第2話「これって異世界転生だよね?」③

「見つけろっていったってよ……」


 そもそもイースターエッグって卵なのか?

 それともアクセサリーみたいなアイテム?

 もっと情報が欲しいけど、聞ける雰囲気じゃない。


 俺はそうつぶやくと、足下の茂みを掻き分けたが、何もない。



 周りを見ると、イースターエッグを探し始めた人がチラホラいる程度で、殆どが状況を飲み込めずに、佇んでいる。

 中には探すことに興味を示さない人や、拒否をする人もいるけど、双子が何かを話しかけると顔色を変えて探し始めた。

 何をいわれたのかは分からないけど、エッグを探す他、俺達に残された道はなさそうだ。


 そんな中、首を傾げ訝しむ母さんは、大きく溜息を付いた。


「私達ゲームをさせられているの?」


「らしいが、今はあの双子のいう通り、イースターエッグとやらを探してみる他なさそうだな」


 父さんの言葉に渋々納得をした母さんと共に俺達は、白い階段を上った。


 上階に到着すると息を呑むほどに美しい光景が目に入った。

 細かな彫刻が施された白い宮殿に色とりどりの自然が混ざり合う。先ほどまでの無機質な空間とは正反対だ。


 既に視界のあちらこちらで人々がイースターエッグを探していた。

 まだ半信半疑でエッグを探す人もいれば、宝探しゲームだと思い楽しんでいる人もいる。


 父さん達は渋々といった感じだけど、俺はそこそこヤル気だ。

 こうなったらしっかりと楽しんでやる。


「見つけた」


 俺達の中で最初にイースターエッグを見つけたのはミツキだった。

 湖面の浅瀬に沈んでいた片手に収まるを掴みあげる。


 鏡面仕上げで角ばった形の卵だ。表面を青白い光の筋が走っている。

 なんだかすげぇハイテクと、変な魔法が混ざってる感じがして超カッコイイ。


「すんげー。なぁなぁミツキぃ。俺にも見せろよ」


「やだ」


 そういって俺が手に取ろうとした時、ミツキの姿がフッと消えた。


「え? ミツキ? おい、どうなった!?」


「ミツキ!!」


 俺と両親が叫ぶがミツキの返事はない。


 何が起こったのか理解できなかったが、慌てる俺達の視界内でも、エッグをゲットしたであろう人々が消えてゆくのが見えた。


 この双子、選定の義とかいって俺達をここで殺すつもりじゃないだろうな?


「ミツキに何をしたんだ! まさか……」


「安心なさい。エッグを見つけたら待機場所へ移動して頂きます」


 と、左の子供が微笑む。

 すかさず俺は訊ねた。


「待機場所? じゃあミツキは無事なんだな?」


「もちろん」


 何の確証もない。今は双子の言葉を信じ、指示されるままにイースターエッグを探すしかない。

 俺達は更に美しい迷宮の奥へと進んだ。


「最後まで見つけられなかったらどうなるのかな?」


 俺の質問に父さんが思案を始めると、神妙な面持ちでこういった。


「うーん。いことが起こるんじゃないか?」


 スルーを決め込む母さんの横で俺は真剣な眼差しを返す。


「例えば?」


「タルトっ。それ以上甘やかしたら母さん怒るわよ」


「お、おぅ」



「これね」


 次にイースターエッグを見つけたのは母さんだ。


 表面のカラフルな幾何学模様が秒単位で変化する。

 エッグの表面に模様は一つ一つ違うようだ。そのどれもが綺麗で神秘的だ。


 そして母さんが消えた。

 双子の言葉が正しければ、母さんはミツキと再会できているだろう。

 そうであって欲しい。


「あったぞタルト」


 父さんは、狼の石像の目に嵌っていた、非常に透明感のあるイースターエッグを掴む。


「タルトよ。エッグいエッグを見つけなはれ。 byダディー」


「任せろ。 byサン」


 ミツキも、母さんも父さんも消えてしまった。どうしてこんなことになってしまったのか?

 今朝まではいつもと変わらない普通の生活だったのに……。


 父さんとトイレの争奪戦をして、ミツキには洗面所から追い出され、母さんの作った美味い朝ごはんをお腹いっぱい食べた。母さんの味噌汁は最高だったよな。


 騒がしくて、時に喧嘩もするけど、俺にとっては楽しくて、幸せでそんな生活がこれからも当たり前に続くと思っていた。


 みんなで元の世界に戻りたい。

 そしてまた、そんな生活を取り戻したい。


 気付くと、転生者達の殆どがいなくなっていた。


 遂には、あれだけ賑やかだった空間に自分一人。

 不意に焦りと孤独感が募り始める。


 最後の一人になったらどうなるのか?


「あのさ。ラストワン賞なんて……ある?」


 双子にそう問いかけてみたが、無言だった。

 この双子は俺達に何を求め、何を期待しているのだろう?

