エコー・ザ・ランズ

星咲好一

プロローグ

プロローグ


 俺達は死というエンディングから逃れるすべを持たない。

 だが、そこへ至るまでの旅路を自由に選択できる野放図な歩みは、誰にも、否定されていない。


 俺達は死というエンディングからは逃れられない。

 同時に、可能性に満ちているこの旅路は、誰からも奪われてはならない。


 そうさ。

 否定される謂れも、逆に、する権利も持ち合わせていない。

 他者の可能性を奪う行いを、俺は決して自由とは思わない。



 かつてこの星では何度か大量絶滅が起きている。

 その原因の議論は絶えないが。

 エーテルというものがそれを解き明かしつつあった。


 エーテル物理学の分野において、生物の大量絶滅を、「アビサルランズ」と呼ぶ。


 深淵からアビサル走り込んできた、死という確定的な因果終末地ランズ


 アビサルランズでは、いかなる生命も、その可能性ごと否定される。


 大量絶滅とは、消滅の因果が、生命の可能性をすべて否定し、剥奪するすることで起きる。

 恐るべき、「因果的対消滅コーザリティ・ヴォイド・アウト」だ。


 それは鍵と、いわば、錠前が揃ってしまうと……起きる。いや、深淵への門が開くというべきだろうか。

 開いた門から、可能性の底の底にある、死という、「生命の終着」が湧出するのだ。


 かつて恐竜が滅んだのも。

 数百年前に、人間が滅んだのもこれが理由だ。




 俺の名はウィル。

 俺の意志は、このアビサルランズを拒絶する。


 たとえこの世界の終末を望む者がいても。

 俺は、自由意志の否定を、決して認めない。


 人々が生きようとするのなら、その可能性を運び、つなぎ、そして伝える。


 俺の名はウィル。ウィル・ストランド。

 人類で初めて、人の可能性を否定する恐るべき怪物、「エコー」を倒した男だ。

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