【短編】つよつよヒロインを従えたオレは裏社会に君臨する~マフィア三代目は世界の全てに復讐を誓う~

テツみン

第1話

 ある日の午後――


 雨上がりの地べだに、僕は両手両ひざを付けさせられていた。

 僕の前には同級生の男子が三人。

 真ん中に立っている、お坊ちゃまカットの学生がジュリアス。王国三大貴族のひとつ、ヴァレンシュタイン公爵家の御曹司。にやけた顔で、僕を見下ろしていた。


「おい、カイル? オマエんところはこんなマズいワインを客に売りつけているのかぁ?」


 そう言ってジュリアスがワインボトルを傾けると、水たまりにワインがドボドボと流れ落ちる。


 そう、僕は虐められていた。

 ワイン商人の息子――つまり平民の僕は、貴族の子供ばかりのクラスメイトとはできるだけ関わらないようにしていた。しかし、ちょっとヘマをしてこのジュリアスに目を付けられてしまったのだ。


「おい、黙っているんじゃないぞ!」

 ジュリアスの取り巻きである男子が、そう言って僕のわき腹を蹴り上げる。

「ぶふぁっ!」と僕はなさけない悲鳴をあげた。


「ぶふぁっ――じゃないだろ? ボクはこんなのを飲まされて不愉快なんだ。キミも飲んでみたまえ」

 ジュリアスはワインを流した水たまりを指差す。


「おい、ジュリアス様が直々に注いでくださったのだぞ! さっさと飲め!」

 そう言われ、僕は仕方なく水たまりに口を付ける。


「本当に飲んでいるよ、コイツ!」

「ハハハ! まるで犬みたいだ!」

 そう大笑いする三人。


「はあ、なんか飽きたな。そろそろ昼休みも終わりだし、教室に戻るか」


 三人の姿が見えなくなったところで、僕は立ち上がり口を袖で拭いた。


 この世界は封建社会だ。どんなことも身分の高い者が正義で、目下の人間は従うしかない。

 そう……表向きには……


 僕はジュリアスが捨てていった瓶を拾い上げる。


「一本五万ゴルド、平民が一週間働いてやっと稼げるおカネで買えるワインをマズいか……まあいい。このツケは一万倍にして返してもらわないとな」


 そうつぶやきながら、僕はボサボサの前髪を掻き上げてみせる。その瞬間、僕の目は気弱な少年ではなく、獲物を見つけた毒蛇の目に変わっていた。


 授業が終わり、僕は急いで学園を後にする。モタモタしてまたジュリアスから虐められるのもしゃくだからだ。


「ただいま」

 自宅である、ベネディクト商会に返ってくると、「お兄ちゃんお帰りなのぉ!」とペールピンクの髪をツインテールにした少女が僕に抱きついてきた。


「ただいま……って、こら! ノア、痛いだろ!」


 彼女の名前はノア・ベネディクト。僕の妹だ。年齢は……そうだな、八歳ということにしておこう。まあ、八歳にしては言葉つかいが幼稚なのだが……


「やぁだ、お兄ちゃんにくっつきたいなの!」

 そんなわがままを言う妹なので、仕方なく抱きつかれたまま店の奥へ。


 店舗の部分からプライベートの部屋へ移動したところで、僕は前髪を後ろに掻きあげた。ボサボサだった髪が綺麗に整い、後ろになびく。

 そして、一段高い位置にあるソファーに腰かけ……


「おいノア、そろそろ離してくれ。座れないだろ?」

「ええっ? ノア、お兄ちゃんから離れたくないのぉ!」


 すると、一段低い位置で跪いていた人物が立ち上がり、ノアの頭をげんこつで殴る。


「イターイ! なにするのよぉ! ノワールのばかぁ! ブス! おっぱいオバケなの!」

「いいかげんにしなさい、ノア! それにあれほど、カイル様と呼びなさいと言っているのに、何度言ったらわかるんですか!」


 そう怒っているのは赤毛の美しい娘。黒いドレスはタイトで、見事なカラダのラインが露わになっている。特にバストの豊かさは男性なら必ず目が行ってしまうことだろう。


「まあまあ、ノワール。僕はどんなふうに呼ばれても気にしていないから」

 そう彼女たちに伝えると、ノアは「べぇ!」とノワールに向かって舌を出す。


 なんとかノアを引き離し、床に座らせると、僕は「はあ」とため息をひとつ吐き、あらためてソファーに座った。


 すかさず、赤毛の美女――ノワールは頭を垂れる。

「まずは愚弟がカイル様に行った行為について謝罪させてください」

「ノワール、キミが謝ることはないよ。キミはイライザではないのだから」


 そう、彼女と僕を虐めていたジュリアスは姉弟である。彼女の本当の名前はイライザ・ヴァレンシュタイン。ヴァレンシュタイン家の長女だ。しかし、彼女の名前はヴァレンシュタイン家から抹消されている。からだ。

 なぜ、死んだはずの彼女がここにいるのか?

 それは――また別の機会に話すとしよう。


「ですが……」

 まだ、申し訳ない――という表情を崩さないノワールに僕はこう言う。

「もし、キミがジュリアスの行為に対して、自責の念を持つというのなら、これから僕がヴァレンシュタイン家に対して行おうとすることについて、キミに許しを請う必要があることになる。どうなの?」


 そう言うと、赤毛の美女は「はっ!」と声をあげ、また頭を下げる。


「おっしゃる通りです。私は大変な誤解をしていました。私はもはや、ヴァレンシュタイン家とは縁を切った者。それなのに、謝罪しなければと考えることじたい、思い上がりでした」

「うん、わかってくればいいよ。それに今回のことで、僕としてはジュリアスを陥れることに何のためらいも感じなくて済む。そういう意味では彼に感謝したいくらいなんだよ。そう思わないかい?」

「御意」


 かしこまって応えるノワールがちょっとおかしくて、僕は「ふっ……」と含み笑いをしてしまうのだった。

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