時々、時田

蛍雪

第1話 より戻す?

 時田ときたは私の『元カノ』だ。


 私たちは1ヶ月前に別れた。理由は、時田がお盛ん過ぎるからだ。毎日毎日、抱き潰されていては私の身が持たない。だから一旦距離を取ろうと別れた。はずだった…


「ね、私たちって別れたよね?」

「ん、だから平日は来ないじゃん」


 ソファに寝っ転がりながら無駄に長い脚をバタつかせて、適当な返事をするコイツこそが時田その人だ。


「別れたのに、週末に2人で遊んだり、セックスしたりって不健全じゃね?」

「私たちがいいなら、いいじゃん」

「…じゃあ、いいか」


 時田は変った奴だけど、嫌いになったから別れたわけじゃない。

こんな理屈で納得してしまう私にも問題がある気がしなくもないから、これ以上は何も言うまい。


「ちょっと詰めて」


 私がソファに座ろうとすると、時田は「ちぇっ」と舌打ち風の音を発しながら

ノソりと身体を横にずらした。


 私は彼女を無視して、リモコンを手に取りアメプラのボタンを押す。

映し出されたホーム画面には、おもしろそうな新着映画やアニメが沢山あって、全然

追えていないことがもったいないなと、いつも思う。


「時田は、なんか観たいのあるー?」


 時田の脚を叩いて問うと、時田はスマホから目を反らさずに「おすすめで」と言う。相変わらず丸投げだ。今まで選択に文句を言われたことは無いから良いけど。


「じゃあ、この『多頭シャーク 5』」

「…いいじゃん」


 サムネイルから溢れるB級感に惹かれて視聴を決定した。




「ねぇ…これ、頭いっぱいある必要あった?」


 エンドロールの最中、時田が絶対に言ってはいけない疑問を口にする。


「あれじゃん……映像の派手さ、的な?」

「なーる?」


 テレビを消して時計に目をやると、もういい時間だ。

時田は立ち上がり大きく伸びをして、欠伸をしている。


 正直、今の時田との関係は付き合っていた頃よりも、うまくいっていると思っている。もともと友人だったのもあるだろうけど一緒に遊べば楽しいし、セックスの

頻度も今が丁度良い。

 

 距離を取ったからこそ、見えてきたものがあるように感じている。


「明日学校だし、そろそろ寝る」

「私もー」

 

 しれっと私のベッドで寝ようとする時田を、客用に準備した布団に押し込めて

眠りについた。


 付き合っている頃は、こんなに穏やかな夜を想像すらしなかったから

別れてよかったと、心の底から思う。ポジティブな意味で。




***




 眠い目を擦って、吹き抜ける風の中を時田と大学へ向かう。

1限は必修だから遅れるわけにはいかない。不健全な私生活に反して

学生生活は真面目なのだ。

 

 寒いかと思ってカーディガンを羽織ってきたけれど、歩いていたらすぐに要らなくなった。時田は長袖のブラウスを着てきたことを早くも後悔しているように見える。

額や首に汗を浮かべ、普段より艶めかしい彼女にはグッとくるものがある。


「…何?」


 視線に気が付いた時田が、ギロリと顔を覗き込んで来た。


「いや…汗ばんでてエロかったから、つい…」

「うわ、変態っぽ」


 素直な感想を述べただけなのに、冷ややかな眼差しがグサグサと突き刺さる。

変態なのはお互い様だろう。

私を散々寝不足にさせた日々を忘れたとは言わせないぞ。


 


 少し早かったのか講堂の中には人が疎らだ。私たちは前から5番目の

丁度良い席に腰掛けて時間を潰すことにした。


「今日バイトは?」

「午後から、時田は?」

「夜から」


 平日は家に行かないし、上げない。別れた後の数少ない変化の1つだ。

けれど、今でも互いに憎からず思っているから相手の行動は普通に気になる。


「夜勤の方が時給良いよ」

「夜は眠い」

 

 隣でカタンと音がして、長机に振動を感じたので左を観ると、私たちの共通の友人 麗奈れいなが隣に座っていた。


「おはようございます」

「おはよう麗奈」


 麗奈は屈託のない笑顔で挨拶したかとおもえば、キョロキョロと周囲を見渡して声を落とした。


「お2人は付き合っているんですか?」

「「そー」」


 私たちは息を吐くように白い嘘をついた。否定して説明するのも面倒だし

この手の質問は否定しないことにしている。

それに純真無垢な麗奈に「付き合ってはいないけど、頻繁に遊ぶし、週末は

セックスするような関係」だなんて言えるはずがない。


「やっぱり~そうなんだ。応援してます」

「ハハ…ありがとう」


 乾いた笑いが漏れる私たちを見て麗奈は一切疑う様子なく、ニコニコと笑っている。育ち良さそうだもんな、この子。




 90分後、講義が終わったから、時田を叩き起こして講堂を後にする。


「またね。麗奈」

「はい」


 構内にある人気ひとけの少ないベンチで時田が、私がしたような質問を口にした。


「私たちって付き合ってないよね」

「そだね。より戻したい?」

「草生える」

「だよなー」


 人に聞かれたら「そうだ」と言い、彼女に聞かれたら「違う」と言う。

けれど、どちらも次を探さずに互いを見ている。

客観的に見たら不思議な関係だろう。ただの友達ではないけれど恋人ではない

今はこの、幸せを共有できる陽だまりのような関係性が心地よい。


「じゃ、また明日」

「ばいばい」




 









 




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時々、時田 蛍雪 @Syunnminn-Keisetsu

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