ことほぎ

天雪桃菜花(あまゆきもなか)

お祝い

『おめでとう』


 命が生まれた瞬間にささやかなお祝いを配る神々がいた。

 ほんのちいさな灯りの加護を、この世に生まれしすべての生きものに。



 小さな神々たちは、眷属の精霊をつれ、地球上に生まれる命のすべてに「お祝い」をプレゼントする。


 それは「寄り添う灯り」や「ふわふわの優しい」や「柔らかな陽光」だったり、「ほんのりと温かい慈愛」などなどであって。


 花咲く植物にも、地底で過ごす魚たちも、山々の恩恵のなかで生まれ育つ獣も、わたしたち人間も、この世に誕生するすべての命が、なにかしらのお祝いを受け取って、生きる。


 わたしはそんなこともとうに忘れてしまい、日々を過ごしてきたのだが、ふと命のおわりが近づくたびに、お祝いをくださった小さな神様をよく感じるようになったのだ。


 奇跡や華々しい活躍などとは無縁だし、どえらいものはついぞ起きなかった人生。


 ただ、この年まで健やかに過ごせたのは幸いです。


 ささやかなお祝いをくださった神様の存在は、日増しにそばに感じます。


 100歳を超え、家族や友人と過ごす時間、なんてことのない一日一日が、幸せでたまりません。


 どうやら、わたしに与えていただいたのは「穏やかで健やかな人生を送れる灯火」のようでした。


 次の人生があるならば、ちょっとした盛り上がりも欲しかっただの、ファンに愛されるアイドルや俳優になってみたいなんて、野暮でミーハーなことを頭の片隅に考えて生きてきました。


 毎日、家族と楽しく仲良く過ごせ、お腹いっぱいご飯を食べられる、この年でも元気にちょっとした散歩をすることが出来る健脚があるわたし。十分じゃありませんか。


 ちかぢか終わりを迎えることが、なんとなく察せられますが、わたしの人生はささやかなお祝いごとを重ねて生きてこられて、とっても幸せなことでございました。


 最期は家族に看取られ、あなたさまがお迎えに来てくださるとは。


 気づけば、ずっと見守っていただけていた。


 瞳を閉じると、思い出が事細かに浮かびます。

 走馬灯と言うやつでしょうか。


 恋い焦がれた彼女と結婚して、可愛い子宝に恵まれ、さらには孫にひ孫に玄孫にと愛らしい赤ちゃんたちを抱っこをすることが出来た。みんな、わたしに似ているところを見つけられ、とても嬉しく思う。


 とっても穏やかで幸せな最期に、わたしはわたし自身に「よく働き頑張ったじゃないか、長年お疲れ様」と言い、神様にはありがとうと感謝を述べたい。


「ひいひいおじいちゃん、100歳おめでとう」

「100歳のお祝いって百寿ももじゅとか紀寿とか言うんですって」


 ここのところ、とにかく眠い。


 現実と夢とを行き来するきわに、神様が降らせてくれた花が見える。


「お父さん、寝てる場合じゃないですよ」

「あのなあ、とっても眠いんじゃ。寝かしてくれんか」

「ひいひいおじいちゃん、お歌の練習しなくっちゃ」


 歌の練習……?

 結婚式かなにかあったかな。


「来月、お隣の銀次さんとローカルテレビのカラオケ番組に招待されたんですよ」

「へっ? 銀次と?」

「ほら、ご当地アイドルとゆるキャラが出て人気の『縁起が良いね! ご長寿様と唄おうカラオケ』でテレビデビューだって」


 この地味なわしが、歌でテレビデビュー?


「わしはもうすぐ死ぬかもしれん。とても眠くて仕方がない、起きてるのはかなわん。そんな番組に出れるわけなかろう」

「なあに言ってんのよ、源じい。ちょっと日本酒飲んだだけじゃない」


 そうだ、そうだ。

 せっかくの誕生日だからって、たいして呑めもせんのにみんなに勧められるままに、ちょっぴり酒を呑んでみたんだった。


「わしはまだもう少し、生きても良いんじゃろか」


 縁側で祝いの酒を小さな神様が眷属たちと小さな杯で呑んでいるのが見えた。

 どうやら、わたし以外には見えぬらしい。


「お迎えではないのですか?」


 小さな神様はこちらを見てふふっと微笑んで『お迎えはまだ先です』とおっしゃった。


 わたしはテレビに出るまでは長生きせねばと誓った。



 ささやかな祝いを配ってくださる神様は生まれた瞬間にそばにいらっしゃって、そして終わりの日にもそっといてくださるという。


 旅立ちが寂しくないように、魂に寄り添う神々の灯火はみちしるべでもあり。


 とにもかくにも、最後に気まぐれに楽しい奇跡をくださったのだろう。



   了

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