第3話 読心術


 テーブルを挟んで向かい合い、大変に香ばしい珈琲コーヒーに口を付けてから、私はようやく会話の為の声を出しました。緊張からか、いくらかのりきみがあったかも知れません。

「改めて、こんばんは。お元気そうで何よりです。ところで、久々に会って早々にこんなことを聞くのは失礼なのかも知れないが」

 私がそう言いかけた所で洋三郎ようざぶろうさんは右手に持っていた磁器のカップを少し下げ、改めて私の目を深く見たものです。その時の洋三郎ようざぶろうさんの目は、カップの中の珈琲コーヒーから上がる湯気ゆげを通しても、その目は、その眼は。そうです。昔から時として見せる、眼。その独特の深みをたたえた眼でもって、瞬時に私の心を奥深くまで見透かしたようでした。

「ああ、成程なるほどね。私に気をつかって、或いはつい他の話題に興じてしまって聞く事を忘れる前に、ず一番に聞きたい事を問いに出しておこう、と。そういうつもりなのですね。山見やまみ君」

 その声は私の心積こころづもりを見事に言い当てていて、私は喉が詰まるようなていをお見せする事となってしまいました。そんな私に構う事なく、洋三郎ようざぶろうさんは続けます。

「構いませんよ。何なりと、聞いて下さい。私に答えられる事でしたのなら、お話しいたしましょう。しかし、随分長くこらえたものですね、山見やまみ君。もう知り合って何十年にもなるかというのに。これまでも、機会あるたび本心では聞きたかった事でしょう。これまでに出会った方々、友人たちの中でも山見やまみ君が一番長くそれを聞かずに居て下さった。今、それを私に対する礼節と友情のあらわれれと喜んで受け取ります。ながらくのお気遣きづかいを有難う、山見やまみ君」

 洋三郎ようざぶろうさんがそこまで言い切ったあたりで、私の中では、やはり長年の友であり畏敬とも言える念を抱き続けていたこの人物に対して失礼であったか、と羞恥しゅうちに近い感情が湧き出してきました。

 しかし洋三郎ようざぶろうさんはまたその眼をかすかのようにしながら静かに微笑んで、

「水臭いですよ。なあに、気にう事など何も有りはしないのですから。それにこれまで出会ったどの人も、まあ付き合いが続けば聞いてくるのが当然の事でもありましたしね。さあ、聞いて御覧なさい。当ててみましょうか。そうですね。うん。『吸血鬼であると呼ばれているが実際の所どうなっているのか。本当なのか、本当ならば、それはどのようなものなのか』、『左腕を失った理由やそのあたりの事情、出来事』、まあそういった所でしょうかね。如何いかがでしょうかね。当たって居りましたか」

 眼を逸らす事無く、洋三郎ようざぶろうさんは優しげに、そして鋭く言い当ててみせました。ええ。そうなのです。正に私が今日こそは聞こうと目論もくろんでいた事を、見事に見抜かれてしまったという訳です。この時私には、洋三郎ようざぶろうさんが人の心を読める読心術どくしんじゅつを心得ているのは間違いないと思えたのでした。

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