白い月兎のファニーファニーと世界で一番美しい街とその街に隠れるようにして住んでいる美しい民族のお話

雨世界

第1話 おーい。こっちだよ。ほら。なにしてるの。はやくおいでよ。

 白い月兎のファニーファニーと世界で一番美しい街とその街に隠れるようにして住んでいる美しい民族のお話


 おーい。こっちだよ。ほら。なにしてるの。はやくおいでよ。


「君は地獄を見たことはある?」

 そんなことを遠くに見えてきた、まるで天国のような美しい白い街を見ながら白い月兎のファニーファニーはぼくに言った。

「ないよ。でも、地獄のような風景なら見たことはある」

 ファニーファニーの横で同じように美しい真っ白な街を見ながらぼくは言った。

 時間は夜明け前の夜が明るくなっていくときで、少し寒い風が薄暗い世界には吹いている。

 ぼくにはすぐ隣を歩いているファニーファニーの顔がまだ暗くてよく見えなかった。

「どんなに静かに暮らしていても、嵐の夜はやってくる。そんな怖い嵐の夜には、震えながら大人しくずっとじっとしていて、嵐が過ぎていくことを待つことしか森の動物たちにはできないんだよ」

 ファニーファニーは遠くの街を見ながら急にそんなことを言った。

「息を潜めて草木の影とか木の穴の中とか、掘っていた巣穴の土の中、あるいは岩場にある自然の大きな洞窟の中とか、いろんな嵐が少しでも弱いところでじっとしていることしかできないんだ。そして、そんな恐ろしい強い雨と激しい風と大きな音の雷の鳴る夜の中で思い出すんだよ。今までの毎日が本当に幸せだったんだってことに。太陽が光り輝いている穏やかな明るい朝や昼の時間が、どれだけ恵まれていたのかってことにね。そんなことを思い出して。気がついて。感謝をするんだ。たとえまたすぐにそんな幸せな朝や昼が当たり前の毎日になって、太陽の光りに感謝をすることを忘れてしまうことになったとしてもね」

「でも、またその恐ろしい嵐の夜が森にやってきたときは森の動物たちは思い出すことができる。太陽の恵みや、穏やかな毎日の幸せのことを」

「うん。そうだよ。ずっとその繰り返しなんだ。太陽と嵐の繰り返し」

 ファニーファニーはきっと今まで見てきた人間の歴史のことを言っているのだと思った。

 千年の寿命がある白い月兎にとって、百年の寿命の人間の歴史はとても短いものに感じるのかもしれない。

 ぼくにはいつもは小さな女の子みたいに思える駄々っ子のファニーファニーが今のようにとても難しいことばかりを考えている年老いた賢者のように見えることがときどきあった。

 それはどちらが本物でどちらが偽物のような話ではなくて、どっちも同じ本物のファニーファニーなのだ。(一緒に長い旅をしているぼくにはそれがよくわかった)

 ファニーファニーは小さな幼い女の子であり、年老いた賢者でもあるのだ。

「ねえ。あの街にはさ、どんな美味しいものがあるのかな? 今からとっても楽しみだね」

 小さな女の子のファニーファニーがにやにやした顔をしながら、大地の上に顔を出した太陽の光の差し込んでくる明るくなった世界の中で、(早く行こうって、ぼくの服を引っ張りながら)ぼくに言った。

 ぼくはようやく見えるようになったファニーファニーの美しい顔を見ながら「じゃあ、街のところまで競走しようか」と大地の上を走り出しながら(あ、ずるいと言ったような顔をしている)ファニーファニーに笑顔で言った。

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