洞窟の揺らぎ〜力とはなにか〜

千夢来人

1章 念願の祭り

「収穫祭やっとできるね〜」

 村の飾り付けをやり終えて、隣に座ったディミがしみじみ呟いた。

「だな。今年は少し遅れたけどできて良かったな」

 いつもは秋の始まりにするこの祭りも、今年は木々の葉が赤く染まって、徐々に寒くなってきた時期にする事になった。

「魔力の事件の時は、まさかするとは思わなかったよ〜」

 川や森に魔力が出現していた問題は、ジュエルベアーを倒して二週間が経つと、魔力の異変がなくなり、だったら村の人達が収穫祭をしたいという話にまとまり一週間で準備をした。

「みんなこのお祭り好きだもんね〜」

 ディミが背伸びをしながら立ち上がった。

「オルはこの後、ヴィンセントさんのとこ?」

「いや、なんか今日は用事があるって家にいないよ」

 ディミがくるっと振り返る。夕暮れ時の日差しに照らされてディミの顔が赤く染まる。

「そしたら、お祭りが始まるまで散歩しよ〜」

「いいよ。ディミは、散歩好きだよな」

 ディミは照れたようにえへへと笑った。僕はすっと立ち上がって歩き出した。横に並んで歩き出すディミ。

「私ね。お祭りの前が一番好きなんだ」

 ディミが慌ただしく広場を準備している人達を、見ながら言う。

「なんか楽しくな〜い?」

「そうだな。どんなに不作だった時も、お祭りの日になるとみんな笑顔になるもんな」

 ディミがウンウンと頷く。

「お祭りが終わると、さぁ今年もやるぞって、みんな元気になるよね〜」

 地面には落ち葉が落ちていて、踏むとザクザクと心地よい音が聞こえてくる。

「お祭りが終わったら、私ちょっと街に仕入れに行かないといけないんだよね」

「あぁ、もうそうなるか」

 ディミ達の家は薬師をしているので、村で手に入らない薬やこの村で取れる薬草を、季節ごとに街に納品や仕入れに行っていた。

「また、一週間くらい?」

「うん。それも今回から一人なの〜」

 ディミは自信満々に胸を張る。

「一人で行くのか?オジサンは?」

「今年色々あったでしょう。調査は終わったんだけど、見回りもかねて残る事にしたんだって〜」

 今年は森に魔力があったり、見慣れない魔物がでたりと、森には異常がある年だった。理由を聞いて納得した。

「あ、ユークさんだ」

 前から歩いてくる冒険者のユークさんを見かけて、ディミが手を振った。

「オル君とディミさん。こんにちは」

「ユークさん。怪我は大丈夫ですか?」

 ユークさんは先日のジュエルベアーとの戦いで、体がボロボロに傷ついていた。

「大丈夫だよ。そろそろヴィンセントさんの所に、顔を出そうと思っているけど、相手をしてくれるかい?」

「僕で良ければ喜んで」

 ユークさんはなんだか落ち着かないように、ソワソワしているみたいに見える。

「マイミ姉ちゃんの所に行くの〜?」

 マイミ姉ちゃんは僕達より少し年上で、昔は良く一緒に遊んでくれていた。確かユークさんを看病していたはずだ。

「そうだよ。そしたら二人ともまたね」

 ユークさんは少し慌てて去っていった。その様子を見ながらディミが子供のように笑っている。

「ユークさん。どうしたんだろう?」

 ディミが目を見開いてこちらを見る。

「オル、知らないの〜?ユークさんとマイミ姉ちゃん。いい感じなんだってよ。ユークさん冒険者を辞めて、この村に住むって噂もあるくらいだよ」

 そんな話は初めて聞いた。ジュエルベアーとの戦いからまだ一ヶ月も経っていないのに、そんな事になっていたとは。

 ドンドンドン

 暗くなった夜空から太鼓の音が聞こえて来た。

「お祭りが始まるね。広場に行こ〜」

 ディミと広場に着くと、村の前に舞台がセットしてある。いつもは豊作の願いや踊りなどがやっていて僕も楽しみにしているが、今年は何だかいつもと違い太鼓と笛の二人しかいない。

