最強傭兵のゴブリン転生

ゆる弥

第1話 どういう転生?

 目に映るのは、空から降り注ぐ無数のミサイル。この状態からは絶対に逃げられないだろう。最強の傭兵と謳われた俺だが、これで終わりみたいだ。


 日本ののどかな情景が頭の中に流れていく。久しぶりに田舎へ帰ってやればよかったかなぁ。


「あぁ。モテたかったなぁ」


 凄まじい閃光で目の前が真っ白になり、轟音が鼓膜を破って無音状態となった。死んだはずだけど、俺は真っ白の空間にいる。


【一定の強さを確認しました。転生プロセスに移行。アイギス世界救済プログラムへ組み込みます】


 なんかよくわからない音声が聞える。

 俺、死んだんだよな?

 なんだろう。この空間。


【組み込み……失敗しました。勇者として組み込めませんでした。別の方法を試みます】


 おぉ。勇者か。絶対モテただろうなぁ。残念。


【組み込み……失敗しました。人として組み込めませんでした。別の方法を試みます】


 えぇぇ。せめて人が良かったぜぇ。


【組み込み……失敗しました。魔物最強種として組み込めませんでした。別の方法を試みます】


 おぉ。魔物の最強種だったら、ワンチャン話せたりするって後輩が言ってたなぁ。漫画知識だろうけど。


【組み込み……成功しました。魔物最弱種への転生となります】


 マジか。最弱種ってなんだよ。なんでハードモードなんだよぉ。

 っつうか、なんで失敗してんだよ。

 しゃべってる奴、もう少し頑張れよ。

 諦めるなよなぁ。


【ハードモードボーナスとして、前世記憶継承を付与……成功しました】


【続いて言語理解を付与……成功しました】


【全属性付与……失敗しました】


 えぇぇ! 全属性とかモテそうだったのに!

 

【一属性付与……失敗しました】


 なんで? 一つの属性も付けられないわけぇ?

 

【肉体強化……失敗しました】


 ねぇ。何なら成功するの?


【精神強化……成功しました。強靭な精神力を獲得】


 えぇ……。


【ボーナス付与が終了しました】


 終わっちゃったぁぁ!


【転生プロセス開始……】


 目の前が暗くなり、身体の痛さに目を覚ます。目を開くと光の眩しさに再び閉じてしまう。ゆっくりと開けると、木と藁の天井が見えた。


「おい、おまえのおかげで昨日は人族の女逃がしちまったじゃねぇかよ!」


 醜い顔をしたゴブリンが怒鳴ってくる。

 俺のせいなのか?

 というか、別の人格が今までいたということなんだろうか。


「あぁ。すまん」


 適当に謝っておくことにする。別にコイツにどう思われようと関係ない。なぜなら、モテる為に必要ないから。


「今日は邪魔すんなよ? 今日は上玉を手に入れたからなぁ」


 そう言ってその場を立ち去るゴブリン。ちょっと外へと顔を出して様子を見ると可愛い革鎧を着けた女が羽交い絞めにされて運ばれていた。


 口も臭そうな布で覆われていて、もがいているけど五人で羽交い絞めにされているからどうにもならないだろう。俺ならできるけど。


 チラッとこちらを見て涙目で見つめて来る女。

 そのウルっとした目に、やられた。

 胸が苦しくなってキュウっと締め付けられる。


 これは、前世でも味わったことがある。胸きゅんだ。俺、一瞬で恋をしたんだ。あの女性に。


 助けなきゃ。そしたら、モテるかも。

 まずは、この腰に巻いている臭い布を洗おう。

 俺がいた小屋には樽に水がためられている。


 それも濁っていて、一体どこから持ってきた水なのかもわからない。

 ぜってぇ飲まねぇ。

 これで洗おう。


 腰巻を外して水へつけようとすると自分の顔が映る。


「ブッ! 前世より不細工じゃねぇかよ! まったく。どうにかしねぇと。整形ってできるのかな? 無理か? 今はとりあえずいっか。洗おう」


 水の中へぶち込んでガシガシと洗う。水がみるみるうちに濁っていく。

 どんだけ汚いものを腰に巻いてたんだよ!

 これだから、ゴブリンは!


 固く絞ってそれはそのまま腰に巻く。そのうち乾くだろう。ないとそれはそれで怪しまれるだろうからな。この体で下をみせたってなんにも気にならないが。


 外の様子を見ようか。

 どれだけのゴブリンがいて、どういう構造になっているのか頭に入れないと助けられないからなぁ。


 小屋を出ると、空から太陽が攻撃してくるように痛い。皮膚が焼けるようだ。魔物だから光に弱いのか?


 他のゴブリンは普通に日の下を歩いているから皆がそうだというわけではなさそうだ。


 奥には大きな家らしきものがある。あれは長の建物だろうなぁ。入口に二人ほど屈強なゴブリンがいるし。あれはゴブリンか? 違う種類かもな。


 隣に武器庫がある。そこからは勝手に武器を持ち出せないということだろう。面倒な。


 規模感としては村だな。ただ、結構大きい。外で小屋の組み立て仕事をしている細いゴブリンもいる。刃物も持っていたため、働いているゴブリンに近づく。


「手伝おうか?」


「んー? 別に手伝いはいらねぇ」


「そのナイフ、どこでもらえる?」


 怪訝な顔をしてこちらをみる細ゴブリンは、長の家を指した。


「仕事を貰えばくれると思うけど?」


「そうかぁ」


 ここにあるのに、わざわざそこまでするのもなぁ。どうせ、するんだし。


 目を逸らしてナイフへ視線を戻した細ゴブリン。

 

「あっ。あのぉ、ここなんだけど、どうやって組んだの?」


「どこー?」


 門番から見えない裏の方へと誘いだす。

 ナイフを持っている手の親指を掴んで捻り上げる。

 ナイフを落とすと、声が漏れないように首を回して絶命させた。


 倒れたゴブリンを小屋へ隠して、ナイフを腰巻へ忍ばせる。


 体が仄かに光を放つ。

 なんだか、力が漲ってきた。

 もしかして、ゲームみたいにレベルが上がった?

 

 いいねぇ。

 強くなれば絶対にモテる!

 さて、全滅させていきますかぁ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る