夢の浄水場

@morusan_create

調査報告書0001-01

担当:エージェント・アルガ

日時:20XX/XX/23 12:02:33

対象:浄水場

   「浄水場」は■■県東部の山中に存在する「ため池」とそれを管理する「施設」です。

補遺:当日エージェント・アルガは異常対策課基本装備を装着し水質調査員に扮して「浄水場」の調査を行っていた。


<<調査記録>>

「こちらエージェント・アルガ、現在浄水場に到着した。まずは水質の調査を始める。」


鬱蒼と木が茂り、それでもなお異質な存在感を放つ「浄水場」。

ここにあるため池が異様に汚いと連絡があったのはつい3日前。

それまでは正常に動作していたにも関わらず、こうなったのはなにか原因があるとし

そういった現象の究明を行う「警視庁異常対策課」が動き、俺に白羽の矢が立ったわけだ。


「しかし、すごい汚いな…」

―3日前までは、それこそ放置されたプール程度の汚れであった「浄水場」であったが、

―今ではヘドロという言葉がふさわしいかの如く、恐ろしいほどの汚れが溜まっていた。


「まずは、水質だな。」

俺は水質検査キットをため池に放り、水を採取する。

結果は出たのだが、そのいずれもが県における異常値を示していた。


「二酸化炭素の値が異常に高いな。となると次は、中か…」

一面の汚れに入るのは少し勇気がいるが、意を決し、ゆっくりとなかに入ることにした。


汚れにまみれたため池は汚泥のようであり、足を取られる。

沈まないようにゆっくり、だが、着々と歩みを進める中

汚泥とは別の感触が足に伝わる。


「いったいなんだ?」


―その感触の元を確かめようと、一歩後退りしたその時だった。


「うわぁッ!」


ザバァと汚水からなにか出てくるような音とともに、俺は水銀とも乳白色とも似つかない不定形の物質に一瞬で包まれてしまった。

例えるなら子供の頃に遊んだ「バケツに入っているスライム」のようなものだろうか。

そいつが俺の全身にまとわりついているのだ!


「うおっ、クソ! うぶぅっ!」


スライムのような生物が俺の全身を締め付け、呼吸が荒くなる。

全身がギシギシと軋むほどに締め上げられ、自然と口が空いてしまう。


その空いた口を狙うように、生物が口元に集まり始める。


(こいつ、中に入ろうとしてるのか!?)


だが、生物は体内に入ることはなく、口元を覆うように集まっているだけだ。

それがなぜだかはわからない。


(中に入るわけでもない、けれど体は締め付けてくる!こいつはなにをしているんだ…!?

考えろ、そこに切り抜ける方法があるはずだ!)



全身を苛む痛みに耐えつつ、だがしかし、締め付けに強弱があることに気づく。


(なぜ強弱がある?殺すだけならひと思いに絞め殺せば良い。こいつは俺からなにかを得ようとしているのか…?

締め付けが強くなると自然と息が漏れる、だが吸うときには緩くなる…)


―苦しみの中に、しかしアルガは一つの正解を見つけ出す。


(こいつが求めているのは『二酸化炭素』だ!人間の呼吸により発生する二酸化炭素を吸収しているんだ!

水質の二酸化炭素異常とも説明がつく、この化け物は二酸化炭素を主食にしているんだ!

それがわかれば良い!どれだけ締め付けられようとも、化け物が食事を諦めるまで呼吸を止めるんだ!)


だが、いつまで呼吸を止めれば良いのか?

この化け物は食事を諦めてくれるのか?

それまで俺は生きていられるか?



―永劫とも思える時間の中、意識が薄れかけてきたその時、その化け物はアルガの体から離れていった。

新鮮な二酸化炭素を得られないと理解したのか、食事を諦めたようだった。


―呼吸を止めたまま、再び襲われないようにため池の入り口まで戻る。

―そうして


「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、っはーーー!」

くそったれ!あんな化け物がいるのは考えてなかった!今までの異常とはワケが違うぞ!


「ったく、あんなのがいたんじゃあ、調査にもならねぇ。

 まずはあいつを仕留めなければな。」

俺は異常対策用の装備から、あるものを取り出し、再度ため池に足を踏み入れる。

そうして、先程襲われた付近に着いた。


「このあたりだったはずだが…」

あたりを見渡しながら、そう呟く。すると。


―ザバァ!

―新鮮な餌を求め先程の、水銀ともにつかないスライム状の化け物がまたため池から飛び出してきた。


「出やがったな、こいつを喰らえ」

―異常対策課の基本装備として用意されている高吸収ポリマーを化け物にかける。

―流体生命体用の対抗手段として支給されているものだ。

―ポリマーをかけられたスライム状の化け物は、その流体をくねらせつつ、しかし徐々に小さくなっていく。

―幾ばくかの時間の後、その化け物はポリマーに吸収され、その存在をなくしていた。


「はぁ、ったく。」

一安心したことにため息を付く。


「しかし、どうしたもんか…」

化け物は退治したが、今まであんな異常はなかった。

俺の経験から察するに、今回の異常の根幹になにかやばいものが関わっているとしか思えない。


「とりあえず、1次報告として上にあげるかぁ。その後は研究員と合同調査になるか。」

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2026年1月1日 19:00
2026年1月2日 19:00
2026年1月3日 19:00

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