第2話「これって異世界転生だよね?」①
――なんだか……凄く清々しい。
まるで俺の中の穢れが落ちて、全てがクリアになったかのような。
「……ト。……ルト」
誰かの呼びかけに気付き、俺はハッと目を覚ます。
そこには、ホッとした表情を浮かべる母さんがいた。
俺は眠っていたのか?
揺すっていた俺の肩から手を離すと、力いっぱい抱きついてきた。
少し苦しい。
あれ、焦げた臭いがしない……それに熱くない。
「タルト。やっと目が覚めたのね」
「か……あさん。俺、スゲー嫌な夢を見てた気がする」
とは言ったものの、どんな夢を見たのかは思い出せない。
それよりも、どうして母さんの表情はすぐに不安の色でいっぱいになったのだろう?
何が何だか分からないまま上半身を起こすと、周囲には凄まじい数の人々が俺と同じように横たわっていた。
他の人たちも俺と同じように、ゆっくりと立ち上がり周囲を虚ろな目で見渡す。
あの人は確か見覚えが……何かを叫んでいたような。
けたたましい警報音の中で!
その時、恐ろしい光景がフラッシュバックのように頭に蘇った。
――東京スカイツリー。展望エリア。
――閃光。
――爆発、悲鳴。
――崩落……。
そこでようやく、俺は目を覚ます以前の出来事を思い出したんだ。
「ちょっと待ってっ……え? 俺達、無事なのか?」
あの時に感じることを忘れていた体の反応が、今になって滲み出してくる。
やべぇ、心臓がバクバクして、冷や汗が止まらねぇ。
手足も震えてガクガクだ。
何を
とようやく、周囲の光景が目に入ってきた。
てか、ここって……スカイツリーじゃない……よな?
そこはどう見ても、さっきまでいた場所とまるで違った。
とにかく白い。そしてバカほど広い。
天井が高すぎる。体育館の10倍はあるか?
無数に見える柱も大理石みたいだし、触ったら……カチカチに冷たい。
無限に続く大聖堂みたいだ。
これだけの建造物なら東京都内でもかなり目立つはずだけど……。
俺が知らなかっただけか?
それより俺達は誰かの手によって、ここへ運ばれたのだろうか?
それともまだ夢? なワケないよな。
ミツキは母さんと父さんを不安そうに見つめながら、俺の手をギュッと握り締める。
「ミツキ。大丈夫さ。きっと父さんも目を覚ますよ」
「ねぇ、私達……死んじゃったのかな?」
「え?」
突拍子の無いミツキの言葉を聞いて、一瞬、耳を疑ったが、何故だか否定できない俺がいた。
今、生きている感覚は確かにある。
だけど、目を覚ます前の光景はまさに『人生の最後』を感じざるを得なかったからだ。
――爆発とスカイツリーの崩落。
あの状況から助かったという記憶がない。
なら、この感覚はなんだ? 錯覚ってことなのか? ダメだ! 頭ん中がぐちゃぐちゃして何が何だか分からない。
「やっぱり俺達死んだのか?」
ミツキはここが死後の世界だといっている。
馬鹿げたことに聞こえるけど、そう考えるほうがしっくり来る。
同じような声がチラホラと周囲からも聞こえてきた。
――「俺達……助かった……のか?」
――「でも俺、展望台から外に……。絶対に死んだはずだよ」
――「いや、私達は集団催眠に掛かってるのよ。きっと」
――「共通点ってないか? お前が朝起きてからどんな行動をして、誰と話した?」
パニック状態になる者、未だに状況が理解できずに呆然とする者、ロジカルに状況整理をしようとする者や、いっそのことファンタジーやスピリチュアルを受け入れる者。この中に答えを導き出せる人はいるのだろうか?
「うわっ」
と父さんが声をあげながら飛び起きた。
さっきの俺みたく、状況を飲み込むまで時間が掛かりそうだ。あちこち見ては呆気に取られている。無理もない。
暫くしてから、もう一度俺達の姿を見て、ようやく安堵が混じった息を吐いた。
「リツコ。ミツキにタルト。何が起こったのか分からんが、とにかく無事でよかった」
「ミノル……まだ無事かは分からないの」
母さんの言葉を聞いた父さんは、ゆっくりと立ち上がり、さっきよりも遠くへと視線を巡らせた。
暫くしてから父さんが神妙な面持ちで口を開いた。
「ここは……アイドルのコンサート会場か!」
「絶対違うでしょ」
母さんの鋭いツッコミが入る。
すかさず俺が間に入った。
「父さん……何てアイドル?」
「バカタルトっ。アンタ直ぐに間に受けるんだから」
その時、みんなが急に静かになった。
頭上の一点を見つめているようだ。
何が見えたんだ? 俺達もその方向へ視線を向けた。
小さな二人の子供が……浮いている。
顔がそっくりだから双子なのか。
陶器のように白く、あどけない表情からは性別が見て取れない。
純白のキラキラとした羽衣。
きめ細かくサラサラとなびく髪は、一本一本が白い光を放つ光ファイバーのようだ。
見たことのない程に澄んだ瞳は、その中に幾つもの銀河があるかのような美しさがあって、見つめていると意識が吸い込まれそうになる。
きっとあの目で見つめられたなら、俺の心の中を全て見透かされるんじゃないか。という神秘的かつ不気味な感覚を覚えた。
子供だけど子供らしさを微塵も感じさせない神々しさと、どこか異質な冷たさが共存していた。
左の子供に耳打ちをされた右の子供が、舌っ足らずな口調でこういった。
「貴様らに異世界転生をさせてやる。感謝するように」
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