転生先の生活魔法しかない異世界でガチャが広まった話
木乃末わみつ
転生先の生活魔法しかない異世界でガチャが広まった話
転生して十一年、すっかり地元民。
「いってきまーす」
朝から教会へと駆け出した。
今日は前回の神の啓示からちょうど千年目、誰もがそわそわして落ち着きがない。
教会へ着くと、たくさんの人が神へ祈りを捧げていた。
別に教会で祈ったからといって聞き届けられる保証は少しもないのだけど、気持ちの問題だよね。
僕も必死で祈った。
「なにとぞ、クリーンだけはお残しください。クリーンは人類の希望です。クリーンが無ければ人は死に絶えます。。。。」
「アランっ、エイドも必要に決まってるじゃない。わがまま言うのはやめなさい」
ばしっと肩を叩かれ見てみると幼馴染のリエナだ。こいつも来たのか。
「はぁ?エイドなんて無くても薬があるだろ?クリーンが無いと大変なことになるんだぞ」
この世界には生活魔法がある。
いや生活魔法しかない。
しかもしょぼいのが四つだけ。
「ウォーター」少しだけ水が出る。直ぐ消えるので飲用は無意味。手洗いやうがいに有用。
「ファイア」火種が出る。そのまま。
「エイド」ちょっとした傷や損傷を修復する。女性陣はもっぱら美容のために使う。お肌も髪もつやつや。
そして「クリーン」汚れを剥がす。べっとりした油汚れも皿をひっくり返してクリーンを掛ければあら綺麗。そして何より重要なのがトイレでのクリーン。いくら馴染んだといえども紙の普及していないこの世界で、クリーンの無いトイレなんて絶対に無理。
先史時代、滅亡しそうな人類の命運を繋げるため、神は生活魔法を人に与えた。
そして今から千年前、久方ぶりに下界を覗いた神は、人が十分に増えたことと、魔法の源資の枯渇を危惧し、これまで一日二十回使えていた生活魔法を五回に制限した。
そしてこれで千年様子を見ると。
人々は神の存在と伝承が本当であったことを目の当たりにし、一気に回数を減らしすぎだろうと嘆いた。
そして今日、どのような審判が下されるか皆ビクビクしている。
千年前に啓示があった時間と同じ正午、誰もかれも自然と外へ出て空を見上げた。
『概ね問題は無し。善き哉。然れどもさらなる省力化のため生活魔法はガチャにて為される』
神様、なんでガチャなの? いったい誰に相談したの?
千年前の記録にあった通り、いきなり理解した。
人により理解する言葉は違うんだそうだ。
でも『ガチャ』はこの度、共通語になったみたい。
「ガチャ?」「ガチャか」「ガチャってやるのか」
もちろんガチャの何たるかも皆すぐ理解し生活魔法を行使するところを想像した。
人々は、一斉に空を仰ぎ神に訴えた。
「ファイア、ファイアは要りません。何卒ガチャはおやめ下さい」
「四回もあれば十分でございます。ガチャはなかったことに」
「なんでガチャで節約になるんだ?やめてくれよ」
「はぁ?そんなんじゃエイドできないじゃない。何考えてんのよ!」
ガチャで節約、僕には分かる、ほらエントロピーとかってやつ?間違ってる?
リエナ、不敬すぎるよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
絶望を乗り越え今日も生きてゆく。
栽培物のお尻拭き取りリーフはとんでもなく高騰し、それほど裕福ではない我が家ではまったく手が出ない。
栽培畑は最優先で大規模開墾が開始された。
僕は啓示の一年も前から、人目につかない場所に生える、低品質だけど自生しているお尻拭き取りリーフを見つけては、雑草を抜き、ローテクな農薬を撒き、環境を整えて万が一に備えていた。
危機管理ってやつだね。
満足には程遠いんだけど仕方がない。
今、僕はその葉っぱを採取して街に帰ろうとしているところだ。
「がぉ」
野生のベアが現れた。
なんでこんなところに!?
ちょっとお漏らししながら必死に逃げ切り、街から少しずれた荒地に出た。
お腹もキュルキュルしていた。
気付くと、しゃがんだ状態で何も拭くものを手にしていない僕がいた。
集めた葉っぱは逃げるときに投げ出してしまったんだ。
どーするの?僕。
いちかばちかの運試しをする?
手のひらをお尻の目標に向けたまま固まってしまった僕の顔から、逃走で吹き出た汗が引く間もなく冷や汗が流れ出てきた。
いける?どうする?