 きっと意味があるはずだ。


「なぁ」


「なんでしょう」


「本当にまだイースターエッグは残ってるの?」


「はい」


「どれくらい?」


「まだ5万個ほど」


「え、そんなに……」


「ここまでイースターエッグを見つけられない馬鹿は、お前が初めてじゃないか? 良く見りゃとんだ馬鹿面だな」


「褒めるなよ」


「褒めてない。お前、口だけは達者だな」


 目に見える茂みは全て確認した。


 湖面も全部中に入ってまで確認した。


 石像、木々の間、細工された壁。

 どこを探してもイースターエッグは見つからない。


 本当に5万個もあるのか?


「なぁ、そろそろヒントくれよヒント」


「良いでしょう。どんな悪でも倒すことのできる最強の武器と、どんな攻撃をも打ち返すことができる最強の盾。世界を救ったのはどっち?」


「それってヒント?」


 両腕を組み深く考える。

 最強の武器と最強の盾……。


「いや、どっちも世界を…………救えないと思う」


「ほう。それは何故でしょう」


「何故って聞かれても、言葉では説明しにくいんだけどさ。力はいずれ力に飲まれるってな。本当に最強なのは武器や盾でもない。世界を救うのって心や言葉だったりってのがセオリーだろ? 最近みた異世界転生モノのアニメもそんなだった気がするし」


「だから、貴方はイースターエッグを見つけることができないんですね」


「え? それってどういう意味?」


「イースターエッグは力を求める者にだけ見えるのです。普通、どんな善人にも心の中に僅かでも力を求める心があります。でも貴方はその僅かな力の欲求すら無い」


「本当に人間かお前?」


 右の無愛想な子供が訝しむ目で俺を見つめた。


「普通に人間だけど。でも、それって俺がヤバいってこと?」


「1つ勘違いしないよう説明すると。イースターエッグ選定の義は人間がエッグを選ぶのではありません。エッグが人間を選んでいるのです」


「つまり?」


「普通のイースターエッグは、『力を欲する心』に焦点を合わせています。ですが貴方はその焦点が完全にゼロのため、エッグの認識範囲外なのです」


 螺旋階段の間を緩やかに上昇していくのを、俺は階段を上って追いかけた。


 謎が謎を呼ぶとはこのことか?


 俺は他のみんなと違うらしい。だからイースターエッグが見つからないってことみたいだけど。 これでエッグが見つからなかったら……俺、どうなるの?

 不安だ。


 最上階のフロアに到着すると、双子はまた俺の方へ振り返った。


「力を欲する者にイースターエッグは見つけられますが、力を求めない者にしか見つけられない特別なエッグがあります。これはこの部屋にイースターエッグを保管してから3万年の間、一度も見つけた者はいませんでした」


「それって一体……」


 双子は俺の質問に対して言葉を返す代わりに、俺の足下を指差した。


 見下ろすと、そこには真っ白な卵が落ちていた。

 スーパーマーケットで良く目にするであろう普通の卵だ。


「あ……った」


 なんとも有り難みのないイースターエッグだ。

 もっとギラギラしてカッコイイのを期待していたのだが……。


「そのエッグは特別です。ノーネームエッグと呼びます」


「ノーネーム?」


「まだそのエッグにはスキルが宿っていません。所有者次第でスキルの効果が変わるのです、そう貴方の素質や性格がスキルに反映されます。すごく強力な力を持っていますが、1つ欠点があります」


「なんだよその欠点って」


「攻撃ができません」


「え?」


「力を求めぬ者に破壊の力は不要です。そのエッグで貴方はどんな答えを異世界で導き出すのか? どんな結果へと辿り着くのか? 私達も非常に興味深く、そして興奮しています」


「のわりには、凄く無表情だな」


 強力なスキルを持つノーネームエッグだけど、攻撃ができないって。

 それって何ができるんだ? 回復? バフ系?

 間違いなく頭を使う戦い方しか出来ないヤツじゃん。


 まぁいっか、俺、自慢じゃないけど――超がつくほど平和主義者だし、喧嘩は苦手だ。


「知っています」


「あのさ、このノーネームエッグって、他のエッグとは全く違うってことなんだよな? なんで俺だけに見えたんだ?」


「さっきもいいましたが、更に補足すると他のエッグは『破壊と創造』の力を根源に持ちます。しかし、ノーネームエッグはその対極に位置する『修復と連結』のためのもの。力ではない、ただの『始まりの器』なのです」


「うーん。結局よく分からないなぁ」


「そして貴方にしか見つけられなかった理由ですが。偶然、貴方が『力への欲求がゼロ』の状態でここに転生したという偶然の産物です。選定の義は、あくまでエッグが『使える人間』を見つけ出すための、単純なフィルタリングに過ぎませんから」


 無愛想な子供が卑しい笑みを浮かべた。すこし憎たらしくも思えてきた。


「特別なノーネームエッグだからって最強とは限らねぇぜ。お前がクソならそのエッグもクソエッグになっちまう。ま、お前次第ってことだ。ケッケッケ」


「俺次第か……なんかスゲー不安だ」


「では、次の部屋へ参りましょう」

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