第2話 あなたのことを思って

学校に行けなくなった私を、周りの大人たちは「正しさ」という武器で追い詰めた。


担任の先生は、熱心な教育者の顔をして、私を学校という箱に戻したがっていた。

その熱意は、いつしか私の家の中にまで侵入してきた。本来、一番の味方であるはずの両親は、先生のその「熱心さ」を歓迎し、あろうことか彼らは手を組んだのだ。


「あなたのことを思って言っているのよ」

という、呪いのような言葉を盾にして。


ある日のことだ。

私が自室で、かろうじて保っていた心の平穏を必死に守っていたとき、その境界線は無残に壊された。


ノックの音すらない。

突然ドアが開くと、そこには当たり前のような顔をした親と、その背後に控える先生の姿があった。


私のプライバシーは、そこには存在しなかった。


「学校に戻そう」という大義名分があれば、一人の人間の尊厳や、部屋という聖域を土足で踏み荒らしても許されると思っているのだろうか。


これは明白なプライバシーの侵害ではないのか。


鍵のないドアの前で、私はただ震えることしかできなかった。

あの時、私の部屋に強引に入ってきたのは、人ではなく

「正しさを押し付ける怪物」

だったのだと、今でも思う。


私のプライバシーは、そこには存在しなかった。


そもそも「プライバシーの侵害」とは、

私生活上の事柄をみだりに公開されたり、

平穏な私生活を他人に土足で

かき乱されたりすることを指すはずだ。

たとえ親であっても、教育者であっても、

本人が見せたくない!

入ってほしくない!

と思っている領域に

無断で踏み込む権利などない。


私にとって自分の部屋は、

剥き出しになった心を隠せる

唯一のシェルターだった。


そこをノックもなしに開け放つという行為は、

単なる失礼を超えて、

私の人格そのものを否定する暴挙だ。


「教育のため」

「更生のため」という大義名分があれば、

一人の人間が持つべき

『一人でいる権利』を奪ってもいいのだろうか。


法的にも、そして道義的にも、

あれは守られるべき

境界線の破壊――明確な侵害だったのだと、

今の私は断言できる。


大人は裏切るものと心のそこからそう思った。


勝手に人の部屋に入れる入るはしない、させない。


プライベートは犯してはいけない。


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