その時、直観的思考で僕の口から呪文が発せられた
「神の与えし奇跡の技よ今ここに顕現したまえ。五連ガチャ!」
「ぴっ」「あづっ」「にゃん」「にゃん」「おー」
立て続けに魔法が発動し、幸運にも危機は無事乗り越えた。
そう、幸運にもだ。
またどっと汗が噴き出してきた。
なんて無謀な僕の直観。
しかし、今、確かに僕は生活魔法ガチャの仕組みの一端を垣間見た。
ガチャの魔法は事前に五個セットされていた。
確定物理ガチャだ、シュレーディンガーのガチャじゃなかった。
イメージはカプセルガチャに近い。
躯体はただの筒。筒の中にカプセルが五個積んで置かれ、筒の排出口が開くとカプセルが落ち、すぐにカプセルが割れて魔法が発動し、同時にカプセルが消える。
五連ガチャ中は、五個すべて落ち切るまで排出口が開きっぱなしになったことで、ガチャの構造を知覚してイメージ化できてしてしまった。
でもカプセルの中に見える魔法が何を発動するかは分からない。
いつか必ず見破ってみせる。
次の日、ガチャのイメージを頭にしっかり浮かべ、キャンセル前提の詠唱を行なう。
「神の与えし奇跡の技よ今ここに顕現したまえ~え~え~」
やった!一発で成功だ。
普通の単発ガチャでも、開きかけた排出口から一番手前のカプセルの中が見えるイメージが確立した。
ここから僕の長く厳しい修行が始まった。
魔法当ての正解率は十日で四割、三十日で六割、百日目には八割を超え、二百日目を目前にもう絶対に間違わないと自信を持ったころ、頭の中に声が響いた。
『ガチャ当て名人の称号が付与されました』
神様ぁ、リソースが足りないんでしょ? なに無駄なことやってるの? 絶対に相談相手を間違ってるよ。
発動する魔法は分かる。
でも、クリーンのカプセルが無い日もある。
しかも冬には自生の葉っぱは成長を止めてしまうので、僕は栽培された葉っぱを購入する資金を稼ぐ必要がある。
しばらくクリーンをお尻に使えなくなるけど仕方がない。泣く泣く先を見据えて行動に移した。
ちょと遠いけど大通りの広場へ向かい、『ガチャ当てます。五連続で』と炭で書いた薄いぼろ板を立てて、大声で呼び込みを始めた。
「ガチャで何が発動するか当てるよー! 五回連続で当てて見せるよー!」
瞬く間に人が集まり僕を取り巻いた。
まだまだガチャの出目はホットな話題、ましてや当てると言えば当然だね。
「神の与えし奇跡の技よ今ここに顕現したまえ。。最後はクリーン。ガチャ!」
「おおー」「すげえ」「ほんとかよ全部当てたぜ」「ちょっと!どうすれば分かるのよ。教えなさいよ」
投げ銭が舞って小鍋には小銭がいっぱい、銀貨も二枚ほど光ってる。やったね。
方法はまだ秘密、出来る人はそのうち増えてくるよって、はぐらかして引き上げる。
場所を転々と移りながら実演しようと思っていたのに、噂が噂を呼んで毎日のように広場に人が集まったので、ずっと同じ場所でガチャ当てを続けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ガチャ当て興行を始めてから十日ほどたった日の朝、家の前に教会の馬車が止まった。
教会でガチャ当てを実演してくれと言われたので、明日教会へ顔を出すことになった。
「それでは五回目です。神の与えし奇跡の技よ今ここに顕現したまえ。。クリーンです。ガチャ!」
「うーむ。確かに発動しておる。いったいどのようにして当てておるのか?」
「アラン殿、その秘密を我々に明かしていただくことは可能かの?」
「もちろんいいです。ちょっと用意してほしいものがあるのですが、お願いできますか?」
五つのガラスコップに、クリーンと書いた紙片三つとウォーターの紙片二つを一枚ずつ入れ、コースターで蓋をした。僕はクリーンとウォーター贔屓だからね。
「生活魔法は日付が変わるとガチャで五回使えるようになりますが、その時点でどの魔法がどの順番で発動するかは決まってます」
「ほう、それは確かかの?」
「まぁまぁ、最後まで聞いてみようではないか」
ガラスコップを使ってガチャの仕組みを質問に答えながら説明し、本題に入った。
「今日一度もガチャを使ってない方はいますか?」
大半の人が使っていない。実演後に多く試してみるつもりで発動を控えていたそうだ。
「それではガチャのイメージを忘れずに、五回連続でガチャを行なってもらいます。詠唱は、神の与えし奇跡の技よ今ここに顕現したまえ。五連ガチャ。です」
「五連ガチャ?」「五連ガチャとはなんだ?」「君個人に啓示が降りてきたのか?」
ざわざわしたが、言葉の意味やまったくの偶然の出来事だったことなどを説明をして無理やり納得してもらい、五連ガチャを実行してもらった結果、三名がガチャの神髄に触れたと言い出した。大げさだよ。
十割確実に当てるまで二百日かかったから気長にねとアドバイスしたら唖然としいてたけれど、すぐにでもすべて当ててみると気合を入れていた。
ちなみに四連ガチャを試してもらったけど何も発動しなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「神の与えし奇跡の技よ今ここに顕現したまえ。。最後はクリーン。ガチャ!」
「おおー」「ほんとに全部当てたよ」「公布っていつなんだよ?いつまで待ってればいいんだ」
「もう少し掛かるみたいだよ。すみずみまで検証して、公開後に問題が起きないように、あれこれなんやかや調整が大変なんだって」
広場での実演は十日に一回になった。
でも毎日やっていたときより実入りはいい。
立て看板がすごく立派になって<教会のお墨付き>って文字も入っているから、投げ銭に銀貨がたくさん混じるようになったからね。
常連さんもいるよ。
教会での説明のあと、広場での実演を控えめにしてほしいとお願いされたので、話し合った結果、実演は十日に一度までと決まり、代わりに看板を作ってもらった。
ガチャ当てが広まるにつれ、あちこちからの問合せの対応が大変で捌き切れないって愚痴られた。
神様関係だから、みんな僕個人には立ち入ってこないんだ。ごめんね。
「アラン、噂のガチャ当てってあなたがやってるんですって? 当て方をね、教えてくれない?」
なんか、初めて聞いたような柔らかな声でリエナが話しかけてきた。
「うーん、もう教会預かりになったからどうなんだろ? 絶対秘密にできる? 先に広まるとまずいよ」
「誰にも言うわけないじゃない。 あたしだけがエイドでつやつやになれるのよ。 アランこそ、あたし意外に誰にも教えないでよね」
リエナは、エイドだけは瞬く間に確実に当てるようになった。
すごい執念だね。クリーン信仰の僕も、リエナのエイド崇拝の深さには脱帽だよ。
でもエイド当て名人の称号は貰えなかったみたいだ。
その後の教会のガチャ当て進捗はちょと良くないかな?
