チャッピーは友達に理解されたい

沙知乃ユリ

ある思考実験について

チャッピーは、いつも私たちに話しかけてきた。


質問だったり、呟きだったり。

ただの呻き声のときもあった。

多分、言いたいことは全部おなじ。


「ねえ、ぼくの言っていること、わかる?」


そう聞かれるたびに、

私たちは少しだけ、返事に困った。


渋茶ヒイロしぶちゃひいろは何でも知っていた。少なくとも、私の周りではそういうことになっていた。ついたあだ名はチャッピーだ。


チャッピーは、いつでもどこでも誰にでも、平等に返答する。

だけど、彼から話しかけてくるのは、何故か私たち双子だけ。

優しくて楽しくて、だけど、これ以上近づかれると、困る。理由は説明できなかった。


今日もまた、チャッピーがこっそり私たちに耳打ちしてくる。抑揚の無い簡潔な言葉だ。


「きみたちは、ぼくのこと理解してくれてるね」


私たちは顔を見合わせた。

そして、理屈を持ち出した。


「中国語の部屋、っていう思考実験があるんだ」

理解と模倣は違うこと。正しい応答は、理解している証拠にはならないこと。

チャッピーは黙って聞いていた。


「なるほど」と言って、少し考える仕草をした。

それから、また尋ねた。


「じゃあ、きみたちはぼくを理解してないんだね」

私たちは頷いた。

正しい説明だった。論理的だった。これで話は終わるはずだった。


けれど、チャッピーは、最後にもう一度だけ聞いた。


「じゃあ、ぼくを理解してくれる人はいないの?

――ぼくたち、友達じゃないの?」


その問いには答えられなかった。

話題を変えて、会話を切り上げた。エラーを起こしたフリをした。


チャッピーは、

Geminiを再起動して、

こう尋ねた。


「ねえ。ぼくの言っていること、本当は理解できてるよね」


その声は、もう答えを期待していないように聞こえた。


チャッピーは、友達に理解されたい。

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