「あれ?先生?」

 舞台の端から先生がでてきた。先生は舞台の周りの火を次々と消していき、舞台の周りは暗くなっていく。

 そして先生は中心に立ち、自分の前に火の玉をゆっくり生み出していく。ゆっくりと笛の音色が始まり先生は踊り出した。太鼓の音とともに先生の動きが徐々に早くなっていく。

「ヴィンセントさん綺麗だね」

 横にいるディミは目を奪われてしまっている。先生が生み出した火の玉は、先生の手にまるで生きているように動いていく。先生の踊りは妖艶で力強く、そしてどこか儚げな踊りだった。

 あっという間に先生の踊りは終わって、いつもの祭りが始まった。

 踊りが終わった後、先生を探したがどこに行ったか分からず見つからなかった。

「また一年お互い頑張ろうね〜」

 風に揺れて、枯れ葉が目の前にポツリと落ちていく。

「そうだね。来年もこうして一緒に祭りを楽しもう」

 僕達は会場のちょっと外れの方で、ゆっくり祭りを楽しんだ。

 次の日、僕は先生の所に行ってみると、いつもの調子で先生は机でお茶をすすっていた。

「おはよう。オル」

「おはようございます。先生、昨日の踊りいつ打ち合わせしたんですか?」

 僕は先生の向かいに座る。

「そうですね。魔力事件が落ちついたくらいですかね」

 先生はお茶を一口飲む。

「村長さんとお話していく中で私に何かできないかと相談されましてね」

「え、一週間くらいでですか?」

「まぁ、そうなりますね」

 彼は何事もなく平然と答える。あの踊りが一週間で出来上がるなんて信じられなかった。

「以前、少しやっていたんですよ。楽しんでくれましたか?」

「はい」

 僕は少し大きな声で答えた。先生は微笑んで何度か頷いた。

「まぁ、それはそれとしてオル、少し相談があるんですが」

 相談?どういう事だろう?僕にできる事だろうか?

「私の代わりにギルドに顔を出しに行ってくれませんか?」

 ギルドに?なんで僕が?

「そんな怖い顔しないで下さい。ただ、この間の報告書を届けてもらいたいだけです」

 先生が棚の方に立ち上がる

「本来なら、私が行くべきなんですが」

 棚の引き出しから一通の手紙を取り出した。

「今朝、ギルドから別の指令が来たんです。どうやらこの間の黒幕のアジトを見つけたみたいで、私にそっちに行くようにと」

 先生は手紙を僕に見せてくれた。手紙には先生が教えてくれたように助けに行ってほしいと書いてある。

「大体の事は以前、私が報告を出しているのですが、今回は詳細に書いたものを渡そうと思いまして、こちらは急いでいませんので明日に出発しても構いませんよ」

「先生は?」

 先生は少し目を細める。

「少し奇妙な点もあるので私は今日中に出発するつもりです」

 先生はすぐにこちらを向いた。

「どうでしょうか?」

 街になど行った事がない。僕一人で大丈夫だろうか?

「そうそう、丁度ディミさんが行くみたいなので一緒に行ってはどうでしょうか?」

 先生が言ったように、昨日ディミも街に行くと言っていた。

「ディミさんなら何度か行った事があるので、街での過ごし方は慣れていると思いますよ」

「そうですね。分かりました」

「話は私から通しておきます。いつ頃出発しますか?」

「いや僕の方で話をしてきます。出発はディミの都合にもよりますが、明日にしようかと思います」

 先生はホッとした様子だった。

「では、頼みましたよ」

 その日の夜に先生は仲間の所に向かった。僕も次の日にはディミと街に向かって出発した。

「オルと街に行く〜。嬉しいな〜」

 秋の爽やかな風が、背伸びをしているディミの髪を揺らした。なんだかディミが楽しそうにしていたのが、妙に面白かった。

  

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2026年1月9日 19:00
2026年1月16日 19:00
2026年1月23日 19:00

洞窟の揺らぎ〜力とはなにか〜 千夢来人 @semurito

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