第030話:【活動報告】汚染データのクレンジング完了

 大書庫の復旧作業が一段落し、東の空が白み始めた頃。  俺は熱の引いた魔導盤(コンソール)に向かい、今回の事案に関する最終的な「活動報告(ログ)」をまとめていた。これは、自分自身の備忘録であると同時に、この砦……いや、この世界の「仕様」を把握するための重要なデータだ。


【事案報告書:北部辺境砦における大規模汚染のパージについて】


1. 発生事象の概要  外部ネットワーク(東方の吸血鬼真祖:呂后)より、未知の変異プロトコル『人豚の呪い』が当砦に強制インポートされた。これにより、駐屯騎士団の9割に肉体データの損壊(獣化)および、精神領域の乗っ取りを確認。


2. 実施した対策


不正規接続の遮断: 攻撃元からのトラフィックを一時的に隔離し、防御壁を構築。


リダイレクト処理の実行: 攻撃元が放った損壊命令を、その発信源である呂后本人へと全量転送。作成者本人の環境でバグを再現させることで、対象の論理構造を内側から崩壊させた。


データの物理削除(デリート): システム権限を奪取後、対象オブジェクト(呂后本体)を廃棄領域(ゴミ箱)へ強制移動。ゼロ書き込みによる完全抹消を完了。


3. 現状のステータス


騎士団: 正常なバックアップデータよりリカバリ完了。後遺症なし。


砦の魔力網: クレンジング(汚染除去)により、清浄な状態へ復帰。


未解決の課題: 『第七星』に続き『第六星』を抹消したことで、世界の管理権限の欠損が深刻化。連鎖的な不整合の発生を予測。


 俺は報告書の末尾に「以上」と打ち込み、ファイルを保存した。    ふと窓の外を見れば、朝日に照らされた広場では騎士たちが元気に訓練を再開している。自分たちが一度「ゴミデータ」になりかけたことなど、もう忘れてしまったかのような健やかさだ。  だが、俺の画面上には、以前よりも激しく不穏なアラートが点滅し続けていた。


『Critical_Warning: System_Instability_Detected』

『Missing_Nodes: SevenStars_No_06 & SevenStars_No_07(欠損を確認)』


 セブンスターズ。この世界という巨大なシステムを安定稼働させている、七つの超弩級権限(プロセス)。  かつてジャックを、そして今、呂后を俺の手で根こそぎデリートした。七つのうち二つまでもが「未定義(NULL)」となったことで、世界システムの根幹には、もはや隠しきれないほどの巨大な不整合(穴)が生じている。


 恐らく今頃、生き残っている他の「星」たちは大騒ぎどころでは済まないはずだ。  一つ消えた時点では「事故」で済ませられたかもしれないが、二つ続けて消えたとなれば、それは明確な「システムへの攻撃」と見なされる。


「……想定内とはいえ、いよいよ後戻りができなくなってきたな」


 重要パーツが二つも欠ければ、システムはその穴を埋めようと無理な負荷をかけ始める。  あるいは、空席となった「星」の座を狙って、野心溢れる新たなバグ(勢力)が侵入してくるか、残ったパーツ同士が暴走を始めるか。いずれにせよ、俺の平穏な「保守運用」の日々は、これで完全に終わりを告げたわけだ。


「レイン! またそんなところで画面を睨みつけてるの?」


 扉が勢いよく開き、アリサが朝食のトレイを持って入ってきた。  銀色の髪をポニーテールにまとめ、昨日までの悲愴感が嘘のような、活気に満ちた笑顔だ。


「お嬢様、ノックくらいしてください。今、重要なログの集計中なんですから」


「いいじゃない、終わったんでしょ? 騎士団長たちが、あなたに朝の挨拶をしたいって行列を作ってるわよ。……『守護者様にお目通りを』なんて、柄にもないこと言っちゃって」


「……ますます辞めたくなりますね、その手の接待業務(オーバーヘッド)は」


 俺は溜息をつきながら魔導盤を閉じた。  アリサが持ってきたパンの香りが、徹夜明けの脳に心地よく響く。


 世界がどうなろうと、俺のやるべきことは変わらない。  目の前で起きる不具合を潰し、お嬢様という名の不安定なシステムを安定稼働させる。  それが、この世界に「転生」という名のバグで放り込まれた、俺というエンジニアの職務だ。


「さあ、レイン。食べたら行くわよ。……今日はこれから、砦のこれからの運営について、あなたとじっくりお話ししたいんだから」


「……それ、会議(ミーティング)ですよね。長引かないことを祈りますよ」


 俺はアリサに促され、重い腰を上げた。  この世界のソースコードには、まだまだ俺の知らない「致命的なバグ」が眠っている。




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