


「アスリートじゃないんだから」


「じゃあ……統一管理者?」


「役所ですか?」


悩んだ末、俺は言った。


「……アレスでいいよ。肩書きなし」


ミラが目を丸くした。


「本当に?」


「肩書きがあるから誤解されるんだろ。名前だけでいい」


その日のうちに布告を出した。


翌日、街はざわついた。


「神帝が肩書きを捨てたぞ!」

「謙虚を装って何をするつもりだ!?」

「逆に怖い!」


胃が痛い。


混乱は続いたが、リーナが言っていたとおりで

少しずつ民衆の態度が変わっていった。


「アレス様、今日は怒ってませんね」

「アレス様、パン買っていきます?」


名前で呼ばれると、不思議と距離が縮まる。


ミラも微笑んだ。


「アレス様、ようやく普通の統治者らしくなってきましたね」


「普通って難しいな」


「最強だからこそ普通が一番難しいんです」


俺は空を見上げた。

修行時代には想像もしなかった未来だ。


大陸を統一しても、胃痛は治らない。

でも――


「まあ、なんとかなるか」


そう思えるくらいには、世界は少しだけ優しくなったんじゃないだろうか。

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