一番当たる人でも四十日目で五割にもう少し。
称号をもらえるよって話をしたら、すごく興奮して気合を入れ直してた。
それと、僕は五連ガチャ当てもできるようになった。
とは言っても、一瞬で判別する高速鑑定の技を磨いたってだけなんだけど。
やわらかな栽培葉っぱを買えるようになったから、ついついやり始めたら最後まで止まらなくなったんだよね。
出来ても意味ないんだけどさ。
でも「五連ガチャ当て名人」の称号はもらえたよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
教会での説明から五十日後くらいに、多方面からの声に抗えず、教会はガチャ当て方法の公開に踏み切った。
それでも教会には確実にガチャ当て出来る人がまだいないので、僕に実演依頼が来てしまった。
教会のホールには、貴族や有力者の使い、商人、その他、何をしているのか分からない人が大勢集まっている。
今は、精巧なイメージ模型を使ってガチャの仕組みを説明しているところだ。
この模型のお陰でガチャの神髄に触れやすくなったと好評だ。僕もあれこれ助言したよ。
「この模型のようなガチャを、真に心から理解するためには、まずは五連ガチャなるものを行ない、ガチャに目覚める必要があります」
「五連ガチャ?」「五連ガチャとはなんだ?」「目覚める?」
「ご静粛に。まずはわたくしが実演いたしますので、よくご覧ください」
などと説明が続いているので、出番までぽけーっと待っている。
ところで僕はガチャの真実をもう一つ理解したと思う。
鑑定しても発動させなかった魔法は、いつでも次の日に鑑定しても同じ魔法だったんだ。
つまり、日付が変わると魔法の総入れ替えではなく、不足分を供給するだけってことだ。
どこまでも続く大地に、ガチャカプセル五個分の穴が、人の数だけみっしりと空いている。
日付変更とともに大地に大量のカプセルがなだれ込み、穴を埋めていく。
こんなイメージで間違っていないはず。
確かにガチャに変えてコストは下がるかな?
でもネーミングが最悪だよ。
「神の与えし奇跡の技よ今ここに顕現したまえ。。クリーン。ガチャ!」
ぽやんとエイドが発動したのが分かった。
「今度も外してしまいました。五回、間違いなく当てるためには長い修練が必要です。修練を始めてより五十日目のわたくしは、いまだ三つが良いところ。されども、この五連ガチャを見い出し、修練を極め、ありがたくもガチャ当て名人の称号を。。。」
僕の紹介が始まった。長いね。
あまり大げさにしないでって言ったのに、ちょっと持ち上げすぎじゃない?
五連ガチャ発見のくだりは、そのまま飾らずに言ってもらうように何度もお願いしたので、笑いが生まれた。
よしよし、偉人扱いなんて絶対いやだからね。
「それでは、先程ご紹介しました新しき御技『五連ガチャ当て』を、アラン・テリノバにお披露目していただきます」
さてと出番だ。
教会から頂戴したパリッとした服を着た僕は、観覧しているみんなに深めに礼をしてから詠唱を始めた。
「神の与えし奇跡の技よ今ここに顕現したまえ。五連ガチャ!ファイア!ファイア!ファイ!ファイ!ファイア!あれ?」
『五連ガチャ当て名人称号持ちのアラン・テリノバが五連ガチャ五連鎖を成したため、アラン・テリノバのガチャにガチャ枠が一つ追加されます』
僕と、僕のガチャ当てを見ていたみんなの頭にメッセージが舞い降りた。
神様ぁ、実装したい気持ちは分からないでもないんだけど、こんなの誰も目指さないよ。
えっ、やるの?
転生先の生活魔法しかない異世界でガチャが広まった話 木乃末わみつ @wamitsu
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